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#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
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蔓の巻きついた短剣が空中で静止するのを、蒼梧は呆然と見つめていた。 蔓は勢いよく引き戻され、短剣がナハトの口の中へ消えていく。
「そのババアの体は、囮の肉人形——本体はアタシだよ」
「そん、な——」
黒猫から発せられる魔女の声と、虚空から発せられるナギの声。
ドサリ、と何かが倒れる音がした。
一拍遅れて、何もなかったはずの地面に、ナギが唐突に姿を現した。
傷口から流れる血が、徐々に周囲へ広がっていく。
ひっひっひっ、とナハト——魔女が笑った。
「死んだか。ま、いくら半竜族の回復力でも、心臓をひと突きされちゃあねえ」
「ナギ!ナギ!——姉さん!」
叫びながら、蒼梧は必死にナギの体を揺さぶった。
しかし、その瞳からは既に光が失われていた。
「——蒼梧、刀をっ!」
どこかから、修の声が聴こえた。
そうだ——今はまだ、悲しんでいる場合ではない。
蒼梧はすぐさま、ナギの手に握られたままの闇斬りを手に取ろうとした。
だが——
「ほうら——こいつはお前の殺した、蜥蜴共のぶんだよ!」
——それより一瞬早く、禍々しい鉄の棒が、横殴りに蒼梧の体を直撃した。
それは、魔女が口から伸ばした蔓で操る、先程まで蒼梧の得物だったもの——地獄の獄卒の金棒だった。
「がっ……!」
「蒼梧っ!」
修の叫びが響く中、蒼梧の体は勢いよく吹き飛ばされた。
吹き飛んだ蒼梧は、僕の倒れているすぐ近くまで転がってきた。
僕は必死に体を起こし、蒼梧に駆け寄った。
「蒼——」
思わず、息を飲み立ち止まる。
蒼梧は血塗れの状態で、体をくの字に折り曲げて倒れていた。
ゴボッ、という嫌な音と共に、大量の血が口から溢れる。
口、鼻、目、耳、そして直撃を受けた腹——あらゆる場所から、血が流れだしているのが見て取れた。
「なんだい、もう終わりかい?情けないねえ。呪いで弱体化してるとはいえ、アンタだって半竜族の端くれ——んん?——おいおい、こいつは闇斬りじゃあないか!」
魔女は金棒を放り捨てると、蔓を伸ばし、ナギの手から闇斬りを奪い取った。
まずい。
魔女を殺すにはあの刀が不可欠であると、僕の直感が大音量で警戒アラートを鳴らしている。
僕は拳銃を構えようとして——手元に拳銃がないことに、ようやく気付いた。
慌てて周囲を見回す。
銃は、僕の後方——だいぶ離れたところに落ちていた。
どうやら、先程吹き飛ばされた時に手放してしまっていたようだ。
「まさか、こんなものまで用意しているとはねえ。ちょいと惜しいが——」
持ち上げた闇斬りを眺め、魔女は笑った。
その両の瞳が、真紅に染まる。
「——こんな危なっかしいもんは、アタシのコレクションには要らないねえ」
言い終わると同時に、刀は真っ黒な燃えカスのようになって、ボロボロと崩れ落ちた。
「そ、そんな——」
グルゥアアアアアアアアアアアアアアッ!
