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レンコン 煮付け
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―死んでいない・・・―
竜馬の頭に最初に浮かんだ思考はそれだった、それから痛みの感覚・・・騒音・・・そしてさっきから耳元でずっと自分の名前を呼んでいる、叫ぶのをやめてくれないか、騒々しい
たまに2~3人の声・・・右耳が水に浸かっているように遅れて聞こえる、深く暗い井戸の底から、見上げた時に見える小さな光のように、遠くにあるだけの光だったのに
でも次に水面の上まで浮かびあがった時・・・とても眩しかった
苦痛を感じた、息が出来ない、肺が熱い、次にまた誰かが叫んでいる、言われている事はわかっているんだ
ただ返事ができないだけだ、騒がないでくれ
でも彼らは了解しているようだった
彼らは竜馬の体にいろんなことをやり、その度竜馬に何をやっているか説明した、どうでもよかった、そこに存在しているのがやっとなのだから・・・誰かが死ぬなと叫んでいる、女性の声だ竜馬のことをいくじなしとも言った、それにムッとした、なのでわずかばかりの意思の力と、がむしゃらな頑固さを総動員して、痛みに立ち向かった
意識を失うまいと戦い続けた
何もできない自分が不甲斐ない、やがて怒ることに疲れた、そしてまた無意識の水の底へ沈んでいく・・・でも今度は確信があった次に目覚めるときがその時だと・・・
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竜馬が目をあけると、かたわらに髪の長い女性が立っていた、初めて目の焦点が合った
「竜馬さんっ!竜馬さんっ!」
その女性は自分に覆いかぶさって来た、彼女の温かい涙がポタポタ自分の頬に落ちるのを感じた、竜馬はしっかり彼女の顔を見た・・・彼女は何も言わなかった・・・二人は暫く見つめ立った
ああ・・・そこにいたのか・・・僕の・・・
竜馬は彼女に向かって微笑んだ
ニッコリ・・・「・・・ジェニ・・・」
大声をあげて彼女が泣き出した、首に必死にしがみついている、痛いからやめてくれ、大丈夫だよとか、なでなでしてあげたかったけど、情けないうなり声をあげるのが精一杯だった
それからまたコトンと眠ってしまった
.。 .:・.。. .。
次に目が覚めた時は、彼女はまだすぐ横にいた、今度は首に飛びついてこなかった、ありがたい、体は動かせなかったので顔だけ動かして彼女をじっと見た
彼女がしっかり手を握ってくれている、よく見ると目は赤く腫れて髪もボサボサだった
「気分はどう?」
竜馬はかすれた声で言った
「・・・最・・・悪・・・」
途端にゴホゴホ咳込む、ジェニは慌てて水の吸い口を竜馬の口に刺しこんだ、竜馬はごくごく飲んだ、喉がカラッカラだ、慌てて飲んだものだから気管に入った、これこそ最悪だった、咳をするたび肺が焼け付くように激痛が走った、41キロマラソンを走り終えたほど
疲労を感じ、枕に沈み込んだ、おびただしい量の咳が出た
「じっとして・・・竜馬さん、ゆっくり息を吸って・・・お水も飲んで・・・」
少し起き上がれた、ジェニが微笑んでいる、頬には涙の跡が見えた、ジェニが必死で背中をさすってくれている、とても疲れたがまだ眠りたくなかった
まだ彼女をちゃんと隅々まで見ていない・・・強引に自分をこの世に引き戻した
竜馬は息を吐き出し、すでに尽きかけている気力を奮い立たせる、生きているということはいろんな事に気づかされる、脚も肺もどこもかしこも痛かった
今度は彼女がカップを口元に運んでくれたので、ありがたく生ぬるいお茶を飲んだ
「・・・どれぐらい・・・僕は眠ってた・・・」
「三週間よ」
ジェニが微笑んで言った、疲労で目にクマがある
三週間・・・そんなに
