一月七日は始業式だった。自分の家の近くの学校は一つしかない。しかも最悪な事に家の真反対にあるから、どれだけ早く起きても、全力で自転車を漕がなきゃ行けない。ほら、今日も全力で漕ぎすぎて、前髪が全滅だ 。女子中学生が行うことでは無い。そもそも何故学校が一つしかないのか。もっとあるべきだろう。
思わず自己紹介を置き去りにして恨み辛みを吐いてしまったが、許して欲しい。私は水向 鼓。田舎と都会の中間ぐらいで生まれ育った中学二年生、十四歳。学力も見た目もそこそこ。良く言えば悪目立ちしない、悪く言えば平凡的。それが私。強いて言えば名前ぐらいだな、非平凡的なところ。ずば抜けた才能もなく面白みもない。ただ与えられた仕事をこなして、食べて寝て落ち込むだけの人生だと思ってた。
でもそんな私の人生にも、
おかしなことが起きました。
「初めまして、こんにちは」
「……えっ?」
その日は始業式だったので、二時間で授業が終わった。短いのはいいが、退屈だった。強いて言えば課題を集める時にクラスメイトの吉野 が課題を忘れて、先生に本気で怒られていたことぐらい。
「はぁ……遠いなぁ……」
「いいじゃん、俺と長く話せる」
「誰がお前と話したいと言った」
「酷いなお前ほんとに」
絶賛今話し相手の男が吉野だ。こいつは実家が私と同じぐらいの距離にある。吉野が引っ越してきてから、小学校からよく帰る仲だ。まぁそれまでだが。
「お腹減るんだよね〜、家まで帰るのに」
「空腹は最大のスパイス」
「そんなもんがスパイスになってたまるかい」
吉野とくだらない雑談をすると、意外とすぐに着く。行きもこのぐらい早ければいいのに。
「じゃあな」
「うん、それじゃあ」
家の無駄にだだっ広い駐車場に、自転車をゆっくり停める。田舎にとって車は重要だ。目的地から現在地が遠すぎるため、絶対に徒歩は無理。だからといってここまで広いのは 必要だったのか?と時々問いたくなる。全く全く。
私の家はかなり広い民家だ。暮らしているのは父、母、兄、私だけ。かなり広いもので、幼少期はかくれんぼをしたら、私だけ見つからないという事件が起こった程度には広い。だいぶ広い。
「お母さんただいま」
私のよく通る声で、遠くの居間にいる母を呼ぶ。父と兄は仕事で居ないため母だけしかいない。なのにいつまで経っても返事は返って来ない。居間ではないのだろうか?いや、そもそも私の遥か彼方まで届くこの声で聞こえない訳が無い。なら外出か?いや、車はあったし違うだろう。どうしたんだろうと思いながら、居間で続く長い廊下を歩く。床を眺めてると、木特有の変な模様があって面白い。ふと外を見てみる。庭に何故かある岩は冷たそうだと思った。触れていないので憶測でしかないが。不思議と出たため息は無視しつつ、今の襖を開けた。
「お母さん?どうし__」
「初めまして、こんにちは」
「……えっ?」
どんっと思わず鞄を落としてしまった。続いてズルズルとコートがずり落ちていく。それを直す手はそこになかった。仕方ないだろう。家に帰ったら知らない人がいたんだ、無理もない……と言わせてくれ。
「……あの、どなた……?」
「私ですか?私は……」
「珠菜と申します。」
「……珠菜さん」
見れば見るほどその美貌に驚く。黒目は爛々と輝いて美しい。黒髪は座れば床につくほど長いのに、跳ねた束すら見当たらない。光を反射しすぎて銀髪にすら見える。唇には薄く紅を塗ってあるが、殆どメイクしていないだろう。同じ髪の色、目の色をしているというのにこんなにも差がつくと言うのか。人生とは無慈悲なものだ。
「えっと……我が家にはどうして?」
「数ヶ月だけ泊めてもらう約束をしたんです。あなた様のご両親と。」
ちょっと待ってくれ。私はそんな話を聞いていない。何故私に話してくれなかったのか。
「もしかして私が来ることを存じ上げていなかったのでしょうか……?」
「恥ずかしながら…… 」
仕方がない、無口な父と忘れっぽい母だ。情報なんて教えられている方が少ないのだ。……そういえば、まだお茶を出していなかったな。
「ちょっと待っててください。お茶を出してきます。珠菜さんは麦茶大丈夫な人ですか?」
「はい、平気ですよ。それと……」
「私のことは気軽にお呼びください。珠菜と呼んでも、敬語もなしでも構いません。」
「えっ!?いやいや、流石に目上の人にそんな失礼な態度とれませんよ……入室時のあれはまぁ見なかったことにして……」
「……目上……?」
「?はい、目上」
「私はあなた様と同じ、14歳なのですが……」
「……は」
「はぁぁぁぁぁあああ!?!?」
「びっくりした!?!?」
「あっすみません……!!!」
つい大声が出てしまった。私の大声は大抵の人の耳をおかしくさせる。気をつけなければ。
「あら、もしかして私間違った認識を……? 」
「違うんですむしろ合ってます間違えたのは私です」
正直まだ疑っている。こんなにも大人っぽい子が、私と同じ中学生だとは思えなかった。それに逆の意味で格好が中学生のするものでは無い。彼女は薄いミニ丈のワンピースの様な寝巻き……ネグリジェというのだろうか。それ一枚しか着ていない。田舎とはいえ不用心だ。しかも真冬に。
「お湯沸くまで時間かかりますけど……」
「いえいえお構いなく」
「あとそれと……」
「……?これは?」
「知らないんですか?カーディガンって言うんです」
「……えっと……?」
「流石にその服装じゃ薄着すぎますので……せめてその上着を来てくれればとおもいまして」
「あぁ、成程。確かに私の服はこの場には相応しくありませんでしたね。謝罪致します。」
「いえいえ別に!私は気にしてないので」
……決して自分の貧相な体と比べて豊満すぎるから渡したのでは無い。渡したのでは無いからな。
「……あの、やはりその敬語はやめにしませんか?私はあまりそういうのは好まなくて……」
「あ、そうなんですか?すみません
では改めて……」
「よろしく、珠菜」
「よろしくお願い致します。鼓さん」
そこから母、兄、父が帰ってきた。
母は初詣に行っていたらしい。ギリギリ滑り込みセーフだなと思った。
結局私以外珠菜が来ることは知っていたらしい。誰も突っ込まなかった。なんで私にだけ教えてくれなかったんだろ……
……あれ、そういえば珠菜。私の事「鼓」って言ってたよね。ちゃんと
私、自分の名前言ったっけ?
コメント
45件
貧相な体という単語に興奮しますわ 気にしてるのもとってもいい
えちょい怖じゃん でもこんな突拍子もなく新生活始まる感じ私だぁいすき
今回も神作だね!!!! めちゃくちゃ良かったよ!!!! まぁ…最悪な場所に学校があるね… あらあら…知らない人が居るのは 流石に驚くし怖いね…!!! ほぇー…そうなんだね!!! それは凄く嫌な予感がする… 次回も楽しみに待ってるね!!!!