テラーノベル
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すくわれたい。私には、そう願うことすら許されない。
というか、分不相応なのだ。
私みたいな下の下の、人々が思う奈落の底に居るような人間には、救いの手など届かない。
そもそも上辺だけで精一杯だというのにこっちに気をかけてる暇なんてありゃしないだろう。分かってる。
私はこの世界の隅っこにいる。この空間が正方形だとすれば、私は本当に角っこの角っこに座って頭をうずめている。
ここに救いの手は届かない。私以外の物が救われても、希望が見えても、すぐそこにまでやってきても。きっと私は救えない。
例えるならば、食事だ。
目の前に食器があるとしよう。真四角でとっきんとっきんで、角は研磨されてもいない。安全性の欠如の化身みたいな器。その中に、食べ物が入っている。みっちり詰まってて、掬ったところがやすやす削られ、ブヨンと揺れるのだ。美味しそうか不味そうかはどうだっていい。とにかく食うものだ。匙が得体の知れぬ何かを掬い、どんどん口に運ぶ。
そしてついに、底にカチンと匙が当たる。さすれば終わりだろうか。そんな奴は行儀が悪い。器の底が見えたのはその一部分だけ。まだまだ残っている。どこぞの地の文化に則り、お残しは許されない。
掬う。掬う。掬う。
救う、救う、救う。
その時、光が差し込んだ。
私にだ。大きな救いの手がやってきた。
順番待ちの様に私の前にいる人々をどんどん掬い、平らげる。私が最後だ。一番最後。この時をどれ程心待ちにしていたか。
カチン。
カチッ、カチッ、カチン。
__世界が。
憎きこの壁が。形状が。救いの手を阻む。
あの匙の形じゃあ、角の角にまで触れられない。
私は取り残された。
私に救いの手は届かなかった。
彼はいとも簡単に諦めたような気がする。そんな気がしなくもない。
何故。
何で私は救ってもらえなかった。
この器のせいか。この角のとっきんとっきんのせいか。世界か。私の上にいて救われていった人々のせいか。最期に諦めた彼のせいか。
いや、違うだろう。わかっていたのだ。
私が救われなかった理由。
それは私だ。私自身だ。
私はここにいる理由も、救われなかった理由も、すべて他人に押し付けた。自分から動こうとしなかった。ただ光に向かって呆けて、心の底の隅で願い求めていただけだったから。
分不相応。そのとおりだ。私のために行動した彼に、私は報いなかった。彼は疲れたのだ。救うことにではなく、私に見つめられることに。
どうすればよかっただろうか。
動けばよかった。走って行って、大手を振って叫べばよかった。そうすればきっと、掬ってもらえた。
チャンスはないか。もう無い。潰れた。潰した。
彼はもう既に匙を投げた。
闇を食うことに疲れた。
私は世界の隅で腐ってゆく。嫌だ。終わりたくない。他の誰かが救ってくれないか。
誰でもいい。
この強固な檻の様な器の形をした世界に、もう一度救いの手を。
今度は匙でなくともいい。
ナイフやフォークのようでもいい。掬わなくてもいいから。
どうか。
どうかお願い。
誰か私を
すくってくれ
#ほのぼの
#恋愛
もな
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コメント
1件
第7話、読ませていただきました……「器」の比喩が重くて、すごく引き込まれました。四角い器の角、匙の形ではどうしても届かないって感覚、すごくリアルで胸が痛かったです。自分を責める主人公の内省も丁寧で、最後の「すくってくれ」が切実に響きました。救いを願うことすら許されないと思っていた人が、それでもなお手を伸ばす。その葛藤がとても美しかったです。続きが気になります。