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心が覚えてた

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心が覚えてた

1 - 心が覚えてた

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2025年05月16日

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第一章「見知らぬ雨の午後」
美咲「……あの、傘、どうぞ。ずぶ濡れですよ。」


拓真「え、ああ……ありがとう。でも君、見知らぬ人に傘なんて、普通貸さないだろ?」


美咲「いいんです。なんとなく……放っておけなかっただけで。」


拓真「……君、名前は?」


美咲「美咲。あなたは?」


拓真「拓真。変なこと聞いていいか?」


美咲「はい。」


拓真「俺、お前に会った気がするんだ。どこかで。」


美咲「……私も、同じことを思ってました。でも、思い出せない。」


拓真「不思議だな。名前も顔も知らないのに、心がざわつく。」


美咲「まるで――記憶の奥に閉じ込められていた誰かみたい。」


拓真「……お茶でもどう?」


美咲「はい。」




第二章「失われた時間」


美咲「ここ、昔来たことある気がする……このカフェ。」


拓真「俺もだ。変な感じだな。初めてなのに懐かしい。」


美咲「ねえ、あなたは何してる人なの?」


拓真「事故で……半年前に記憶を失った。名前以外、ほとんど何も。」


美咲「……私もよ。去年の冬、同じように。」


拓真「まさか……俺たち、以前――」


美咲「……恋人だった?」


拓真「でも、証拠はない。思い出せるわけでもない。」


美咲「それでも、心が動く。あなたを見ると、涙が出そうになるの。」


拓真「同じだ。胸が痛くなる。何か、大事なものを失った気がする。」


美咲「探してみない? 私たちの過去を。」


拓真「怖くないのか?」


美咲「怖い。でも、知らないままより……あなたを、もっと知りたい。」




第三章「重ねられた記憶」


拓真「病院の記録を調べた。俺が入院していた時期、君も同じ病棟にいた。」


美咲「そんな……でも、会った記憶はないわ。」


拓真「記録には、“心的外傷による選択的健忘”って書いてあった。」


美咲「つまり、無意識に忘れたってこと?」


拓真「たぶん、あまりにも辛い記憶だったんだ。だから俺たちは……」


美咲「一緒にいたのに、忘れた……?」


拓真「何があったのか知りたい。でも……怖い。」


美咲「……この写真、見て。私の部屋にあったの。顔が焼かれててわからないけど……このポーズ、あなたじゃない?」


拓真「……俺だ。着てるジャケット、これ俺のだ。」


美咲「じゃあ、私たちは……本当に……」


拓真「確かめよう。最後まで。」




第四章「真実の扉」


美咲「……あった。私たちのメールの記録。古いスマホのクラウドに残ってた。」


拓真「読み上げてくれ。」


美咲「“今日も仕事お疲れ様。早く一緒に暮らしたいね”……“美咲、プロポーズの準備できた。来週の夜景、楽しみにしてて”……」


拓真「プロポーズ……?」


美咲「私たち、結婚するはずだったのよ。」


拓真「なのに、事故で全部消えた。俺たちの未来も。」


美咲「でも、運命ってやつ……あの雨の日に、もう一度あなたを連れてきたのね。」


拓真「何もかも忘れた俺たちが、偶然出会って……恋に落ち直した。」


美咲「これは、偶然じゃない。きっと、ずっと心が覚えてた。」


拓真「なあ、美咲……もう一度やり直さないか?今度は記憶じゃなくて、未来を信じて。」


美咲「……はい。今度こそ、永遠にあなたを忘れない。」




最終章「記憶より深く」


拓真「おかしいな。前にプロポーズしようとした時より、今のほうが緊張する。」


美咲「ふふ、二度目のはずなのにね。」


拓真「美咲……君と出会い直せた奇跡に、心から感謝してる。どうか、これから先の人生も、隣にいてください。」


美咲「はい。これが……最初で最後の、“本当の”プロポーズね。」


拓真「記憶は消えても、心が導いてくれた。俺たちはきっと、何度でも出会い直せる。」


美咲「何度でも、あなたを好きになる。」


拓真「愛してる、美咲。」


美咲「私も、拓真。」




[完]


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