テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
悩ましい気持ちで枕に逃げ込んでも、私の前世が『九尾』だからと狙われたんだと、思ってしまう前にきつく瞼を閉じる。
暗闇のなか、杜若様の勇姿に思いを馳せてみる。
今思い出しても黒の隊服に黒髪を靡かせて、私を抱きしめながら、刀を振る姿はとても素敵だった。
私もいつかあんなふうに力を使えるのかな。誰かを守れるのだろうか。
「杜若様の力すごかった。助けてもらったのに、お礼を言いそびれちゃったし……そうだ。宇津木様達にもお礼を言って、ばあやにも手紙を書いて、術のお勉強もしなくちゃ」
そこまで口にすると、気分が少し軽くなった。
私にはまだやることがたくさんある。
あえて避けていた、九尾のことや土蜘蛛のこともちゃんと調べなくてはいけないだろう。
やることがたくさん。したいことがたくさん。不安ごともたくさん。
なんだか、頭がまたクラクラしてきそうになったとき。
がらりとこの家の玄関の扉が開く音がした。
きっと梅千代さんかお手伝いさんが様子を見に来てくれたと思って、起き上がった。
せめて玄関に行くのは問題ないだろう。それに少し体を動かしたい。
浴衣姿のまま、部屋を出て廊下を歩いた先。
玄関に立っていた人物は、すらりと高い身長の人だった。
その人は紙袋を廊下の端に置いて、立ち去ろうとしていた。
誰だろうと思ったけど、長い黒髪に黒の凛々しい隊服。杜若様とだとすぐに分かった。
「──杜若様」
声を掛けると、その人物はぱっと振り向いた。
やはり杜若様だった。
「環っ。もう体はいいのか?」
杜若様がすぐに玄関から身をこちらに寄せようとしたけど、ぐっとその場に思い止まり、手を前にした。
「いい無理はするな。寝ていてくれ。もう失礼するから」
「大丈夫です。お陰様で熱は引きましたから」
パタパタと杜若様に近寄る。
杜若様は前に出していた手を自分の口元へと寄せた。
「そうか。それは良かった。母──じゃない。梅千代さんから環の熱は引いたと聞いた。明日には会ってもいいと言われていたのだが……気になって、見舞い品だけ持って来た」
「見舞い品? そんな、立派な着物をもらって十分なのに」
杜若様のお顔を見て土蜘蛛から助けてもらったこと、着物を贈ってくれたことに御礼を言った。
そしてしゃがみ込んで、廊下の端に紙袋の中を覗き込んだ。
中には黄色い箱のミルクキャラメルに、缶に入ったドロップ。さらには茶色の包み紙に包まれた、チョコレイトが見えた。
「わぁっ。豪華な洋菓子がいっぱいっ」
しかも袋の中にはバナナやマシマローまであった。本当に豪華過ぎる。
「病院食ばかりでは飽きるかと思って。甘いものを選んだが、少し子供っぽい物を選び過ぎた気が……その、胃に負担が掛かりそうなら食べなくていい」
そんなことないと、紙袋をぎゅっと抱きしめる。
「このお見舞い品も嬉しいです。ありがとうございます。一度に全部は食べられませんけど、少しずつ食べます。本当にありがとうございます」
ぎゅっと胸に紙袋を抱きしめると、杜若様はやっと小さく笑った。
そして体に障るからと言って、また来ると。
杜若様が玄関の扉へと手を伸ばすから、つい杜若様の手を掴んでしまった。