コメント
4件
素敵な作品でした。
言い忘れてました… この垢は3月20日に消し去ります。それまでは拗ねにしがみついてますので蹴らないで下さい。 いつでもお前の事忘れねぇからな🫶愛してる💕💕三ツ谷の次に
長いです。and所々可笑しいです。祖父母並の暖かい目で見て下さい。
〈棺の宝物〉
・灰谷兄弟×夢主
・キャラ崩壊、口調迷子
・色々注意
苦手だと思った方はご視聴をお控え下さい!自衛!大事!!
夢主→藤田 _ _ さん
性別♀︎
______
人と別れる時はどんな時だって雨が降っていた
あの日もそうだった。
────────
「どうやら、君とは価値観が合わないようだ」
今日はニュースの天気予報は晴れだと言ってたが雨が降り始めた。
「……そうですか」
彼は傘を差し、雨には濡れていなかった。
それに反して私はどうだろう。
自信があったメイクも濡れて、服も、靴も、セットした髪も全部濡れていた。
「それじゃあ」
そう言って知らない女と腕を組んで人混みにへと紛れ歩いていた。
「嫌だ」という声も出せず、喉に引っかかったままだった。
その反対方向にへと歩みを進めた。
灰谷蘭と灰谷竜胆。
あの2人にも可愛い時期はあった。10歳ぐらいまでは可愛くて、それから壊れ始めた。知ってるのは幼なじみだから。ずっと隣にいたかったけどそれは叶わなかった。
いつもランドセルを背負わず、弟に預けているのが蘭。重いなんて言わずに黙って兄のランドセルを持っているのが竜胆。
それを黙って見ているのが私。
いつもこんな風景が流れていた。
その当時、私は兄の蘭と同じ歳だった。
「竜胆、重くない?」
「別にへーき。兄ちゃんっていつもこうだもん」
「竜胆〜余計な事言うんじゃねえよー」
蘭はいつも竜胆をパシっていた。竜胆が良いなら私も何も言わずに黙って隣を歩いていた。
「藤田」
「ん?」
昔から名前で呼ばれるのが嫌いだった。
嫌いな母親が真剣に考えて決めたらしい。
私は父親が好き。優しいから。だから父親の苗字を名乗って、名前は半分捨てた。けど先生とか女の子達は名前で呼ぶからそれは仕方ないと思ってる。女の子達から”可愛い名前”と褒められたら誰だって嬉しい。けど嬉しくなかった。だけど名前で呼びたいって言われたから首を縦に振った。
「中学どうする?」
「ぇ〜……」
もうそんな時期と考えたら嫌になった。
私と蘭が中学生になったら竜胆は六年生。一緒に遊んだりする事ができなくなってしまうのだ。
中学生は小学生と比べたら忙しいし、遊べないし高校への受験もあるし、
友達いないし。
「蘭は?どうするの 」
「俺?中学行かねえよ」
沈黙
「は?」
明らかに問題発言を言った蘭だった。
小6辺りからは予想はしていた。
蘭が中学に行かないと言ったのは正直驚きはしたが当たり前とその後から思った。
蘭と竜胆は2人でよく年上の男にパシられはしていたが、倍でいつも返していた。それを傍観していた。
金を取った時は笑顔で帰ってきてたし、機嫌が悪ければそこらにあるものは壊していた。それもいつも傍観していた。
俗に言う傍観者であった。
「──って、いうこともあったよね〜」
間抜けた声で発言して竜胆はそれに反応した。
「軽すぎ。別に良いんだけどね」
ランドセルを一つだけ背負っている竜胆が言う。蘭は中学に行かないと発言した以降よく夜の街にへと行っている。
ヤクザに近い組織の下っ端で働いてるらしい。見た事ないけど竜胆から聞いたから事実とは思っている。
「じゃ、俺こっちだから」
「うん、またね」
そう言うと竜胆は笑って手を振ってきた。
その仕草は蘭もしており、似てるな〜と微笑んでいつも手を振り返していた。
それを見る度、頭が痛くなっていた。
_私は蘭と竜胆が好き?_
見慣れているドアの前に立って溜息を一つ。
母親は12歳になっても嫌いだった。パパ活してるし、暴力振るうし、酒を呑むとすぐに機嫌悪くなる。この前だって大切にしてたクマの人形にゲロを吐いた。父親から貰った大事な物だったから殺そうかと考えたけど無理だった。
母親は昔プロレスとボクシングを趣味でやってたらしい。一度は選手になろうかと考えてたらしいけど、父親と出会って辞めたらしい。そのせいで母親は力が強い。反抗しようとするけどいつもやられる。下手をすれば腕を折られる。そんな最低な家に帰って私は酸素を吸って二酸化炭素を吐いている。
弱々しい木の扉を開けると母親の靴があった。酒を呑んでいるのか部屋は酒臭かった。
「…ただいま」
そんな事言っても母親は無視する。父親は笑顔で「おかえり」って言ってくれるのに。
「あー?ガキは帰ってくんじゃねえよ!」
そう言って私に目掛けて空っぽになった空き缶を投げてくる。少し入っていたのかジャージに付いてしまった。
「……ごめん」
「おい、『 』。酒買って来い」
「ぇ……」
いつもは母親が行っていた。こんな事を頼むのは初めてだった。
「で、でも……身分証明書……」
重い一撃が頬に刺さった。
その衝撃で鼻血が出てしまった。
「どーでもいいから買ってこいよ」
必要最低限のお金を持って走って家を出て行った。
「身分証明書を提示して下さい」
「ぁ、ぁの……その、」
力弱い声でそう言うと店員は首を傾げる。
「ぅ……ぉ、ゃが……」
「やが?」
駄目だ。声が出ない。ここの酸素が山の頂点のように薄くて、吸っている気にならない。
────棺に入りたい。
「お、やから……買えって言われました…」
空気が気まづさで溢れかえった。
後ろからはヒソヒソとこちらを見て話している人。遠くからこちらを見ている人。皆が私を見ている。やだ。怖い。
────お父さん、助けて
「すみません、私が目を離してる隙に……」
