旅館に戻って屋久島へ行く準備をしながら私は荷物の整理をするために部屋を出て、戻ってきたらそこにはカレンが居た!はぇ!?何で!?
「ティナ~!久しぶり~!」
「かっ、カレン!?なん……わぷっ!?」
そのまま笑顔で走ってきたカレンに抱きしめられた。アメリカンらしく背が高いから必然的に私の顔はカレンの豊満なお胸様に埋もれるわけで。
「会いたかったよー!元気そうで良かったー!」
「むぐぐっ!」
男のロマン、女性の胸で窒息何て言うけど、実際にされたら息苦しくて堪らないっ!かといって押し退けたら怪我をさせちゃうかもしれないし、どうすれば!?
「カレン、離してあげないとティナが窒息しちゃいますよ?」
「おっと、ソーリーソーリー!」
「ぷはぁあっ!」
フェルに助けて貰って、目一杯空気を吸い込んだ。嗚呼!呼吸ってこんなに素晴らしいことなんだ!ビバ呼吸!全ての空気に感謝!
「お姉ちゃんが変な扉を開いちゃうから気をつけてね~☆」
「はっ!?」
危うくトリップするところだった。ばっちゃんに助けられて……うん?カレンがばっちゃんをじっと見つめてる。あっ、ばっちゃんが後退りした。でももう遅い。
「きゃあああ~~ッッ!!可愛い~!」
「ふぉおおおっっ!!?」
今度はばっちゃんが犠牲になる番だっただけだ。小柄だから抱っこされてるし、見た目だけなら仲の良い姉妹だね。うん。
よし、本題には入ろう。
「フェル、なんでカレンが居るの?」
「連れてきてしまいました」
「いや、連れて来たって……ジョンさんには連絡したの?」
「あっ」
「え?嘘でしょ?フェルが?」
大慌てでジョンさんに連絡を入れたら、カレンの派遣は決まっていたみたいだけど、メッセージを読んだフェルが転移で往復して連れてきたと。
……日本と合衆国って八千キロくらい離れているよね。しかもそれは西海岸、異星人対策室は東海岸にあるから一万キロ近くは離れてるんだけど。転移で休まずに往復?
……相変わらずのチートっぷりに笑うしかなかったよ。まあ、フェルにとってもカレンは初めて出来た地球人の友達だ。ちょっとテンションが上がってしまうのも仕方無いんじゃないかな?多分。
『異星人対策室は大騒ぎですが』
「アリア、ジョンさんへのお詫びを考えないとね」
『栄養剤ですか?』
「あげないからね?」
隙あらば地球人に栄養剤を投与しようとするんだから。カレンもばっちゃんと色々やってるけど、巨大化なんて能力を獲得しちゃったんだよねぇ。
……ヒーローかな?
「ティナちゃんへルプー!」
ばっちゃんからの救難信号が出ているけど無視した。がっつりアード語だから、カレンには分からないはず。
ばっちゃんは今、カレンにだっこされてぐるぐる回転してる。意外とカレンは身体能力も高いし、私がやらかした後は更に色々強化されているらしい。私としては滅茶苦茶複雑だけど、本人が喜んでいるから気にしないことにした。
しばらくばっちゃんを振り回したり、私やフェルとハグしたりして暴れまわっていたカレンもようやく落ち着いてくれた。
「もうお嫁に行けない……」
「あははっ、ティリスちゃんは私が貰ってあげるよ!」
「カレンちゃん男前っ!☆」
「行き遅れ(千歳)」
「笑うな☆」
「あはははっ!フェル、連れてきてくれてありがとね!」
「地球を回るんですから、地球人のカレンが側に居た方が心強いですから」
「むむっ、それは責任重大だなぁ!任せてよ!日本は初めてだけど!」
「意味ないじゃん!」
「あはははははっ!」
本当に良く笑うようになったなぁ、嬉しいよ。カレンは元気な子だしね。
「意味がないんですか?地球の事なのに?」
「国が違うからねぇ。国が違えば文化も違うから、勝手が違うと思うよ」
ある程度文化等も統一されているアード人やリーフ人からすれば、地域で風土や文化が違うのはあんまり理解されない。
「そうなのですか?」
「不思議だよねぇ、同じ星なのに☆」
「海が大陸を分けていたし、環境もバラバラだけどね」
陸地が少ない代わりに私達アード人には生まれながらに自由に空を飛べる翼があるし、最大ではある程度の事ができてしまう魔法もある。
島と島の交流も盛んで、早い段階から文化を含む人々の統合が成されてきた……って学校で学んだ。実際のところは分からないけど、今のアードに地域の特色や風土の違いは存在しない。
強いて言うならうちの里にはイロモノな長が居るくらいだ。
「ティナちゃんが失礼なことを考えてるような気がするぞ?☆こんな今時の美少女に☆」
「今時の美少女(千歳)」
「笑うな☆」
まあ良いや、取り敢えずジョンさんのメッセージを読む限りカレンの同行は合衆国の意志みたいだし、私としても大切な友達を蔑ろにするつもりはない。
合衆国で体験したイエローストーン国立公園でもそうだけど、一緒に回りたかったしね。
「フェル、一人増えたけど転移は大丈夫かな?」
自分一人で転移するのは簡単らしいけど、他に誰かを連れた転移は相応のマナを消費するらしい。私には到底無理だから分からないけどさ。
「行き先の距離に因りますね。例えばあの衛星……月でしたっけ?彼処までなら三人を連れて転移することは出来ますよ?」
可愛らしく首を傾げてるけど、とんでもないことだからね?地球から月まで三十八万キロ離れてるんだけど。
「ティナちゃん、屋久島への距離は?☆」
あっ、ばっちゃん翻訳したままなのに。まあジョンさんは正体を知ってるし、カレンも言い触らすような娘じゃないしね。
「大体千キロくらいかな?」
「意外と近いんだね?」
「カレン、ここは日本だから十分に遠いよ?」
合衆国の感覚なんだよなぁ。まあでも、転移に問題はないことが分かっただけ良いか。
「フェル、ごめんね?負担が増えちゃうけど」
「皆と一緒に居られるなら私はなんだって苦にはなりませんよ?」
「良ぇ子や……」
「ホンマですなぁ……って、なに言わせるのさ」
「それでティナー、何処へ行くの?」
「屋久島だよ」
「オー、ヤクシマ!古くて大きな木がたくさんある島よね!」
「そうだよ。じゃあ、行ってみよっか。フェル、お願い」
「はい、行きましょう。転移!」
次の瞬間、彼女達は光に包まれて姿を消した。行き先は屋久島。悠久の時の流れを生きてきた木々の有る島。
尚、しれっと護衛対象が増えたことを知った日本政府の苦悩は言うまでもない。