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124 - 第124話 七の罪状 ~後編⑫ 火水の明暗

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2025年06月17日

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――それからどれ程経過しただろうか。



「どうやら勝負有り……だね」



氷の玉座に腰掛けて観戦していたエンペラーが、二人の闘いの終止符を呟いた。



チャリオットの足下で這いつくばっている時雨。身体中に重度の裂傷、そして火傷。文字通りズタボロにされていた。



「時雨さん……」



観戦する以外、術が無かった琉月も空いた口が塞がらない。まさか、ここまで一方的に打ちのめされるとは思わなかったからだ。如何に相性的に最悪とはいえ。



「ぐっ……」



動かなくなったと思われた時雨が、指だけを反応して起き上がろうとする。



「……まだやる気? アナタじゃ私に勝つ処か、指一本すら触れる事が出来ないって、まだ分からないの?」



チャリオットはうんざり気味に溜め息を吐いた。



「生憎、俺はしぶとくてね……。それはアンタが一番よく知ってんでしょ?」



立ち上がった時雨は満身創痍ではあっても、その瞳の光には些かの陰りも無かった。



「まだまだ勝負はこれから――ってね」



奮い立つような闘争心。この根拠の無い自信は何処から来るのか。



――正直、時雨自身は未だに勝機を見出だせていない。だが策が無い訳でもない。



もし、勝機が有るとすれば――



「ったく……。私が敢えて加減している事も分からない? その気になれば、何時でも殺れる。それをしなくてこの程度に留めているのは、アナタを五体満足のまま、私達の力になって貰う為よ」



「じゃあ、さっさとその気になれや。言っとくけど、俺は死んでも服従する気はねぇぞ。俺を止めたきゃ……殺すんだな」



チャリオットが本気で攻撃を仕掛ける、その一瞬の隙。



時雨が挑発するのは誘い。全力で攻撃すれば、誰でも一瞬だけその直後に隙が出来る。



「…………」



かつての弟子に挑発を受けて、チャリオットは考えあぐねているように見えた。



「カレン」



不意にエンペラーより掛けられる声。



「どうやら彼は、これ以上の理解は出来ないようだ。……もう楽にしてあげなさい」



それは止めの合図。それを受けて頷くと、チャリオットは時雨へと向き直る。



「全く……この馬鹿弟子が。せめて私の手で送ってあげる」



チャリオットの持つ炎の剣が、その姿を変えていく――



“神剣レーヴァテイン――ドラゴニクス・ブレストノヴァ ~炎龍形態焦圧”



渦巻く炎の龍へと。そしてチャリオットは、時雨へと狙いを定め突進。



それは正に顎の一撃。炎龍が口を開けながら、時雨を呑み込もうとしている。



「おぉぉぉっ!!」



これを待っていた。時雨は迎撃態勢を取り、炎龍へと突進。



これを防ぎきれれば――勝つ。



「――なっ!?」



しかし甘かった。炎龍はそのまま、時雨の身体を呑み込む。その腹部からは剣先が、確かに貫いていた。



「きゃあぁぁっ!!」



「時雨さん!!」



悠莉と琉月も、思わず絶叫する。



「残念ね……」



貫いたまま、チャリオットはそっと時雨へ耳打ちした。



決着を――だがこれで終わりではない。神剣レーヴァテイン、炎龍形態の真価は此処から。



「ぐおあぁぁぁぁっ!!」



貫通した剣が、内部より広がっていく。駆け巡る炎。瞬く間に時雨の身体は炎に包まれた。



そして――跡形も無く燃やし尽くし、浄化していった。



「そんな……」



残酷なまでに明暗を別けた決着に、誰もが呆然と立ち尽くしてしまったのは、ほんの一瞬の事だったかもしれない。



だが次の瞬間には――動き出した。



「――っ!?」



確かに燃え尽きた筈の時雨が、今まさにチャリオットの背後から、血の刃を降り下ろさんとする姿が。



チャリオットはまだ気付いていない。



“ブラッディ・アバター”



時雨の本当の狙いはこれだった。



水傀儡により大技を誘発し、その隙を突く。それこそが相性の差を埋める、唯一の戦略。



チャリオットは今更、防御は間に合わない。寧ろ気付かぬまま、その首は落ちる。



勝った。後は振り抜くのみ――の筈なのに。



「ぐっ!?」



時雨は違和感に気付く。振り抜こうとするが、振り抜けない――というより、身体が動かない。



「……忘れたの時雨? 私はアナタの師。良い戦術だったけど、私はアナタの思考まで読んだつもりよ」



チャリオットは振り返る事無く。



最初から全てが、彼女の手の内だったのだ。時雨は戦略を立てたつもりが、彼女に誘導されていた事になる。



それにしても、何故身体が動かないのか。心なしか、体温が上昇していく気がした。



“体温!?”



時雨はそこで気付いた。この状況の不味さに。チャリオットの持つ、力の意味に。



「クソがぁぁぁ!!」



全身の血液が、一気に沸点していく。最早、水傀儡で代替えする暇も無い。



「今度こそ終わりよ」



チャリオットは最後まで振り返る事無く、終焉を告げる――



“ブラッド・ヒート・クライシス ~焔血焦熱爆”


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