僕を支配しようとする絶望を追い払うかのように、獣の咆哮が辺りに響いた。
見れば、倒れた由宇が上体を起こし、掌を広げた片腕を、必死に前方へ突き出していた。
傍らには、オーマが心配そうに寄り添っている。
そして、由宇の腕の先——少し離れた位置に、大きな獣の影が揺らめいているのが見えた。
ヂューダだ。
生贄の印がもたらす苦痛に耐えながら、由宇がヂューダを具現化したのだ。
その影は、森で巨大化した時よりも小さい、二メートルほどの大きさだった。
そして何より、影の濃度も少し薄く、体の向こう側がぼんやり透けて見える。
由宇を蝕む生贄の印が、ヂューダにも影響を及ぼしているのだろうか。
僕の不安をよそに、ヂューダが魔女へと向かって突進していく。
だが、魔女は慌てなかった。
「守護霊獣——いや、式神の類いかい?まだそんなもんを出す力が残ってるとは驚きだが——」
メキメキ、という音共に、黒猫の体が肥大化していく。
「——鼠が猫に逆らってんじゃあないよ!」
あっという間にヂューダと同程度の身長の黒豹へと変身した魔女は、迫る敵を真正面から迎え撃った。
二つの巨体が衝突し——弾き飛ばされたのは、ヂューダの方だった。
仰向けに倒れたヂューダが、グウウウウ……と苦しげな呻き声をあげる。
「ヂューダ!」
由宇の悲痛な叫びが木霊する。
魔女は愉快そうに高笑いしながら、
「よく見てな、小娘!まずは、お前の可愛い騎士共からだ!」
そう叫ぶと、大きく息を吸い込んだ。
喉の奥に、黒い炎が見える。
僕と蒼梧を、まとめて焼き尽くす気だ。
僕は咄嗟に、尻ポケットから数枚の紙きれを引っ張り出した。
——『森』で見つけた、魔女の呪符だ。
この先の闘いで必要になるかもしれないと思い、木箱に入っていたものを一枚残らずくすねてきたのだ。
由宇から悪夢を追い払うのに一枚使ったので、僕の持っている呪符は残り三枚だ。
魔女が漆黒の巨大な火球を吐き出す。
僕は呪符を一枚右手で掴むと、迫る火球に向けて突きつけた。
「■■■■■■■ッ!」
呪符が一瞬金色に光り輝き、火球が僕と蒼梧の寸前でフッと消失する。
効力を失った呪符を放り捨てながら、僕は頭の中で数えた。
——残り、二枚。
僕の手を離れた呪符が、風に乗ってどこかに飛ばされていく。
「そいつはアタシの呪符かい?手癖の悪い餓鬼だねえ、まったく」
魔女が黒豹の顔で、ニヤニヤと笑いながら続ける。
「全部で何枚あったっけねえ——ま、たとえ何枚持ってようが、時間稼ぎにしかならないだろうがね」
くやしいが、魔女の言う通りだった。
このままではジリ貧だ。
「そうら、もう一発いくよ!」
魔女が再び、息を吸い込む。
拳銃を拾いに行く余裕はない。
「お……さむ……」
微かな呟きが耳に届き、僕はハッとして蒼梧を見た。
蒼梧は目だけを動かし、僕の方を見ていた。
僕の視線と、蒼梧の視線が交差する。
その瞬間——僕には、蒼梧の言いたいことがわかった。
半竜族になりかけの見た目。
ナギに対する「姉さん」という呼びかけ。
そして、先ほどの魔女の言葉——
「呪いで弱体化してるとはいえ、アンタだって半竜族の端くれ——」
——気がつけば、僕は自分の直感に身をまかせていた。
「■■■■■■■ッ!」
呪文を詠唱しながら、呪符を蒼梧の体に貼り付けた。
蒼梧の体が眩い金色の光に包まれる。
光の中、蒼梧の影は形を変え——巨大な蛇のような姿へと変貌を遂げた。
発光がやみ、その姿があらわになる。
竜だ。
ナギに——姉にそっくりな竜の姿が、そこにはあった。
——残り、一枚。
「ありがとよ、修——」
蒼梧が僕を見下ろし、言った。
ほぼ同時に、魔女の口から漆黒の火球が再び放たれる。
「——これでやっと、本気が出せる!」
叫ぶなり、蒼梧も真紅の火球を口から放った。
二つの火球がぶつかりあい、爆発を起こす。
「く、糞が——」
再び火球を吐こうとする魔女に、ヂューダが飛びかかる。
「ぐああああっ!?」
喉笛に噛みつかれた魔女が悲鳴をあげた。
蒼梧も地面すれすれを滑るようにして魔女へと襲いかかる。
三匹が絡み合い、格闘する中、僕はすかさず拳銃の元へと走った。
残る最後の呪符を尻ポケットに突っ込み、拳銃を拾う。
続けて蒼梧の助太刀に向かおうと、身を翻したその時——僕の前に、とある人物が立ち塞がった。
「ナ、ナギ……?」
ナギは胸と口から血を流し、白目を向いていた。
魔女の捨てた金棒を、片手で引きずるようにして持っている。
呆然と立ち尽くす僕の目の前で、その顔が一瞬、激しくぶれ——全く別人の表情が重なった。
スキンヘッドの、ほとんど骨と皮だけの痩せ細った男の、醜悪な笑み。
間違いない——魔女の手下の、体泥棒だ。
奴が、ナギの死体に入り込んだのだ。
僕は数メートル先のナギに向けて、拳銃を構えた。
「と、止まれ——動くな!」
しかし、僕の警告を無視して、ナギは金棒を両手で構えなおし——地面を蹴って僕へと襲いかかった。
コメント
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いやあ、めちゃくちゃ熱い回でしたね…! 修が直感で呪符を蒼梧に貼り、竜化させる展開が胸熱でした。ナギの死体に体泥棒が入り込むラストの絶望感もたまらない。もう残り一枚の呪符、どう使うのか気になって仕方ないです。次話が待ち遠しい!