校舎の廊下。
誰もいない放課後、窓から差し込む夕陽が長く影を伸ばしていた。
僕は、傑のことを考えていた。
正直、僕は傑のことが好きだ。
ただの親友でも、仕事仲間でもなくて、恋愛として、彼のことを想ってる。
でも――言えない。
自分でも、なぜか言えない。
「傑は俺のこと、どう思ってるんだろう」
そんな疑問が頭をぐるぐるして、心臓がぎゅっと締め付けられる。
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「……悟、また考え事かい?」
教室で傑が近づいてきて、僕の肩を軽く叩いた。
「……ああ、そうかな〜」
顔を上げると、彼の笑顔が眩しすぎて、言葉が詰まる。
「傑……俺はさ、」
言いかけてやめる。
何も言わないほうがいいのかもしれない。
素直になれば壊れてしまう気がした。
「また変な顔してるぞ。悟らしくない」
「……そうかな」
「?……隠すなよ」
傑はそう言いながら、ほんの少し真剣な表情を見せた。
僕は目を伏せて、指先で机の縁を擦る。
「……俺……僕は、傑のことが好きだ。……ただ、恋愛として」
その言葉を言った瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
でも、言ったからって何も変わらなかった。
傑は、いつものように、少しだけ間をおいてから、言った。
「……そうか」
その一言が、あまりにも冷たくて。
僕は胸の中で、叫んだ。
「もっと言ってよ、俺のことどう思ってるのか」
でも、口から出たのは、「わかんない」だった。
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その夜、部屋でひとり天井を見上げる。
好きだって言うのは簡単なのに、
どうして僕は、素直になれないんだろう。
傑のことを想うたびに、
「自分には価値がない」って思いそうになる。
傑は強いから、完璧だから、だから僕はきっと、
弱さを見せられない。
壊れるのが怖い。
でも、それでも、傑の笑顔を見たい。
傑の隣にいたい。
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次の日、学校の屋上で傑を待つ。
傑は来たとき、少し驚いたようだった。
「なんだよ、悟」
「……昨日のこと、もう一度話したい」
傑はゆっくり座って、僕の目をじっと見た。
「好きだって言ったけど、俺……僕はまだ怖い。怖くて素直になれない。傑に嫌われるかもしれないって」
傑が静かに口を開く。
「私も怖いよ、悟。君に本当の弱さを見せて、距離を取られるのが」
「でも……だから、もう隠さない。俺は傑のこと、本気で好きだ。これからどうなるかはわからないけど、一緒に歩きたい」
傑は微笑んだ。
「そう言ってくれて嬉しい。私もだ」
その時、僕らはほんの少しだけ、距離を縮めた気がした。
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それからの日々は、ぎこちなくて、時にぶつかり合いながらも、
僕と傑は、言葉にできない距離感を少しずつ埋めていった。