横に聞き慣れた声が聞こえてきた。
「ぁ……」
「『 』、ごめんな。父さんが目を離した隙に……」
父親だった。
「身分証明書はこちらに。 」
「ぁ、はい!ありがとうございました」
そのまま店を出た。
──────────
「お父さん……ごめん」
「母さんから言われたんだろ?俺こそ遅くてごめんな。」
そう言って暖かい手を頭に伸ばして撫でてくれた。
涙が自然に溢れてきた。
_父は優しいから好き。母は嫌い_
「ぇ……」
一言目が母音だった。
“灰谷兄弟が少年院に入った。”
それを聞いたのは1週間後だった。中学校にいるクラスメイトが私に教えてくれた。文房具を全て床に落として、筆箱は開いていたのか、中身が出てしまった。
それよりも、幼なじみが少年院に入った事が驚きのあまり落とした物は目に入らなかった。
________
それからは静かな日々だった。
歩いても誰ともすれ違わないし、学校でも口を開かない事はザラにあった。家では母親がいるからすぐに部屋に行って避難。
うるさいとしたら雨がこっぴどく降っていた。寒いし。手を出してたら震えてしまう程。風が酷い日もあったから流石に辛かった。
いつも2人と別れる分岐点。
その奥は暗くて何も見えなかった。いつも見てた別れの仕草を思い出す度、頭が痛くなった。
これは低気圧のせいだ。そう思って家に帰った。
_ _ _ _
「好きです。 」
そう言ってきたのは、クラスメイトの山田君。話した事も無くて名前だけ知っている。下の名前は知らない。話した事ないから。
彼は頬を赤く染めて私を見つめていた。
逆に私は頬も赤く染めずに地面を見つめていた。「好き」という言葉はホントに好きな人に使う言葉だと思っている。
「嘘。話した事も無い」
「…そんな事ないよ。嘘じゃないよ」
瞳は真実を教えてくれる。きっとその事を彼は知らない。
彼の瞳は真っ直ぐ、こちらを覗いていた。
演技なのだろうか。彼は将来、大物になるだろう。
「私は、君と話した事ないよ。それなのに信じろって言うの」
「君は……灰谷君達に騙されてるよ!」
?
なんて言った?
騙されている。これは何度も聞いた事がある言葉。緊張の糸でも切れたのだろうか。彼は必死に私を見て説得し始めた。
「『 』は灰谷君達に騙されてるんだ!毎日、毎日!彼等は不良なんだよ?それなのにずっと一緒にいるって可笑しいじゃん!何時かは『 』を棄てるんだよ!僕を見てよ!僕は『 』の事を見てるし、棄てないよ!だから───・・・」
「ねぇ、何を根拠にして言ってるの?」
腹が立った。この言葉が今の私には相応しいかもしれない。私の事が好きとか、僕を見てよ、とか口だけで言うのは何でもいい。けど、”2人”の事は言われたら怒りの領域に入ったような気がする。
「山田君、私と貴方は価値観が合わないようだね。諦めて」
そういうと山田君は絶望に満ちた顔をして、その場から過ぎ去った。
その日は曇天だった。
_私の宝物_
あの日からだった。私が彼等と別れたのは。
「はぁっ…!はぁっ…!」
走った。兎に角走った。
犬がこちらを見てようが、知り合いに声をかけられようが、私は走った。
1年ぶりに彼等と対面が出来るからだ。
「ぁ……」
髪型は変わってたけど何となくオーラで伝わった。
蘭と竜胆だった。
「蘭!竜胆!」
あちらも気付いたのだろう。私の方を向いてゆっくり歩いて来た。
「ら──・・・」
止まった。
私では無い誰かを見ているような気がしたから。
「誰?お前 」
「ぇ……」
忘れられた。
忘れられた?そんな訳ないじゃん。
「ぅ、嘘だよね…?私だよ!藤田! 」
「…竜胆、こいつ知ってる?」
「さぁ…?興味ねえな。女なんて 」
心が切れ味の悪いナイフでゆっくり抉られるような痛感を味わった。「止めて」なんて言っても止めれないような痛み。叫びたい、泣きたい、
忘れられた
これが何よりも傷付くものだった。
「ら……」
「なーんてな!!忘れる訳ねえだろ!」
明るい声が聞こえて、前を見たら笑顔の蘭と竜胆がいた。
「手紙貰ってたのに忘れるなんて馬鹿馬鹿しい。怒るなら兄貴な。サプライズしたいとか言い始めたの兄貴だから」
「竜胆も乗り気だったじゃーん、半々って事で」
「はぁ?!なんでだよ!」
軽口を言っているのが耳に入ってくる。
さっきとは違って楽しい会話。心が温まって涙が溢れ出した
「ヴっ……」
「?!藤田……どうしたんだよ?何処か痛いか?」
「そんなに俺らに会いたかったのかよ〜?」
「馬鹿っ…!!馬鹿っ!!!心配したんだよ!!何も言わないで何処か行くとか……最低…!」
悲しい。
人間はどんなに大切な人であろうと直ぐに忘れられてしまう存在。
忘れられたら悲しいくせに、自分は忘れる。クソみたいな人間。
けど、
「私を忘れたとか…そんな事言わないでよ」
二人の体温に触れるのは久し振りで、親よりも、太陽よりも暖かかった。
_この体温が丁度いい_
その日は蘭が18歳、竜胆が16歳の夏だった。
2人とも高校には進学せず、犯罪に触れそうなラインに入っていた。多分、入っている。
“天竺”
そのプチ犯罪組織に入っていた。
そのせいで最近は関わる事も少なくなった気がする。
私は高校生。高校三年生。もうすぐで大人の仲間入りになる。20歳まであと2年。成人するまで後2年。実感が湧いていなかった。
「藤田さん」
「ぁ、多田君。」
短髪クール系の男の子。多田君。
彼はクラスメイトでもあり、付き合ってもいる。
「今日はどう?藤田さんと行きたい所あるんだよね」
「…行きたい所って?」
「最近、話題になってるカフェ。」
そう言ってカフェのパンフを差し出し、ページをめくって見せてくれた。
