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翌朝、オフィスの空気は昨日よりも少しだけ柔らかくなっていた。新しいメンバーの風滝涼は、相変わらずクールな表情で営業部のデスクに座っているが、その姿はどこか社内に馴染み始めているように見えた。
山下葵は自分のデスクで、システムトラブルの続報を確認しながらも、風滝のことが頭から離れなかった。彼が仕事に対して真摯で、かつ的確な指示を出す様子は、エンジニアとは違う種のプロフェッショナルを感じさせた。
午前中のミーティングでは、営業部とエンジニア部の合同プロジェクトの話題が挙がった。風滝は積極的に意見を述べ、細やかな顧客ニーズを伝えつつ、エンジニア陣と橋渡し役を務める姿が印象的だった。
「山下さん、この件はどう思いますか?」
風滝の声が葵の耳に届いた。彼がデスクの間を歩きながら、資料を手渡す。
「うん、コードの調整は必要だけど、技術的には問題なさそうです。これなら来週のリリースに間に合うと思います。」
葵は端的に答え、モニターに視線を戻す。風滝は軽くうなずき、その場を離れたが、彼の目は葵の作業ぶりをじっと見つめていた。
昼休み、社内のカフェスペースで同僚の美咲と一緒にいた葵は、ふと風滝の姿を探した。彼は一人で窓際のテーブルに座り、資料を読み込んでいる。
「一人でランチか。真面目だなあ。」
美咲が小声で笑う。
「そういうところ、ちょっと気になるよね。」
葵は苦笑しながらも、どこか嬉しさを覚えた。
午後になり、風滝が葵の席にやってきた。
「山下さん、さっきのコードの件、少し相談があるんですが……」
彼は控えめに話し始め、二人でモニターを囲んだ。風滝はエンジニアにはない視点から、顧客のニーズや営業的な観点で意見を出す。葵は彼の言葉に耳を傾け、時折うなずいた。
「なるほど、そういう考え方もあるんですね。」
「山下さんの技術力があるから、こうした提案ができるんですよ。お互いの強みを活かせれば、もっといいサービスになりますね。」
その言葉に葵の心が少し暖かくなった。彼と仕事をすることで、自分の視野も広がっていく気がした。
夕方、業務が終わった後、葵は書類を片付けながらふと気づいた。
「風滝さん、意外と話しやすいかも……」
その時、風滝がまた声をかけた。
「今日の打ち合わせ、ありがとうございました。山下さんと話すと、仕事も楽しくなります。」
葵は驚きつつも、少し顔を赤らめて答えた。
「こちらこそ、ありがとう。これからもよろしくね。」
二人の間に、ゆっくりと芽生え始めた信頼と友情のようなものがあった。まだ恋愛には遠いかもしれないが、確かに何かが動き出しているのを感じていた。