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次の日の朝。
阿部は庭にいた。
目の前には照。
その隣に深澤。
少し離れた縁側には翔太と涼太。
そして目黒。
「なんで」
「めめまでいるの?」
「応援」
「本当に?」
「うん」
目黒の前には茶と食べ物。
完全に見物する気だった。
翔太が笑う。
「めめ、昨日から楽しみにしてたよ」
「言わなくていい」
阿部も少し笑った。
照が手を叩く。
「じゃあ始めようか」
「うん」
深澤が嬉しそうに阿部の横へ来る。
「俺が全部教えるね」
照がすぐ見る。
「ふっか」
「何?」
「今日は俺がやる」
「なんで?」
「昨日怒られたばっかりだから」
「もう反省した」
「早い」
阿部が吹き出した。
照は庭に落ちていた一枚の葉を拾う。
「阿部」
「昨日、春に変えた時」
「何考えてた?」
「春もいいなって」
「桜見たいとか」
「暖かくなったらいいなとか」
「それで力が全部そっちに引っ張られた」
阿部は自分の手を見る。
「うん」
照が葉を前に置く。
「だから今日はこれだけ」
「……葉っぱ?」
「そう」
「季節じゃなくて?」
「季節変えたら困るから」
深澤が横から言う。
「また夏とかになったら面白そうだけど」
照が見る。
「……黙ります」
翔太が縁側で笑った。
「この葉を少しだけ動かしてみて」
「どうやって?」
その瞬間。
目黒の声。
「ぐってして」
全員が見る。
目黒は真剣な顔。
「ふわって」
「めめ」
阿部が笑う。
「黙ってて」
「応援してる」
「それ応援じゃない」
照まで少し笑った。
「阿部」
「力を出そうとしなくていい」
「え?」
「自分の中に何かあるの、感じる?」
阿部は目を閉じる。
胸の奥。
暖かい何か。
「……ある」
「それを外に出すんじゃなくて」
「葉っぱまで道を作る感じ」
阿部はゆっくり手を伸ばす。
指先に。
ほんの少し緑の光。
「あ」
翔太が声を漏らす。
深澤も嬉しそうに笑う。
「綺麗」
阿部は葉を見る。
動いて。
そう思った瞬間。
ぶわっ。
庭中の落ち葉が一斉に舞い上がった。
「わっ!」
大量の葉が空を回る。
「違う違う!」
慌てるほど風が強くなる。
「阿部」
照の落ち着いた声。
「焦らない」
「でも!」
「止めるんじゃなくて、小さくする」
一枚。
一枚だけ。
阿部は必死に考える。
少しずつ風が弱まり。
葉が落ちる。
最後に一枚だけ。
阿部の前へふわりと浮いた。
ゆっくり右へ。
左へ。
そして掌に落ちる。
「できた」
照が笑う。
「できたね」
深澤が拍手する。
「すごい!」
翔太も涼太も笑っている。
阿部は目黒を見る。
目黒はもう立ち上がっていた。
紺色の神力まで嬉しそうに広がっている。
「あべちゃん」
「うん」
「すごい」
阿部が笑う。
「もっと褒めて」
目黒がすぐ近付く。
「すごい」
「上手」
「綺麗だった」
「かわいい」
「最後関係ない」
阿部は声を出して笑った。
「まだ終わってないよ」
照が咳払いする。
「はい」
目黒は少し残念そうに縁側へ戻った。
次は小さな石。
「今度は動かさない」
「触るだけ」
「神力で?」
「そう」
「何の練習?」
「力を出し過ぎない練習」
照が阿部を見る。
「阿部は出ないんじゃなくて」
「出すぎる方だから」
深澤が頷く。
「めめと一緒」
縁側から目黒。
「嫌だ」
阿部が笑う。
「そこ嫌なんだ」
「だから強くするより」
照が続ける。
「止める方が大事」
阿部は石へ神力を伸ばす。
緑の光が表面を包む。
「そのまま」
「それ以上出さない」
もう少し。
そう思った瞬間。
ぴし。
「あ」
ぱきん。
石が真っ二つになった。
沈黙。
「……ごめん」
深澤が吹き出す。
「めめと一緒!」
「俺より上手」
「比較そこ?」
翔太が笑う。
照は頭を押さえた。
「先長いな」
阿部も笑ってしまった。
でも。
怖くなかった。
失敗しても。
教えてくれる。
止めてくれる。
笑ってくれる。
「もう一回」
阿部が自分から言う。