「大人気!」とか「好評!」等の言葉が沢山並んでいて如何にも一般人を店に誘っているようにしか見えなかった。
おすすめのメニューを楽しそうに話している彼を見ると、私も行きたいという気持ちがソワソワとしている。
「…私も行ってみたいから良いよ、行こ。」
「ホント?分かった!」
そう言って、彼は自分の席にへと戻って行った。
これが私の宝物なのかもしれない───
___________
「美味しそう……」
目の前に来たパフェは私の好きな果物が乗っており、すぐにスプーンを持ち口に運んだ。
「美味しい?」
「うん、甘い物久しぶりに食べた」
「それは良かった」
柔らかい笑顔をこちらに向けていた。
この笑顔を見てると、2人の笑顔を思い出してしまう。蘭は少し圧がある笑顔だけど竜胆は少し幼さが残っている。そんな笑顔が私は好きだった。
『じゃあな』
笑顔を思い出すと”別れの笑顔”も思い出す。
「痛…」
「藤田さん?大丈夫?」
「あはは…勢いよく食べ過ぎたかも、美味しすぎて…」
ズキズキと頭が痛み、今にも叫び出しそうだった。
「…お転婆だな〜。時間はまだあるからゆっくりで良いよ」
「ごめんね、ありがとう」
そう言ってまたスプーンを持ち、食べ始めた。
味は最初よりもしなかった。
_______
「今日はありがとね。美味しかった。」
「いえいえ、また行こうね」
店を出て、少し暗めの道を2人で歩いて行く。
今日は木曜日だが人通りは多い。明日は何があるのだろうか?祝日では無かった筈と考える。
そんな事を考えていると多田君が足の歩みを止めた。
「?多田君?」
「藤田さん、俺、行きたい所あるんだけどさ…今からどう?」
「ぇ」
そう言って親指で後ろを指し、目線を向ける。
そこは、大人のホテルだった。どうしてそこに行きたいのだろうか。もしかしての場合を考えると手が震えてきた。しかし、多田君と繋げていたせいか離したくても離せなかった。離させまいと多田君が強く握っていた。
手に汗が溜まる。「いやだ」の一言が出て来ない。喉に引っかかって上手く出せない。
いやだ、いやだ、いやだ…
「ゃ、、だ ─…」
「どうして?」
そう言ってまた歩き出した。
「は、離して、、!た、だ君!私やだ!いゃだ!」
時計も夕日も多田君も誰も止まってくれない。止まりたい、止めて、止めて、!!!
誰か、誰か、、だれか!!!
目の前に迫ってきた。
「ぁ………」
私の顔はどうなってるのだろうか。涙と鼻水と汗でぐちゃぐちゃになっている。
大人の一線を超えたくない。
「ね、良いでしょ?」
思い切り首を横に振った。今できる抵抗を
振りすぎたのだろうか、鼻水に髪の毛が付いてさっきよりもぐちゃぐちゃになってしまったのか、前が上手く見てなくなってきた。
「多田君、!いやだ…!まだ高校生だ…しさ?ね、?」
「俺らもう少しで卒業するし、大丈夫だよ。安心して」
「ぇ、ちが…」
「藤田さん、前から気になってたけどさ。俺といる時、他の男考えてるでしょ?」
心臓が飛び跳ねた気がした。ドクドクと徐々にスピードを上げ、心拍数が上がっていく
「俺を誰かに変えられてる気がしてさ、今日もそうだし。だからさ、やっぱこうするしかないって。俺とヤってさ、藤田さんが俺の事しか考えきれなくなるの。良いでしょ?良いプラン」
「ひゅっ…ぅ゛」
息が詰まった。
「ゴホッ…ひゅっぅ゛、ぁ゛、ぁ゛」
「藤田さん?」
「さ、わ゛らないで…!!」
今ある限りの力を振り絞って多田君の手を払う。やっぱり前がよく見えない。画質が悪いテレビのように。
「………そう」
そう言って多田君は唇を重ねてきた。
「行こっか。」
「ぁ゛………まっ、」
気づいた頃には
全てが無くなっていた
_宝物の壊れた音がした_
あれから数ヶ月後。
“彼”からの絡みが増え、その度に吐き気が催してしまう。家に帰るまで我慢して、我慢して、トイレに行って、全てを吐き出す。辛かったこと、嫌だったこと、苦しいことを全て入れて吐き出す。それを繰り返していると段々と痩せ細って言った。
「『 』?アンタ最近痩せてない?大丈夫?」
「ぁ、うん…大丈夫だよ。」
仲がいい同級生に気付かれて、心配されて、それでさえ申し訳なくなってしまった。心配がプレッシャーに私の心の中で変わっていた。
「多田でしょ?彼奴、中学で1人の女子生徒を自殺までに追い込んだらしいよ…多田と同中の奴に聞いた事なんだけどさ、、って『 』?」
「ぁ、多田君の話はさ………えと、」
手が震えてしまう。
「………あ、ごめん。今日空いてる?落ち着く所行ってみようか。ね?」
「うん、ありがとう」
陽の光が暖かかった。
__________
「少しは落ち着いた?」
「うん、忙しい中ごめんね。」
時刻は15時。今日が早帰りだったのが救いだった。陽はまだあり明るかった。
「全然大丈夫!偶にはさ、私とパーッ!としよ。私、いつでも暇だから!!」
「うん…!」
「また明日!!」
1人、また背を向け歩き始めた。
コツン、少し高めの靴が目の前で止まった音がした。
「藤田?」
「ぇ」
特徴のある三つ編みと、特徴のある髪色の2人が立っていた。
見間違える筈もない。落ち着く声のトーンの2人を。表情を。
「何してんの?1人?」
「ぁ、うん、ひ とり…だよ」
つい、と言った方が正しいのだろうか。男性と話すのが少しだけ、少しだけ、怖くなった。下を向いて、根暗の人のように。手が震えるから、バックを持って誤魔化す。誤魔化しきれてるのだろうか。
「久しぶり。元気?」
「うん、元気」
「学校はどう?楽しい?」
「まぁ………ぼちぼち」
「あ、久しぶりだからさこの後──・・」
「ゥ゛…っ」
