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第三十四章
静かなる影
―忍び寄る気配―
宿の廊下は、静寂に包まれていた。
部屋の中からは、穏やかな寝息だけが聞こえてくる。
羅刹は宿内をゆっくりと歩き、周囲の安全を確認する。
異常がないことを確かめると、部屋へ戻り、静かに結界を張った。
「これで……大丈夫でしょう」
小さく呟くと、羅刹は一度だけ扉を振り返る。
眠る四人の姿を思い浮かべながら、音を立てぬよう静かに宿を後にした。
夕暮れはすでに終わり、街は夜の帳に包まれている。
人通りの少ない路地を抜け、羅刹は街外れへ向かう。
やがて、大きな古木の前で足を止めた。
月明かりは枝葉に遮られ、その場所だけが深い影に沈んでいる。
「……お待たせいたしました」
静かな声が闇へ溶ける。
返事はない。
しかし、羅刹は誰かの存在を感じ取っていた。
「例の件ですが……変化がありました」
木々が風に揺れ、葉擦れの音だけが響く。
「まだ本人は気付いていないようです」
しばしの沈黙。
やがて、闇の奥で誰かが小さく息をつく気配がした。
姿は見えない。
声も、どこから聞こえているのか分からない。
「……そうですか」
短い言葉だけが返る。
羅刹は静かに目を伏せた。
「引き続き、様子を見守ります」
再び沈黙が訪れる。
羅刹は深く一礼すると、踵を返した。
その足音が遠ざかり、やがて夜の闇へ消えていく。
その場には、誰もいなくなった――はずだった。
しかし。
闇の奥では、一つの影が静かに空を見上げていた。
雲の切れ間から覗く月が、夜の街を淡く照らしている。
「……始まりましたか」
小さな呟きは夜風に溶け、誰の耳にも届くことはなかった。
コメント
1件
輪廻さん、第34話読んだよ〜〜🌸✨ 夜の宿、結界を張ってから誰もいない場所で報告——羅刹の行動がめっちゃ不気味でカッコよかった…!「まだ本人は気づいていない」ってフレーズがもう、これから何か起きる予感で背筋ゾワッとした😭💕 月明かりと闇の描写が美しくて、映像が浮かぶようだったよ。続きが気になりすぎる〜〜!