照が少し笑う。
「うん」
次の石。
今度は割らない。
ほんの少し。
緑の光で包む。
十秒。
二十秒。
やがて光が消える。
石は無事だった。
阿部が嬉しそうに目黒を見る。
目黒はすぐ拍手した。
「できた」
阿部も笑った。
午後。
今度は深澤の番。
「次は楽しいことしよ」
照が嫌そうな顔をする。
「何する気?」
「妖怪呼んでみよう」
「呼べるの?」
阿部の目が輝く。
深澤が指を鳴らす。
すると庭の隅から。
小さな毛玉みたいな妖怪が現れた。
「温泉で見たやつ!」
阿部が手を伸ばす。
その瞬間。
緑の光。
妖怪はぴたりと止まり。
そのまま阿部の手へすり寄った。
「かわいい」
阿部が笑う。
深澤と照が少し驚く。
「どうしたの?」
「懐くの早いなって」
「普通じゃないの?」
「こんなすぐ来ないよ」
阿部が妖怪を撫でる。
緑の神力が柔らかく包んでいた。
照が静かに言う。
「阿部の力」
「やっぱり生き物とか自然に近いのかもね」
「春にしたから?」
「それもある」
深澤が楽しそうに続ける。
「育てる力、強そう」
「植物」
「動物」
「土地」
「そういうもの」
阿部は自分の手を見る。
緑。
春。
新芽。
桜。
「俺の力」
「そういう力なのかな」
「これから分かってくるよ」
照が頷く。
自分だけの力。
そのことが。
今日は少し嬉しかった。
夕方。
修行が終わる。
阿部が縁側へ戻ると。
目黒がすぐ隣へ来た。
「疲れた?」
「ちょっと」
「お腹空いた?」
「少し」
阿部はそこで笑う。
「よかった」
「何が?」
「まだお腹空く」
目黒は少し黙り。
阿部の手を握った。
「……何?」
「確認」
「何の?」
「あべちゃんがちゃんといるか」
阿部は目黒を見る。
柔らかい紺色。
心配。
それが分かる。
阿部も手を握り返した。
「いるよ」
目黒の神力が明るく揺れる。
今日覚えたこと。
葉を一枚だけ動かす。
石を壊さない。
神力を小さくする。
妖怪に触れる。
そしてもう一つ。
目黒が自分を心配すると。
少しだけ嬉しい。
それは。
誰にも教えてもらわなくても分かるようになっていた。
それから。
阿部の修行は毎日続いた。
葉を一枚動かす。
石を割らず神力で包む。
妖怪を驚かせないよう力を弱くする。
最初よりずっと上手になった。
「阿部」
照が声をかける。
「今日はここまで」
「もう?」
「できる時にやめるのも練習」
阿部が少し不満そうにする。
深澤が寄ってくる。
「あべちゃん」
「俺ならもうちょっとやらせるよ」
照が見る。
「ふっか」
「……はい」
阿部は笑った。
少し離れた縁側。
今日も目黒が見ている。
成功すれば嬉しそう。
失敗すれば心配そう。
全部。
紺色の神力に出ていた。
「めめ」
「何?」
「今日どうだった?」
目黒がすぐ立ち上がる。
「昨日より上手だった」
「本当?」
「葉っぱ、ちゃんと一枚だった」
「そこ基準なんだ」
「最初全部飛ばしたから」
「忘れてよ」
「覚えてる」
阿部は笑った。
その時。
ざわ。
空気が変わった。
阿部の笑顔が止まる。
鳥が一斉に飛び立ち。
山の奥の木々が不自然に揺れる。
照の表情が変わった。
「下がって」
深澤も笑顔を消す。
目黒が阿部の前へ出た。
「めめ?」
「後ろいて」
紺色の神力が一気に濃くなる。
警戒。
怒り。
阿部にも分かった。
次の瞬間。
森から黒い影。
人より大きな身体。
角。
長い腕。
赤い目。
「何……あれ」
深澤が低い声で言う。
「外から入り込んだ」
「結界破った?」
「多分」
黒い妖怪がこちらを見て。
一気に走り出した。
「あべちゃん!」
目黒が阿部を庇う。
妖怪の爪が。
目黒へ振り下ろされる。
その瞬間。
阿部は何も考えていなかった。
「めめ!」
身体が勝手に動く。
指先に強い緑の光。
地面が揺れ。
太い蔓が一気に伸びた。
一本。
二本。
三本。
妖怪の腕へ絡み付く。
さらに木の枝が動き。
目黒の前で盾のように重なった。
ばきん。
爪が枝にぶつかる。
目黒には届かない。
「あべちゃん?」
目黒が振り返る。