吐き気がしてしまった。反射的に手で口を抑え、吐き気を戻す。
折角の再開なのだ。このまま終わってしまうなんて嫌だ。ちゃんと、目を、見て、話したい。
目、目を見て
『藤田さん、大好きだよ』
上を向くと、やはり怖い。
「藤田!大丈夫か?!落ち着け…!」
「ゆっくり呼吸しろ、俺ら以外誰もいないから」
「ご、めっ…ひゅ゛ぅっ…ンぁ゛が、」
時刻は多分、17時近い。暗くなりかけている時刻。
いない、それが分かっているのに記憶がフラッシュバックして思い出してしまう。
手の感触、温もり、震え、唇、
異物感
「ゃだ、やだ、やだ!!!!」
「藤田!!!落ち着け!!!」
「ぁ……」
意識が戻って来て、前を見たら大好きな2人の顔があった。
「…あ、あはは…2人だ。」
「、家に帰ろう。話はそれからだ」
「鼻水も垂らして、、ガキからの癖だよな。涙出しながらギャン泣きするの。髪もくっ付いて…」
多田君には無かった事を言われて、心の緊張が無くなった。息がしやすくなってきた。
「ぅ…なんでここに?」
「あ?あ〜……なんて言うんだろう、気まぐれ?そういう気分だったんだよ。」
「暗いな、まだ秋なのにこの時間には暗くなるんだな。藤田、寒くないか?」
「ぁ、うん…寒くは、ない」
少しの気遣いと、少し逸れた話。それだけで心の重みが少しづつ外れていく感覚がした。2人の匂いもあるのだろうか、落ち着く。この空間が私の楽園にへと変わっていった。
それからは2人の家にお邪魔して竜胆がホットミルクを持ってきてくれた。リラックス効果もあるのだろうか、外の時と比べて体の力みが減っていった。
「…落ち着いたか?」
背中を擦りながら蘭がそう問う。
コクリと1つ頷き、口を開く。
「大丈夫。態々ごめんね、その、あの…服まで……」
「気にすんなよ。ガキの頃からそうだろ?泣きじゃくったら服までビショビショに濡らして、俺らの服借りるの。良かったな、背が伸びてて」
「…それどういう意味?」
「”昔はチビだったから俺らの服が入らなかった”っていう意味だろ?竜胆」
図星なのか竜胆は眉間に皺を寄せて、なんで分かるんだよ…と苦い顔をしていた。
「あはは!竜胆バカにしてんの?ふふ、、っあははは!私と同じくらいだからって、」
「うるせー!!お前がでかくなり過ぎなんだよ!」
この空間が心地よい。誰と何処にいようが、この空間が1番心地が良い。
「…なぁ、」
「ん?どうしたの?」
「なんでそんなに暗い顔すんの?」
そう言って蘭が私の頬を優しく触れてきた。その仕草にフラッシュバックしたのか、少し肩が揺れてしまった。
ただ、意図があって暗い顔をしている訳では無い。今まで、彼等と再会する先程まで人と話す事が少なかっただけだ。それで顔が強ばってしまう。
喉で言葉が毎度引っかかってしまう。カランって、言いたい言葉が引っ込んで、出そうとして、また引っ込んで。
迷惑かもしれない、そう考えたら暗くなる。
「…ごめん、上手く話せなくて」
「なんで謝るの?お前は悪い事なんてしてねぇよ」
「で、でも…さっきもそうだし、過呼吸で前見えてなかったのに、迷惑だったと思うし…それに、それに、、」
少し、怖かった
「…?」
竜胆が額に1つ、唇を落とした。
「”幼なじみ”なんだから当たり前だろ。別に迷惑だなんて思ってないし。怖いと思ったのは…まぁ、うん、俺ら不良だし」
“当たり前”
その言葉が似合うように2人は髪をサラリと持ち上げたり、優しく抱き締めてくれた。やはり震えてしまう。けど、そんな事、だと思わずに接してくれる2人がいる。暖かい体温を私の体が感じると涙が1粒落ちてきた。
「…っごめん、ごめん…」
「なんで謝るんだよ、大丈夫だって」
「そうだぜ、俺らはずっと”一緒”だ。」
そう言って、お互いの体温を感じさせるかのようにくっ付いた。
『ちゃんと言わないと─────・・・』
棺の中で誰かがそう言った
__________
「ねぇ」
あれから数日、
学校には無理しなくていい、嫌なら休め、そう言われ言葉に甘え3日程休んでいる。
2人もずっと一緒に居てくれて心の緊張がどんどんと解れていった。
もう少し、もう少し、そう心で唱えてあの事を言っていない。あのことを言うと全てが終わってしまう、そう思ってしまう。
「?どうした?」
「ぁ……いや、何でも、ない……
そこにあるジュース取ってくれない?喉乾いちゃった」
あはは
苦笑いを浮かべ、注文を1つする。
蘭は少し首を傾げたが、すぐにジュースを取りに行った。コップにも態々注いでくれて、その時に揺れている三つ編みが目に入ったから近付いて手でくるくると回す。髪の質も良いのか、触るととても艶があり、女の私よりも綺麗だった。
色も綺麗で、黒と金色の2色を交互にのせている髪。少し派手なのにそれでも顔とマッチしており、全てが美しく見える蘭。
「どうした?髪?」
「いや、綺麗だな〜……って。」
「だろ?カリスマにしてもらってんのよ。今度連れてってやろうか?」
「いや、良いよ…蘭の行く店って高そうだし」
「俺が奢るよ。行きたい時教えろよ」
はい、ジュース
そう言ってオレンジジュースを注いだコップを渡してくれた。
「……何も入れてないよね、」
「あは、心外〜
何も入れてねぇよ。安心しろ」
安心して、持っていって喉を潤すかのようにゴクリゴクリと動かしていく。
「なぁ、『 』」
ピクリ
久しぶりに蘭に名前で呼ばれた。
その事に少し驚いてしまって慌ててジュースを机に置く。そして、蘭の目を見る。いつもとは違って真剣な目。何か言いたそうな目。
「どうしたの…」
「何か隠してない?」
「ぇ、」
確かに隠している。隠しているけど、言ったら、終わってしまう
「何も無いよ、」
