テラーノベル
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「祐希さぁん……寒い……」
ソファに寝転がってスマホをいじっていた石川祐希のもとへ、ふらふらと歩いてきたのは、トレーナーの裾をつまんでいる髙橋藍。大きな部屋に冷房が効きすぎているわけでもない。ただ、彼は“甘えたい”だけだった。
「毛布そこにあるだろ。取れば?」
「ん〜……違う、そうじゃなくて……祐希さんに、くっつきたいの」
言いながら、藍は迷いもなく祐希の膝の上に乗ってきた。完全に自分の指定席、という顔で。
「はぁ……」
口ではため息をつきながら、石川は当たり前のように藍を抱き寄せた。腕をぐるっと回して、ぴったりとくっつける。藍の石川より細い身体が胸元に収まって、くすぐったそうに笑う。
「やっぱ祐希さんあったかい〜。好き」
「……お前さ、甘えたいだけだろ」
「え? バレた?」
まったく悪びれた様子もなく、にこっと笑う藍に、祐希の表情がほんのり緩む。
「……ま、俺の前だけなら、いくらでも甘えていいけど」
「ほんと? じゃあ今日、夜ごはん作って?」
「それは昼ごはん作ってもらったやつのセリフじゃないな」
「えー……昨日、祐希さんの好きなやつ作ったじゃん。あれ美味しかったでしょ?」
「……まぁ、うまかったけど」
「じゃあお願い♡ 今日は祐希さんの作ったやつ、俺のわがままで食べたいの」
甘え声に、上目遣い。完全にわかっててやってる。それでも、石川は拒否できない。むしろ“言われたい”まである。
「ったく……甘やかしすぎて、わがままになったの誰のせいだと思ってんだ」
「祐希さんのせい」
「……わかってんじゃん」
「えへへ。俺、祐希さんにだけわがまま言いたいんだもん」
その言葉に、石川はちょっとだけ黙って、ゆるく藍の髪を撫でた。柔らかくて、少し汗の匂いがして、安心する匂い。
「……それ、俺だけでいいからな」
「うん。俺のわがまま聞いてくれるの、祐希さんだけでいい」
ぴとっとくっついて、幸せそうに目を閉じる藍の頬に、石川はそっと口づけた。
「じゃ、夜ごはん作るから降りろ。材料買ってくる」
「やったぁ♡ 祐希さんだいすき」
「はいはい」
まるで子どもみたいに甘える藍と、それを全部許してしまう石川。
この関係は、誰にも見せないふたりだけの甘さでできている。
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