ジェニが優しく竜馬の手の甲を撫でる、次にしっかり彼女の手を握った、もう片方の手を彼女も握り返してくれた、しばらく二人はお互いの形を確認するかのように見つめあった
ジェニは、一、二度、目をしばたいた、その拍子に涙がまたこぼれ落ちた
「事故のこと・・・覚えている」
「文也と・・・ボードに乗っていたんだ湖の端っこ・・・E地点だったな・・・」
記憶がよみがえる
「うん・・・」
「ガソリンが漏れている匂いに気がついたんだ・・・」
「うん・・・」
そこでハッとした
「文也はっ??」
「無事よ・・・自宅療養だけど、この病院の近くにホテルを取って、毎日あなたに会いに来てるわ」
「僕の釣り竿は、今頃湖の底かな・・・あれ高かったんだ・・・」
ジェニが泣き笑いをした、そんな冗談が言えるなら大丈夫だろうという顔をしている
「釣り竿なんかいくらでも買ってあげる」
竜馬は顔をしかめた
「いや・・・もうボートは一生乗らない、釣りはコリゴリだ」
竜馬はふぅとジェニが立ててくれたベッドの枕に頭を沈めた・・・起き上がれた位置に体をもたれさせると、少し楽になった
竜馬が手を伸ばしてジェニの顔を優しく撫でる・・・ジェニは微笑み竜馬の好きにさせる
やわらかい頬・・・生気溢れる肌・・・触ると温かだ、なにより見る喜びを与えてくれる、そこでジェニが着ている赤と黒のチェックのシャツに目が止まった
「その・・・シャツ・・・」
ジェニの服にしては違和感があった、どこか見覚えのあるような・・・そこで竜馬がハッとした、まさか・・・そんな、はずはない・・・
「持っていたのか・・・」
竜馬はそっと言った
「今まで・・・ずっと」
ジェニはポロポロ涙を流しながら、うなずいた
「20年間・・・私はこのシャツから離れられなかったわ・・・高校の時・・・これを持ってアメリカ中を渡ってあなたを探そうと、本気で計画していたのよっ」
もうたまらないといった感じでジェニの顔が、ぐしゃぐしゃになった
「いつかこれをあなたが取りにきてくれるんじゃないか、とずっと願っていたわ・・・忘れたわけじゃなかったの、まさかあなただったなんて・・・ごめんなさいね・・・私の乏しい想像力では追いつかなかったの、当時の私には、あなたはもっと年上に思えてたから」
ジェニの言葉に、竜馬は完全に心を打ち負かされた
そんなシャツ・・・こっちが忘れていたよ・・・そんなに思ってくれていたなんて・・・
じわっと竜馬の目にも涙が溢れる
「・・・ジェニ・・・」
「ああっ!竜馬さん!竜馬さん!」
ジェニがしっかりと自分の胸に竜馬の顔を抱き寄せた、傷口に手が当たらないように配慮してくれている、竜馬もきつく抱きしめたいのに力が入らないので、ジェニの好きにさせた
「あなたを忘れるなんて絶対にないわっ!何度でも見つけるわ、世界中どこにいても」
胸が苦しくなるほど締め付けられて、熱い涙がチェックのシャツを濡らす・・・そうか・・・僕だとわからなかっただけで、彼女は忘れていなかったんだ
今ではハッキリわかる、20年かかったかもしれないが、二人は確かにたどり着いたのだ
ああ・・・目を閉じているのに眩しい・・・
「いつでもここがあなたの戻る場所よ・・・」
竜馬は流れる涙をそのままに・・・子供のようにジェニの柔らかくて温かな胸に顔を埋めた
彼女の懐かしい匂いを嗅ぐ・・・体の力が抜けていく・・・暫くして涙声ではっきりジェニが言った
「おかえりなさい、大きいお兄ちゃん」
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コメント
1件
うわあ、このエピソード…ずっと息を止めて読んでました。竜馬の朦朧とした意識から始まって、ジェニとの再会シーンのじわじわと温かくなる描写が心に沁みました。特に「おかえりなさい、大きいお兄ちゃん」の最後の台詞、胸が詰まりましたね。20年越しにたどり着く、ってこういうことなんだ…。2人の歴史が一気に重なる構成が素敵でした。