阿部自身が一番驚いていた。
でも妖怪は止まらない。
蔓を引きちぎろうとする。
めめに。
近付かないで。
そう思った瞬間。
緑の神力がさらに強くなる。
地面。
木。
草。
全部が阿部に応え。
蔓が妖怪の腕。
足。
胴へ巻き付く。
完全に動きを止めた。
「すご……」
翔太が小さく言う。
深澤も驚いた顔。
照は阿部を見つめている。
目黒だけは。
妖怪ではなく阿部を見ていた。
「あべちゃん」
阿部は荒い呼吸のまま聞く。
「怪我してない?」
目黒が固まる。
「……俺?」
「大丈夫?」
「大丈夫」
阿部の肩から力が抜けた。
「よかった……」
その瞬間。
蔓が緩む。
照が手を上げる。
金色の光。
妖怪の周りに結界ができた。
「もう大丈夫」
「力抜いて」
阿部が息を吐く。
緑の光が消え。
蔓も地面へ戻っていった。
深澤が妖怪へ近付く。
「これは後で外に戻すとして」
少し楽しそうに笑う。
「あべちゃん」
「何?」
「今、めめ守ったね」
阿部が止まる。
「……え?」
目黒がすぐ反応する。
「守った?」
「いや」
阿部が慌てる。
「勝手に力が」
「うん」
深澤は楽しそう。
「だから」
「勝手に力がめめを守った」
阿部の顔が少し赤くなる。
「目の前にいたから」
目黒が阿部の前へ来る。
「あべちゃん」
「俺のこと守った?」
「何回聞くの」
紺色の神力が。
今まで見たことがないくらい嬉しそうに広がっている。
「そんなに喜ばないでよ」
「なんで?」
「恥ずかしい」
「俺」
目黒が嬉しそうに言う。
「あべちゃんに守ってもらったの初めて」
「めめの方が強いんだから当たり前でしょ」
「でも嬉しい」
阿部は目を逸らした。
深澤が照を見る。
「これ、完全に感情で動いたね」
「うん」
阿部が二人を見る。
「感情?」
照が近付く。
「さっき、考えて力使った?」
「……使ってない」
「だよね」
「目黒が攻撃されそうになって」
「勝手に?」
「うん」
照が優しく頷く。
「阿部の感情に神力が反応した」
阿部は黙る。
怖かった。
目黒が怪我するのが。
嫌だった。
守りたかった。
そこまで考えて。
少しだけ困る。
目黒が顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「何でもない」
「俺、あべちゃんの気持ち見えない」
「見えなくていいよ」
「なんで?」
「なんでも」
目黒は少し不満そう。
でもすぐに嬉しそうになる。
「でも」
「何?」
「俺守ってくれた」
「……まだ言う?」
「うん」
阿部は呆れて笑った。
「嬉しそうすぎ」
目黒が阿部の手を取る。
「ありがとう」
阿部が少し目を見開いた。
以前なら。
目黒はありがとうなんて言わなかった。
今は。
ちゃんと言う。
阿部は少し笑う。
「どういたしまして」
その手を握り返した。
深澤が小さく笑う。
照にだけ聞こえる声で言った。
「ねえ」
「何?」
「これ」
「思ってるより早いかもね」
照が二人を見る。
繋いだ手。
その間に。
ほんの一瞬。
細い赤い光。
でも。
すぐに消えた。
「……そうかも」
阿部も目黒も。
気付いていなかった。
ただ。
阿部の中には。
一つだけ新しい気持ちが残った。
めめが傷付くのは嫌。
それがどういう意味なのか。
阿部はまだ。
考えないことにした。
コメント
1件
読み終えたわ…! 今回めっちゃ良かったな〜。 阿部が少しずつ力をコントロールできるようになってく過程が丁寧で、感情で動く神力って設定も最高。 特に、目黒を守ろうとしたシーンが熱すぎた。勝手に動いて、蔓がバッて伸びるの、めっちゃ刺さった。 「めめが傷つくのは嫌」って阿部が気付きかけてるのも、じわじわ来る…。 そして何より、目黒が「ありがとう」って言うようになったの、成長すぎて泣ける。 めめの神力が嬉しそうに揺れてる描写がもう、尊い…! この2人の距離感、このままじっくり見守りたい。 みらさん、今回も最高のエピソードでした🔥
kaede🍁
25,553

908
#mmab
七瀬⛄️
1,551