テラーノベル
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珍しい事に、弟からファミレスに呼び出された。
なんでも友達の話を聞いて欲しいんだとかって内容で、どうやら俺の意見を求めているらしい。
だったら家に連れてくりゃ良いのに、なんて思ったりもしたが。
まぁ時間があったので良いかって事で。
バイクをかっ飛ばして、いざ現場に向かってみると。
「ごめんね兄貴、呼び出して。仕事中じゃなかった?」
既に席に着いていた弟の元へと向かってみると、隣に座っていたのは……おやおやおや?
女の子ではないか。
これなら確かに、いきなり家に連れて来るって訳にもいかねぇわな。
なんて、納得出来れば良かったのだが。
コイツが引っ張って来られる女子と言えば――
「白川さん、これが俺の兄貴」
「は、初めまして。白川 夢月って言います……黒沢君とは、えと、お友達と言いますか。普段から、お世話になっております……と、言えば良いのか」
やけに緊張した様子の小っちゃい子が、赤い顔のままペコペコと此方に頭を下げて来た。
って……やっぱりシックスかぁぁい!
おい、予想外の所で顔合わせが叶っちゃったよ。
弟も居る状態だから、お互いに賞金首だって明かすのは不味いんだけども。
担当、コラ担当。
ウチの弟の方が先にアポ取っちゃったぞ、ちゃんと仕事しなさいよ。
などと思いつつ、ヒクヒクと口元を揺らしながら此方も頭を下げてから。
「ハ、ハジメマシテ……コイツの兄貴の、黒沢 涼介って言います。以後お見知りおきを……」
いやもはや声でバレるだろ、俺ボイチェン使ってねぇし。
とか何とか警戒したのだけれども、白川妹の様子は変化無し。
お、おやおやおや? これはもしかして、気が付いてない?
弟同様……やはりニブチンの若人って認識は間違っていなかったのか?
なんて、思わずジロジロ観察してしまったが。
話には聞いてたけど、シックス小さっ!?
本当に弟と同級生かよと思ってしまう程に、ちっこい女の子だった。
こ、これでゲーム内ではあの“6key”やってんだもんなぁ……。
白川兄から、のめり込むのが得意な少女だとは聞いていたが。
こんなにもサイズの違いがあって、よくあれだけ動けるもんだよ……。
「ちょっと兄貴、ジロジロ見すぎ」
「え? あぁ、わりぃわりぃ。弟が急に女連れで現れたから、驚いてるんだ」
「そ、そういう言い方しないでよ!?」
現太とそんな会話をしている間も、シックスは恥ずかしそうにしながら俯いたり、チラチラと此方に視線を向けたり。
うーむ、この小動物感。
コイツのファンが見たら、いったいどんな反応を示す事やら。
◆
その後詳しい話を聞いてみれば、どうやら此方の白川妹。
VRあるあるとも言える逆転現象が発生してしまったらしい。
とはいえ、問題になる程大きな症状という訳でも無さそうだが。
だが俺としては、驚いたのは原因が6keyではない事。
何でもサブキャラ……でいいと思うんだけど、スピードに極振りしたキャラを扱い始めてから症状が現れたんだとか。
しかも聞けば聞く程、身体的な特徴は今の身体に合わせたキャラだとか。
なぁ~るほど。
シックスの担当からは、“キッチリ戻る”みたいな事を聞いていたけど。
こいつ、頭が良いタイプというか。
これまではキッチリ、ゲームと現実を分けて脳みそが働くタイプの様だ。
それが今回、自らの特徴に近いキャラクターを使った事でごっちゃになっていると。
「兄貴も、それこそ“プロ”になる為の練習とかやってた時、結構あったよね? やっぱり、それと同じなのかな?」
やけに心配そうな表情をした弟が、これまで見た事無い程真剣な顔を浮かべている訳だけども。
まぁ、こういうのはニュースとか見ているだけだと重大な事故に繋がる~みたいな印象が強いわな。
それこそゴシップとして、ゲーム脳がどうとかなんて古臭いワードを引っ張り出して不安を煽って来るくらいだし。
だが実際にVRゲームにのめり込み、勘違いではなく実際に身体に影響しているソレってのは。
「運転免許を取ると、急に他人の運転が怖くなったり、ジェットコースターに乗れなくなったり。そういう話って聞いた事あるか? この感覚が一番近いと言って良いと思う」
「え? えぇと……ちょっと、よく分かりません。私、運転免許持ってないので……」
ポツリと呟いてみると、相手は何とも自信無さそうに、というか申し訳なさそうに答えてくれる訳だが。
いや本当にシックスなんだよな? 実は白川妹の妹で、シックスの正体は姉の方でした~なんて事は無いよな?