「嘘。ちゃんと言って」
「…………言うのはさ、その、竜胆も一緒に居る時に、お願い…」
「───はぁ、分かった。約束。」
そう言って部屋に戻って行った。
_喉に引っかかる言葉_
夢を見た。
雨の日、目の前に立っていた女は傘をさしていなかった。髪はセミロングで、肩よりも少し長めの女。髪色は私と同じで少し明るめの水色。紫に近い黒の洋服を着ていた。
『馬鹿、──・・・』
そう言って何処か消えていった。
_______
少し目を開けると部屋の光が入ってきたので反射的に目を瞑ってしまった。
慣れてきたのかゆっくり開けていくと、椅子には蘭と竜胆が座っていた。
「ん゛…おはよ」
「やっと起きた…夕方から寝てて深夜に起きるとか、、」
「ずっと待ってた、疲れた…」
「なんかごめん」
ソファーで寝てたせいか体が少し痛かった。
「藤田、」
「ん?」
「”約束”覚えてる?」
確かお昼頃、そんな感じの約束をした気がする。覚えていない。
「ぁ、えーっと…」
「…そこ、座れ」
「ひゅ……分かった」
竜胆も一部を聞いたのだろう、少し状況が知っているような顔をしている。
「何隠してんの?」
「………………ぅ、、」
フラッシュバックして体が拒否反応を出してしまう。脂汗が浮き出ている。喉の動きが早くなる。
「はぁっ…………ちょ、待って…」
きれいな瞳、4つが私を見ている。その奥には少し苛立ちが見えた。
ぁ、嫌だ
「ぅぐ…ぁ、、のね、」
嫌だけど、言わないと殺される。言わないと、そう頭に命令して言葉を整理させる。
「今、付き合ってる人がいるの。それでね、その人が…ぁ、多田君って言うんだけどさ、その人と……えと、不謹慎だけどさ、こう?大人の遊び的なやつをしたんだ…ょね、あはは」
早口で言って、面白くもないのに枯れた笑い声を最後に出した。前を見ると真実を話す前よりも2人は期限を悪くしていた。
「……」
「ねぇ、藤田」
「ど、どうしたの?」
「その多田って言う男と合意の上でやったの?それともその逆?」
「ぁ……と」
「…兄貴、」
「………そう。分かった。教えてくれてありがとな。安心しろ怒らねぇから」
そう言って子供をあやすように私の頭を撫でてきた。
「…うん」
その手はいつもよりも冷たかった。
_________◇
「そしたら、ありがとね。色々と」
休日を跨ぎ、また今日も学校にへと行く。私の家はもう再起不能だろう。それもあってか2人は家に泊まる事を快く受け入れてくれた。
「あぁ、てかここはもうお前の家でもあるんだからな。」
「つい癖で…」
「兄ちゃん寝てるから俺が教えとくから。気を付けろよ」
「うん!またね」
「おう、また」
そう言って竜胆は手を振ってきた。
あ、
頭痛い
________
学校に行くと教師が重い空気を出しながらHRを始めた。その雰囲気に周りの人も気が付いたようで少しづつその空気は感染して行った。
多田君は今日休みなのか、席が空いていた。
「朝からこんな話しては悪いが、その、昼休み多田について言うことがあるから…皆教室に待機していてくれ。すぐ終わるかは状況による」
そう言って教師の話は終わった。
いつまで経っても先程の空気は変わらなかった。
「『 』、多田についてなんか知ってる?」
「…知らない、、最近会っていなかったからさ」
「昨日まで元気だった筈…ほら、急遽転校になった話かもしれないし、ごめん」
「なんで『 』が謝るのよ、きっとそうだよ」
天気は雨だった。
___
やっと昼休みになった。
午前の授業は半分以上聞いていなかった。それは周りの人も一緒だと思う。いつも元気な人が口数少なかったり、寝てる人が寝ずにボーッとしてたり、皆は何か知っているのだろうか、そう思って何人かに聞いてみたけど皆「あ〜…うん、、」の曖昧な答えばかりを言ってくる。
私だけ知らないでみんな知ってる事なんてあるのだろうか。多田君は私の彼氏だった。彼女に言えない事でも出来たのだろうか。
「皆…大事な休みを潰してしまってごめんな。」
そう言ってゾロゾロと色んな教師が入ってきた。
終いには校長に教頭、カウンセリングの先生まで。
何があったのだろうか、
「まぁ…1部の人は知ってるかもしれないが2日前の夜。多田は─亡くなった。……複数人に殴られたり蹴られたり、関節も折れていた。」
死んだ
その真実が耳に入った途端、持っていたシャーペンを床に落としてしまった。目には入らない。顔も動かせない程の衝撃だった。
「───…この中には仲が良かった奴も沢山いるだろうし気持ちの整理も出来ない奴も居るかもしれない。教える身としてこの死は申し訳ないと思っている。」
そう言って教師が頭を下げた。
そうじゃない、私が知りたいのはそうじゃない。
多田君の事は嫌い
嫌いじゃない
あんな事されても、変わらず優しかったのは彼、区切りを付けることが出来なかったのが私。できなかったのは少しでも好きという感情があったから。
今日、通夜があるらしい。それを教えて教師は教室から出ていった。
昼休み、私達のクラスだけ誰一人として席を離れず、ただ、黒板を見ていた。
シャーペンは転がったままだった。
_______
雨の中、私達は多田君の通夜にへと行った。線香を上げ、手を合わせる。棺の中に入っていた多田君の顔は少し、少し、だけ原型を留めていた。何があったかは知らない。
知らない……
『関節も折れていた』
あぁ……思い出さなければ良かった。
竜胆は関節技が得意。最近そんな話を聞いた。
多田君の事はどうやって知ったのだろうか。私は話した気は─────・・・・
「ぁ、」
あの日、話した。3日前。じゃあ多田君が死んだのは?2日前。
2日前、彼等は何処にいた?
