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都築七美
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#一年で体重二倍
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さぶれ
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意外なことに、離宮の中であれば自由にしていいと言う。近衛騎士が常について回るものの、不自由はしない生活だった。
ニルス神に祈りを捧げるのが日課だとこぼすと、すぐに離宮の一室を祈祷室にしてくれた。
ケイリクスは離宮に入り浸り、甲斐甲斐しくメリーティアの世話を焼いてくる。
無理やりに関係を迫ってくるでもなく、触れることはあれどハグやキスまで。顔を合わせるたびに愛を囁かれる日々。
そうして過ごしていると感覚が麻痺してきてしまって、ケイリクスを憎むことが難しくなっていった。
メリーティアの心は度重なった不幸ですっかりすり減ってしまっている。もう疲れてしまったのだ。恨むのも、憎むのも、怒るのも。ただ流されているのは楽だった。
ある日離宮の庭園を散歩していると、第二皇子が現れた。
皇帝宮を通らないとここには来られないため、ケイリクスが許可したのだろう。
父親に似た第二皇子は麗しい顔立ちの美少年だったはずなのに、今や見る影もない。陰鬱な空気を漂わせた彼はメリーティアを見つけると瞠目し、それからぎゅっと目を細めた。
ふらふらと駆け寄ってくると、近衛騎士に阻まれてもかまわず目の前で平伏する。
「すまない。すまない……! 僕を支持したばかりに、みんな……!」
そう言ってしきりに謝っていた第二皇子は、二カ月後に死んだ。離宮にいるとほとんど外の情報は入ってこないが、おそらく皇后か第一皇子によって謀殺されたのだろう。
そこまでして息子を皇帝にしたい皇后も、人を踏み台にしてまで皇帝になりたい第一皇子のことも、メリーティアには理解できなかった。
もはやどうでもいい。もう何も考えたくない。彼らのことも忘れていたい。
これから生まれてくる子どもが成人するまでは、がんばって生きよう。メリーティアが踏ん張れるのはそこまでだ。グウェンダルとの子どもがいなければ、とうにこの世を去る道を選んでいただろう。
出産予定日より少し前に陣痛がきた。
何時間も痛みにもがき苦しむメリーティアを、ケイリクスがそばで支える。生まれてくるのは自分の子ではないというのに、とても献身的だった。
手を握ってくれる彼がグウェンダルだったらよかったのに、と考えるとほろりと涙が流れる。その涙を痛みのせいだと誤魔化して、最後に思い切りいきんだ。
産まれてきたのは男の子だった。黒い髪はグウェンダルにそっくりで、元気な産声を聞いているだけで不思議と活力がわいてくる。
もちろん出産の疲れで満身創痍だったけれど、ひさしぶりに幸福を感じていた。
赤ん坊を取り上げた医者が、こちらへ近づいてくる。
我が子を胸に抱くのが楽しみで仕方なく、身を乗り出して両手を伸ばした。
しかしメリーティアの腕に渡される前に、ケイリクスが赤ん坊を抱き上げる。
まるで本を持つような気軽さで背中を左手で支え、もう片方の手を前から首にかけた。
ふたりも子どもがいるくせに抱き方すら知らないのか、とぼんやり思っていると、赤ん坊が尋常ではない様子で泣き出した。
「へ、陛下……あの、その抱き方では苦しそうです」
ケイリクスは笑っている。
笑ったまま、赤ん坊の首を絞めていた。
「やめてください! やめて! 死んでしまうわ……!」
「殺しているんだ」
信じられない言葉を聞き、耳を疑った。
すぐに我に返ったメリーティアが必死に赤ん坊を取り返そうとしているのに、ケイリクスはびくともしない。腕に爪を立てても、血が出るまで噛みついても、赤ん坊を離そうとしなかった。
ケイリクスの腕にしがみついて大きく揺さぶると、やっと手を離す。ベッドに落ちた赤ん坊を慌てて抱き上げたが、顔色は赤黒くぐったりしていた。いつの間にか泣き声もやんでいる。
狂乱するメリーティアを、ケイリクスは笑って見ていた。
「どうして……! どうしてこんなひどいことを!」
「逆に聞くが、ほかの男との子を育てさせると本当に思っていたのか?」
「っそれなら、どうせ殺すつもりだったなら、産まれてくる前に堕胎薬でも飲ませればよかったじゃない! どうしてわざわざ苦しい思いをさせて……っ、ひどい、あなたは人間じゃないわ……」
さめざめと泣くメリーティアを抱き締めて、ケイリクスはまだへこみきっていない腹を撫でる。
「そなたの胎は余の子を孕む大事な胎だ。堕胎薬なんぞを飲ませて万が一次の子を孕めぬようになったら困るだろう?」
ケイリクスという男が理解できない。
流されるままに忘れようとしていた恨みや憎しみ、怒りの気持ちがどっと胸に溢れてくる。
(許せない! いいえ、許さない。絶対にいつか復讐してやる。死んでも呪ってやる!)
メリーティアは息絶えた赤ん坊を抱き締めて離さなかった。
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