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やばいです好きです(語彙無)
『別世界』日本編2
過去編『自己嫌悪と変わりなき日常』
電車に揺られ十分、徒歩五分。片道計十五分の兄と同じ大学に到着した。
自身の校内に入ると見知った顔ぶれがあった。
新入生である我々は今後生活する上でなるべく浮かないよう、ある程度話せる人を作っておかなければならない。
そんな中唯一気が合いそうだと思える相手を見つけることが出来た。
「よぉ、日本」
それが今話しかけて来た相手、ロシアである。
こいつは身長が他の奴らと比べてもでかい。
顔を覚えるのが苦手な私にとって身長が目印になるのは非常にありがたい。
「おはようございます」
彼は無用な世辞笑いをせず声のトーンも低めな為、こちらも強く気遣いする必要が無く、そう言う面で気が合った。
「一限目なんだ?」
「あぁ、第二外国語です」
「ほーん」
自分で聞いてきた癖に興味無さそうに返事をする。
またその適当さも私にとってはまたちょうど良かった。
「ロシアは?」
「俺は政治学だが」
「そうですか。頑張ってください」
「さんきゅ」
朝のタスク…「人と話す」を終えたので、彼に手を振り自分の行く教室を確認する。
「講義室はC-31…あれ、遠く無いですか??」
………遅刻しそう。
体力は無いので早歩きで懸命に教室に向かい始めた。
「つっっかれた…」
高校に入って以降運動なんて全くと言っていいほどしていなかった。
たとえ短い距離だとしても、こんなに急いで歩くと息が上がってしまう。
黒板の隣にある座席表を見て自分の座席を確認する。
語学の授業は指定席なため、自由に座ることが出来ないのだ。
授業を受けるのが5回目の生徒たちは少しだけ慣れたように自分の席にそそくさと座る。
席につくと先生がやってきて黒板の前へと立つ。
今日は講義の最後に確認用の小テストをやるらしい。
生徒たちが普段より緊張し、皆背筋を伸ばし強張った体で教卓の辺りを食い入るように見やる。
そうして授業は始まった。
あれから5分、たったのか経ってないのか、それくらい。
ドンッ!!!!…
「すんません遅れましたー!!!」
壊れそうな勢いでドアを開け、講義室全体に行き届く大きな声で遅刻報告をする生徒が来た。
サングラスに半袖短パンのいかにもな陽キャらしい格好をしている。
講義室で授業を受けていたうちの数人がソイツに何かを囁く。
一年にしては知り合いと仲良い人が多い気がする。こいつもしや二年次以上か。
「アメリカお前また休むかと思ったぞ。まだギリギリ遅刻に入らない時間だ、さっさと座れ」
「うーん、席が分からん。後ろのドアから入っちまったせいで前の座席表見に行きにくい。俺の席知らない?」
「あー、あの、ほら、あそこ。顔が赤と白の人。あの人の右隣。」
「お、さんきゅー!」
顔が赤と白の人の隣…
考えてる内にそいつは私の右隣に座った。
そうして慣れた手つきでページの節々が折れ曲がり付箋の付けられた教科書を広げた。
あぁ、これから一年間毎週こいつの隣で受講しなければならないのか。
今まで右隣の席が空いていたから、おかしいと思ってはいたが…最初の講義から4回連続で休む人と同じ机など…
今日は運が悪いのか嫌なことばかりだ。
この一年、頼むから私に関わらないでくれ…。
あれから85分ほど時間が経ち講義も終わった。
そんな時であった。
「なぁ、お前の名前なんだ?」
教科書やら筆箱やらをリュックに入れ立ち上がろうとした時であった。
恐る恐る右隣を見るとアメリカ…だったか、こちらに話しかけているのが分かる。
「日本ですが何か」
「あー………いやすまん。人違いだったみたいだ。引きとめて悪い」
人違い…と言うには違和感のある物言いにどうにも居心地が悪く、
そうですか。と足早にその場を去った。
先ほどの名前確認は知り合い…いや、話しかけ方的にそう仲良くも無いが気になっている相手に話しかける感覚であった。
…誰と間違えたのか。
その後はお昼まで別授業を受け、たまたま会ったロシアに昼食を一緒に食べないかと誘われた。
特段食べる相手も居ないので了承すると、共に食堂に歩を進めた。
とは言え食事する時は口が閉じるもので、向かいに座りはしたものの話すことはほとんどなかった。
10分ほど無言で食べ続けて、半分ほど食事が無くなってからロシアが口を開いた。
「次の授業、お前も経済学だったよな?」
「そうですね、前回の講義は中々難しいかったですよね」
「わかる。そも内部事情とかむずいの権化だよな」
「今日はあれの続きですよ…」
「一緒に頑張るぞ」
そうして2人はまた口に箸を運び始めた。
経済学の講義は思っていた以上にはやく終わった。
きっと特別興味があったからだろう。
今日は三限目まで私と違い、ロシアは四限もある。
この日は適当に挨拶をし私は大学から離れた。
「…はぁ」
家に帰ると目の前に広がるのは一面のダンボールと投げ捨てられた服の山。
2ヶ月間一人暮らしするとこんなにも汚れてしまうものなのか…
とはいえ私には部屋を片付けるほどの気力も体力も無い。
今まで兄上に任せていた罰なのだろうか。
ゴミをかき分け進むとパソコンとのご対面を果たす。
倒れ込むように椅子に座るとすぐさまスイッチを押し画面を映し出した。
今日もいつも通り創作活動に生を出す。
中学以来全くやっていなかった私の数少ない趣味である。
お金にもならず、知識として何か加わる訳でもないそれは一時的に私の心を満たしてくれる。
だが完成した後に過程を振り返るとどうにも時間を無駄にしたと言う気が強くなってしまい毎度死にたくなる。
私にとってその時間は必要だったのだろうか…?と
そんな無意味な問いに答えが出るわけでもなく、ただの趣味である故それに意味を見出すのはおかしなことだ。と毎回勝手に結論付ける。
そうやって雑念を押し込めまた作業を再開するのだ。
そうして気づくと夜中になっておりいつも寝落ちする。
今日もいつも通りの日常を謳歌できた自分を褒め、私は意識を失った。