夜、家を空かした。
帰ってきた時は?
血が……着いて、血、血、
「ひゅっ……」
そっと、棺から見える多田君の顔に硝子越しに触れた。
「ご、ごめっ……た、ダ君……ごめん…ごめんねぇ……私が言わなかったら、ひゅっ、ゔ」
涙が溢れた。思わず棺に顔を伏せた。
ごめん、ごめん、
その言葉を繰り返し言っていると親族がこちらに来た。
「…大丈夫ですか?」
「すみません…こんな大事な時に」
「いえ…明日、晃の顔をちゃんと見てあげて下さい。今日は態々ありがとうございます。」
何も言えなかった。
親族に頭を下げて出口にへと歩いて行った。
雨は止んでいなかった。
「ただいま」
「ん、おかえり。遅かったな」
「クラスメイトの通夜だったの…それで」
「ふーん…」
そう言って竜胆は何処かに行った。
興味が無さそう。それも仕方が無い
「藤田、おかえり」
ソファーで寛いでいた蘭がくるりと私の方を向きそう言う。
「クソヤローの通夜どうだった?」
好き
グツグツと煮込まれて嫌いに変わりそうだった。
「…まぁ……うん、明日も告別式だから行くけど…普通だよ。世間と変わらない。普通だよ」
ホントに普通。親族が泣いて、それを慰めるかのように知り合いが背中をさすって、友達が手を合わせる。
普通。変わらない。
「────どうしてあんな事したの」
そう言った瞬間、部屋の空気が凍った。
そう思ったら
「あっはは!別に正当防衛だろ?お前が可哀想な事されたし、好きでも無いだろ?彼奴」
笑いながらそう言ってきた。
「……馬鹿…」
また私を置いてくの
それを聞くと2人はこちらを見て固まった。
「た、確かに多田くんは好きでも嫌いでも無かったけど…そこは否定しないけども、
2人が、人を殺して、警察に捕まって、また、私一人になるじゃん…!私は2人が居たら良いの…」
力が抜けてぺたりとだらしなく床に座った。それでも涙は止まらない。
これは悲しくてなのか、哀しくてなのか。分からない。
多分。後者ではなく前者だろう。
だって、だって………
「2人が居なかったら…楽しくない」
目の前が水でボヤけてきた。
「藤田」
「顔上げて」
「…?」
蘭が、額に1つ、唇を落とした。
「安心しろ。あの時の俺らとは違うからそんな馬鹿みたいな事はしねぇよ。」
「そうだ、約束してやるよ。俺らはもう離れねぇよ。」
「ホントに…?」
「おう、ほら、指切り」
指切りげんまん、嘘ついたら針千本のます
「………」
「お前はさ、俺らの事好きなの?」
「…ぇ、ぁ、分からなぃ」
「俺らは藤田の事好きだけど?」
顔が、顔に、身体の体温が全て行ったように熱くなった。
「ぅ……」
「『 』はどうなの?好き?」
「ひどい……意地悪」
わざと”好き”と言わせるように仕向けてくる2人は酷いと思う。酷い、酷いけど、それでも好きだと思ってしまう私もひどい。
「好き、です……」
「ふふっ」
嬉しい
多分、きっと
これは違う意味だ。
言った後に気が付いた。
外は曇天だった。
_彼等はひどい_
また、夢を見た
「残念ねぇ……まだお若いんでしょ?」
「はい、この子、親も機能してなかったんでしょ?そしたら親も親ね」
「ホントに…父親もバックれて逃げて母親は突然死。可哀想」
黒の喪服をきた女達がヒソヒソと話している。中には泣いている人もいる。
今回は私も体を動かせる。
周りを見た。
1人、なんか見覚えがある髪を見た。
誰だっけ、あれ。
「『 』……なんで…もうすぐだったのに…───見て欲しかった…」
ぁ、落ち着く声……
彼等では無い。また違う誰か。
遺影が目に入った。
『ひゅっっ゛…!』
中学の私だった───・・・・
「………夢、か」
現在の時刻、日の出の7時30分。今日は晴れなのか、空は何時もよりも綺麗だった。
あの日から、彼等とは世でいう恋人関係のような事をしていた。”好き”。そう言ったあの日、全てが変わった。たった数ヶ月の体験だったがホワホワとした気分になった事を覚えている。
でもやっぱり引っかかっていた。彼等が私に対して「好き」だという、その時、ずっと引っかかっていた。何故なら意味が違うと思ったから。
1度、聞いた事がある。
「2人はさ…私の事って好き?」
聞くと2人は固まった。その後、すぐにニコニコと笑って殴られた。殴られたんだ。左頬と肩の上辺り。痛かった。
「俺らはちゃんと好きだけど?何?藤田は俺らの事好きじゃないの?」
って。違う。私はちゃんと好き
好きって教えた、そしたらまた笑って殴ってごめんな、って頭撫でてきた。
それ以来、ぶつかる事が無かった。
2人がまた捕まったから。
「煙草…何処だっけ」
それからは独りで最低限度の生活を暮らしていた。前していた仕事はほぼブラック。でも労働基準法に従っていなかったから潰れた。それからは半分ニートの生活を送っている。
今日はカンナギさんと待ち合わせる予定があった。久しぶりに知り合いに会うなと他人事のように考えて、そそくさと準備を進める。
あの日から、夢を見る。今日も見た。私が死んでる夢。棺に宝物を沢山入れて眠っている私の姿を見ると、悪寒がする。ただの夢、と思うと少しは楽になるのだが正夢だと思うと怖くて仕方が無い。
寝間着を脱いで、下着姿になると鏡が視界に入ってきた。
「…やっぱり、醜いなぁ、」
別に焼け跡とか、痣がある訳では無い。
白くて、細くて、骨が少しだけ浮いている私の身体が気に食わないのだ。沢山、食べているつもりではいるのだが食べたものは何処かにいってしまっている。私だって好きでこの身体になった訳では無い。
きっと、もう少しだけ、太かったら2人に抱き締めて貰えたのだろうか。一線を、超えてくれていたのだろうか。
そのような考えが頭にある私自身も怖い。求めている私が怖い。
醜い。
__________
「カンナギさん」