などと思ってしまうくらいに、物凄く自信無さそうだなこの子。
いや、逆にこういう子だからこそ……“リアルの自分”を、どこまでも低く見ているのかもしれないけど。
「それじゃ、運動会で親御さんがリレーに参加して、派手にコケてる所とか見た事無いか?」
「どう……でしょう? 私のお父さんは、基本的にそういうの参加しないので。あっ、でも……他の親御さんなら、たまに? 居た……気がします」
これまたポツリポツリと呟くシックスに、ようやく伝わったかと安堵の息を零してから。
「あぁいうのはな? 自分の記憶と、自分の身体の差異から発生する……所謂バグみたいなもんだ。頭ではこれだけ出来ると仮定しているのに、実際には身体が追い付かない。この誤差に、心身ともに微妙な疲労感が溜まる状態だな」
「えぇと……?」
未だにちょっと理解出来ていないらしく、不思議そうな顔を向けられてしまったが。
こればっかりは、ちゃんと理解しないと実感出来ないだろうな。
身体が動かなくなったおっさんの気持ちになれ、とは言えないので、出来れば運転の方で理解してもらえれば早かったのだが。
「簡単に言うとな、頭がVRの方で“感覚”だけ成長している状態だ。初めに言っておくが、悪い事じゃないぞ? 病気とかでも無いから、そっちは安心して良いと思う」
「つ、つまり?」
「お前は、超高速で動く術をVRで手に入れた。その時に注意してる事は何だ? 車だってとにかくアクセルを踏めば速い訳じゃない、その速度に合った“制御力”と“判断力”が求められてくる。多分、白川妹に起こってるソレは。注意力と監視能力の向上、それから反射的に状況を理解する判断力が向上したからこそ発生しているだけだ」
実際、あるあるなのだ。
VRで経験したからこそ、出来る気になる。
こればっかりは、仕方のない事。
そもそもその“知識と経験”を蓄える為に、VRで研修させるなんて仕事場だって現実にある。
でも身体の方は馴染んでいないから、誤差が生まれてつっかえる。
そっちに関しては、それこそ“リアルでの経験”が大事になって来るとしか言えないのだが。
「俺も専門家って訳じゃないから――」
「あれ? 兄貴、今“白川妹”って……」
「…………お前から、彼女の話はちょっと聞いていたカラネ。お兄さんが居るって、知ってたんだヨ」
「あ、そっか。ご、ごめんね白川さん。勝手に話しちゃって」
「い、いえ! それくらい、全然。呼びやすければ、白川妹でも、平気ですので」
あっっぶな、物凄く素が出たわ。
弟から、妙な所で話の腰を折られてしまったんだけども。
まぁ良い。
多分白川妹に発生している不調は、まさにソレ。
運転技術を学び、そして理解が深い、または自らの能力が向上した者ほど起きる様な……他の人の運転が怖い、に近いんだと思う。
無知な内は席に座っているだけで目的地に到着する、便利な乗り物。
それが自ら運転できるようになった瞬間、相手がどれ程適当な運転をしているのか分かる、みたいな。
まぁここまで行く奴は、大体“走り屋”って呼ばれる様なレーサーに片足突っ込んだ連中の事が多いが。
これのVRバージョンだと思って良い。
つまり白川妹が今体験しているのは、認識だけは一人前なのに自分の身体が他人の運転みたいに感じているというか。
頭では理解しているのに、身体が付いて行かない事に無意識化で苛立っている状態に近い。
言葉にすれば簡単なんだが……これ、なかなか疲れるんだよな。
俺も昔、結構あったわ。
んで、原因がはっきりすると。
意外と頭がスッと受け入れるというか、驚く程日常生活に影響を及ぼさなくなったけど。
「とにかく、頭が成長したって意味では悪い事じゃ無い。だから心配しなくて良いと思うが……今後も生活に影響したり、負担に感じる様だったら一回病院とかに行っても悪くないだろうな。でもVR関係に知識がある所の方が良いぞ? まったく知識の無い……って言ったらアレだけど、否定派の医者とか受診されると、山ほど薬を出して来るからな」
「うっ!? そ、それはちょっと……色々不味いというか」
そんな事になれば、あのシスコン兄の事だ。
間違い無くVR禁止令が出るだろうな。
という事で。
「白川妹、連絡先を教えてくれ。そっちにお勧めの医者を教えてやるよ、俺も世話になった人だ」
「え、あ、はいっ! ど、どうぞ……」
無駄に緊張した様子で、此方にアプリの連絡先を交換するIDを表示してみせるシックス。
はい、シックスの個人連絡先ゲット。
自分で言っておいてアレだけど、もう少し警戒しても良いと思うんだけどねぇ……。
などと思いつつも、とあるメンタルクリニックのURLを送信して。
「どうしても影響が抜けない様だったら、そこでまずは“相談”をお願いしてみな。多少は気が楽になるだろうさ。もちろん、俺に相談してくれても構わない」
「わ、わかりました。ぁ、ありがとうございます……なんか、色々お世話になります……」
なんて事を言いつつ、彼女はペコペコと頭を下げるのであった。
さてさて、どうなる事やら。
俺の見立てでは、大した事は無いと思うけど。
多分シックス自身が“納得”さえすれば、身体自体は元の状態に戻るだろう。
なんたって今のこの子は、ガッツリVR訓練を受けた状態ってだけだと思うから。
そんでもって、もう一つ。
先程紹介したクリニックもまた……俺達とは、無関係とは言えないのだ。
だからこそ、此方に関してはもう少し傍観させてもらいますかねぇ~。
ま、体調第一にするこった。
コメント
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お疲れさまです、くろぬかさん!第81話、読ませていただきました〜! シックス(白川妹)の現実での姿、あの小動物感……めちゃくちゃ可愛くて笑っちゃいました。ゲーム内での“6key”とのギャップがすごいですね。お兄さんの“俺ボイチェン使ってねぇし”のツッコミでさらに面白くて。 VRでの“感覚だけ先に成長する”現象を、運転の例えで説明してくれたところ、すごくわかりやすかったし、すっと入ってきました。実際にありそうな話だからこそ、リアルに感じられましたね。そして最後のクリニックの件も気になる……兄弟ラインがまた静かに動いていて、次の展開が楽しみです。 素敵なエピソードをありがとうございました!続きも静かに待っていますね🧸
柘榴とAI

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