テラーノベル
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――それからどれ程経過しただろうか。
「どうやら勝負有り……だね」
氷の玉座に腰掛けて観戦していたエンペラーが、二人の闘いの終止符を呟いた。
チャリオットの足下で這いつくばっている時雨。身体中に重度の裂傷、そして火傷。文字通りズタボロにされていた。
「時雨さん……」
観戦する以外、術が無かった琉月も空いた口が塞がらない。まさか、ここまで一方的に打ちのめされるとは思わなかったからだ。如何に相性的に最悪とはいえ。
「ぐっ……」
動かなくなったと思われた時雨が、指だけを反応して起き上がろうとする。
「……まだやる気? アナタじゃ私に勝つ処か、指一本すら触れる事が出来ないって、まだ分からないの?」
チャリオットはうんざり気味に溜め息を吐いた。
「生憎、俺はしぶとくてね……。それはアンタが一番よく知ってんでしょ?」
立ち上がった時雨は満身創痍ではあっても、その瞳の光には些かの陰りも無かった。
「まだまだ勝負はこれから――ってね」
奮い立つような闘争心。この根拠の無い自信は何処から来るのか。
――正直、時雨自身は未だに勝機を見出だせていない。だが策が無い訳でもない。
もし、勝機が有るとすれば――
「ったく……。私が敢えて加減している事も分からない? その気になれば、何時でも殺れる。それをしなくてこの程度に留めているのは、アナタを五体満足のまま、私達の力になって貰う為よ」
「じゃあ、さっさとその気になれや。言っとくけど、俺は死んでも服従する気はねぇぞ。俺を止めたきゃ……殺すんだな」
チャリオットが本気で攻撃を仕掛ける、その一瞬の隙。
時雨が挑発するのは誘い。全力で攻撃すれば、誰でも一瞬だけその直後に隙が出来る。
「…………」
かつての弟子に挑発を受けて、チャリオットは考えあぐねているように見えた。
「カレン」
不意にエンペラーより掛けられる声。
「どうやら彼は、これ以上の理解は出来ないようだ。……もう楽にしてあげなさい」
それは止めの合図。それを受けて頷くと、チャリオットは時雨へと向き直る。
「全く……この馬鹿弟子が。せめて私の手で送ってあげる」
チャリオットの持つ炎の剣が、その姿を変えていく――
“神剣レーヴァテイン――ドラゴニクス・ブレストノヴァ ~炎龍形態焦圧”
渦巻く炎の龍へと。そしてチャリオットは、時雨へと狙いを定め突進。
それは正に顎の一撃。炎龍が口を開けながら、時雨を呑み込もうとしている。
「おぉぉぉっ!!」
これを待っていた。時雨は迎撃態勢を取り、炎龍へと突進。
これを防ぎきれれば――勝つ。
「――なっ!?」
しかし甘かった。炎龍はそのまま、時雨の身体を呑み込む。その腹部からは剣先が、確かに貫いていた。
「きゃあぁぁっ!!」
「時雨さん!!」
悠莉と琉月も、思わず絶叫する。
「残念ね……」
貫いたまま、チャリオットはそっと時雨へ耳打ちした。
決着を――だがこれで終わりではない。神剣レーヴァテイン、炎龍形態の真価は此処から。
「ぐおあぁぁぁぁっ!!」
貫通した剣が、内部より広がっていく。駆け巡る炎。瞬く間に時雨の身体は炎に包まれた。
そして――跡形も無く燃やし尽くし、浄化していった。
「そんな……」
残酷なまでに明暗を別けた決着に、誰もが呆然と立ち尽くしてしまったのは、ほんの一瞬の事だったかもしれない。
だが次の瞬間には――動き出した。
「――っ!?」
確かに燃え尽きた筈の時雨が、今まさにチャリオットの背後から、血の刃を降り下ろさんとする姿が。
チャリオットはまだ気付いていない。
“ブラッディ・アバター”
時雨の本当の狙いはこれだった。
水傀儡により大技を誘発し、その隙を突く。それこそが相性の差を埋める、唯一の戦略。
チャリオットは今更、防御は間に合わない。寧ろ気付かぬまま、その首は落ちる。
勝った。後は振り抜くのみ――の筈なのに。
「ぐっ!?」
時雨は違和感に気付く。振り抜こうとするが、振り抜けない――というより、身体が動かない。
「……忘れたの時雨? 私はアナタの師。良い戦術だったけど、私はアナタの思考まで読んだつもりよ」
チャリオットは振り返る事無く。
最初から全てが、彼女の手の内だったのだ。時雨は戦略を立てたつもりが、彼女に誘導されていた事になる。
それにしても、何故身体が動かないのか。心なしか、体温が上昇していく気がした。
“体温!?”
時雨はそこで気付いた。この状況の不味さに。チャリオットの持つ、力の意味に。
「クソがぁぁぁ!!」
全身の血液が、一気に沸点していく。最早、水傀儡で代替えする暇も無い。
「今度こそ終わりよ」
チャリオットは最後まで振り返る事無く、終焉を告げる――
“ブラッド・ヒート・クライシス ~焔血焦熱爆”
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