「あ!『 』!久しぶり〜!少し背伸びた?」
「あ〜、今日は少し背伸びした服着てみたからそう見えるのかも」
時間通りに彼女は来た。その姿は大人になっていて、どう見ても同い年の子には見えなかった。
「カフェ、空いてると思うから行こ?久しぶりに話そう」
「うん、そうだね」
_______
一通り話し終わった頃、カンナギさんが真剣に此方を向いて、話し掛けた。
「『 』、実はね」
「?どうしたの」
「私、彼氏出来たの……!」
照れたのか、恥ずかしかったのか、カンナギさんが顔を赤らめて話し始めた。
「え?!いつから?」
「えと……2ヶ月前から。『 』とは仲良かったから一番最初に言いたかったけど私の都合が合わなくて…」
「へ〜、、おめでとう」
付き合ったというワードを聞いた途端、私の頭の中は2人で埋め尽くされた。何でかは分からない。分かる訳がない。彼らとは曖昧な関係で別れているのだから。
「『 』は彼氏とか居ないの?」
一瞬、言葉が詰まる。
ここで居ると言ったら夢を見て馬鹿げてる人になるのだろうか。
そしたら居ないと言ったら?
居ないと言ったら彼らから感じとった暖かさが嘘だと感じてしまう。
「あ〜……居るって言ったら居るけど、居ないって言ったら居ないかな」
「ふふっ、何それ」
曖昧に答えることしか出来なかった。
『好きだよ』
その言葉に何回酔わされた事だろう。騙された事だろう。
きっと私は
白雪姫のように棺の中で眠り、王子を永遠に待つ人間なのだろう。
好きという毒林檎を食べて、酔うのだろう。
それかシンデレラのように魔法使いが私を変えてくれるのだろうか。それとも、鼠で誰かが人と繋がるのを助けるのだろうか。
分からない。
そんな私が、
嫌いだ
_______◇◇
『なぁ、しずく』
『ん?』
『俺、お前の事好きなんだよ、』
『へへっ…嬉しい』
『その、照れた時に頬を触ったりする仕草とか、泣いた時に鼻水とか涙でぐちゃぐちゃになる顔とか、全部好き』
『だから────・・・・』
_『俺に全部ちょうだい?』_
「あ、」
道を歩いていたら特徴的な三つ編みの人を見つけた。
「ら、蘭……!!!!」
そう言うと気が付いたのか、こちらを見た。
「ああ、『 』。」
「ひ、久しぶり…!元気にしてた?あれからパッといなくなったから不安になったし、あの、それで」
久しぶりに会って、早口になってしまう。
今の私は可愛いかな。ちゃんとメイクが出来てるかな。髪も、何時もよりも似合っているかな。服も自然に着れてるかな。
ワクワクしながら蘭に話しかけた
「……髪伸びてるな。イメチェン?」
「あ、えと……最近伸ばし始めて」
「そう、似合ってるな」
わ、わわ……!!!!
「嬉しい、えへへ」
「──変わらないな」
「へ?」
「照れた時に頬を触ったりする仕草とか」
「ふふっ……それよりも、竜胆は?珍しいね1人でお出かけ?」
「…それよりも、これお前にやるわ」
そう言って渡されたのは1つのリング。指輪なのだろうか?
「あ、ありがとう…」
「最後だしな」
「ぇ」
不気味な事を言われて蘭の方を見ると先程のような暖かい目はしておらず、冷たい目になっていた。
「足洗えなくてごめんな。竜胆は今取引に行ってんの。俺も周りの観察してたんだよな。」
頭を撫でられた。
雨が1粒足元に落ちた。
「風邪引く前に家に帰れ。じゃあな」
待って、待って、待って!
「待って────・・・・」
このままだと、蘭と竜胆が言った言葉が嘘だと思ってしまう。
そんなの嫌だ。嘘じゃない、
きっと、
雨が頭に落ちてきて髪の毛が濡れる。
傘なんて今日は持ってきてない。周りにも持ってきていない人は居たけれど、皆走って駅とか100円均1店に行っている。
私は動く事が出来なかった。ただ、蘭が向かった先を立ち止まって見ていた。
雨が強くなってきた。
服も濡れてきた。濡れ吸収出来なかった水が足元に落ちていく。
「……馬鹿───・・・・」
最後くらい好きって言って欲しかった。抱きしめて欲しかった
貰ったリングを強く握りしめた。
あれから9年経った。
私は30。彼氏無し。未婚。永遠独身。
所得税やなんやらで持ち金は少ない。マッチングアプリ使用経験無。好きな人、気になる人無し。
堕落人生を楽しんでいた。
父親はバックれてどこかに行った。母は3年前に突然死。不幸続き。
かと思いきや私にも嬉しいお知らせが降って来た。カンナギさんが付き合っていた彼氏と1ヶ月後に式を挙げるそう。私も友達として心から祝福していた。
1ヶ月後のために私は昔よりも可愛く、美しくなるように努力を始めた。
そうして結婚式まであと二週間。
今日は仕事の為、家を早く出た。
最近は近くで通り魔事件等が発生していつもより倍以上に通勤時は警戒して歩かなければならない。しかし、今日は気分が良かった。ルンルンと鼻歌を歌いながら歩いていた。
首にはあの日貰ったリングを付けていた。
「ぁ、え?チェーン取れた」
自然につけてたらそうはならないであろうアクシデントに戸惑ったが仕方があるまい。ポッケに入れてまた歩き出す。
心は浮かれていた。
仕事も捗り定時には終わった。
ご飯も買ったので帰路をたどっていた。
辺りは暗くなり、時刻は19時。
後ろからは叫び声が止まらず、皆何かを叫んでいた。
「おい!!!警察呼べ!!!」
「きゃー!!!刺された!!!救急車……!!!!」
「誰か早く!!!一人倒れてる、!!!」
「どけ!!!早くどけろ!!!」
目の前に現れた。
通り魔だ。最近の犯人なのだろう……
「と、う…さん?」
変わらぬ見た目。
「お前!!刺されるぞ!!!逃げろ!!」
外野の声は聞こえなかった。ただ、
目の前にいる男の見た目が父親に似ていたのだ。
「どけろ!!!!刺すぞ!!」
「父さん……、」
「は、え、」
『 』?
ぐさり
目の前には血で埋められていた。
バックれてどこかに行った父親。再会は最悪な展開だった。
倒れて目の前には血溜まりが出来始めた。多分内蔵辺りを刺されたのだろうか。
からんとひとつ、リングが落ちた。
あまり動けないけど腕を伸ばして近くにまで持ってくる。
「fuzita…… 『shizuku』」
H.R
「あは…やっぱりちゃんと言っとけば良かった…」
好きだって、この世で、1番
何処かに行っても、会えなくても、ずっと想ってるのは変わらなかった。
「好きだって…」
言って
意識が途絶えた。
目の前が暗くなった。
藤田 『 』(30)死去
時刻は夜の19時。
今日も夜の街は街灯によって昼のように明るかった。
胸を主張するように当ててくる女も入れば腰抜けて男もいるそんな街。
「うげ〜…低気圧で頭痛いのにこんなにうるせぇ所に連れて来るなよ… 」
「あ?ごちゃごちゃ言うな。取り立てに行くんだよ。黙って着いてこい。」
No.2もどうやら頭痛のようで機嫌は斜めだった。
電話コールが鳴り響く。
音の主を辿れば自身のスマホであった。着信者は弟。すぐに出るとNo.2が怒鳴り散らかしてきた。それを流し電話をする。
「もしもし、どうした?」
「この間、通り魔事件あっただろ?」
俺の弟はこんな日常的にある事件に釘付けにされるほどミステリー好きだったのか。30年以上一緒に居るが初めて知った。
「それがどうした?面白い展開になったとか?裏に関係?梵天?」
「い、いや…死亡者の身元が ───」
「……そうか、」
そう言って電話を切った。
「そんな顔して何してんだよ。そんな顔する暇があったらさっさと働け。」
「…はーい」
少し、少しだけ
思い出に浸りたかった。
あー、あの日、ちゃんと言っとけば良かった。
好き
どうしてあの日は言えなかったのだろうか。いつもなら言ってたはずだった。ちゃんと、目を見て。
昔よりも可愛くなってた子。嬉しそうに頬を触って。変わらない仕草。
好きと
「言って」
重い空気の中、女性が話していた。
「残念ねぇ……まだお若いんでしょ?」
「はい、この子、親も機能してなかったんでしょ?そしたら親も親ね」
「ホントに…父親もバックれて逃げて母親は突然死。可哀想」
黒の喪服をきた女達がヒソヒソと話している。中には泣いている人もいる。
「しずく……なんで…もうすぐだったのに…───見て欲しかった…」
遺影を見た。
幸せそうに笑っていた、中学生。
それならば棺はどうなのだろうか?
首には新しいチェーンにぶら下げられているリングをつけており、幸せそうに微笑んでいた。
_______◇◇◇
深夜、ホールも閉まっている時間。外には2人の男が来ていた。
「…後悔、ねぇ」
「彼奴が先に死ぬなんてな。思ってもなかった。」
「引き摺ることもねぇよ。俺らは俺らの道を歩けば良いさ。彼奴も怒られねぇよ。」
「また…ガキのだった時みたいに遊びたかった」
ぼそりボソリと話していた。
数分後、一人の男が歩き始めた。
「忘れよう。これは日常だ。慣れろ」
「…」
彼女には、王子が来たようだった。
宝物はこれでいい。毎日、目の前に居たのにどうして気が付けなかったのだろうか。
彼は、彼等は、
彼女の宝物だ。
1人、寒く暗いホールで女性が眠っていた。
〈棺の宝物〉END
ここまで見て下さりありがとうございました!🙇
最後は田中の大好きな師匠からネタを頂きました…!!不要な点があったと思いますが、ここまで見てくださった方、ラブリーです。
そして、2ヶ月ほど前に言った通り、この話が最後の投稿です。ちまちまちまとかたつむりのように書いてましたが、そんな田中の作品を読んで下さりありがとうございます。1つでも多く反応を貰えた時は嬉しかったです。
田中はTERRORから離れる事は無いだろうと思っていましたが、やはり終わりはあるものです。実感しました。
創作で始まり、二次創作で終わるこの垢。夢がありますね。
支部や青い鳥にはずっといるので田中らしき人間見つけたらお声掛けください。
逃げます。
支部での投稿始まっております!!てか並行してやってました!🙃いや〜、冒険家っていいですね。大変だ(棒)
師匠が垢消したら田中も消すもん!と小3並の事を言ってましたが、先に消します。師匠、めんごです。反省はしてます。後日イラスト渡しますのでお許し下さい(小声)🤐
原神もやっております……(◜ᴗ◝ ) 俺は何処にでも生息してるので見つけやすいですね。ウケる
話したい事は沢山ありますが、この辺りで閉めようと思います!!
これにて田中食堂は終わりです!!ありがとうございました!!!いや、飯なんて提供してないですよ!!!!
see you again🫶