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美晴はホテル内にあるカフェ『ホワイトシェル』に出勤を続け、無事に幹雄とのバトルとなった証拠音声も回収することに成功した。仕事も順調で体力も回復してきた。
ある日曜日の昼下がりのこと。美晴が働くカフェにこずえが客として訪れた。
「美晴、元気そうでよかった!」
手入れの行き届いた髪にほっそりとした指。女性から見ても麗しいこずえは美晴にとって自慢の親友だった。
「心配してたんだよ」
「ありがとう。もうすぐ終わるから、どこかお茶でもしにいく?」
「あー、ごめん。行きたいのはやまやまなんだけど、今日は予定があって。でも美晴のことが心配だったから、一目会っておきたかったんだ」
「そっか。嬉しいよ、ありがとう」
こずえの優しさに心が震えた。お洒落をしているので彼氏とデートにでも行くのだろう――美晴も昔を思い出した。
まだこんな風に幹雄が酷い男だと知る前のこと。カフェの仕事終わりによく待ち合わせをしてデートを重ねたものだ。あの頃はよかった。純粋に幹雄を好きでいられた。でもそれを崩したのは相手だ。こずえにはたくさん悩みを聞いてもらったことを思い出す。
こずえは頼んだ珈琲を飲み干すと帰って行った。
「相変わらず上原さんは綺麗だね」
お茶をしていた様子を見ていた久次郎が突然美晴に声をかけてきた。
「あ、はい。そうですね」
以前一緒にホワイトシェルで働いていたこずえは、現在は転職をしており、かねてからの夢であるネイリストになるために修行をしている。
「あ、もちろん松本さんも綺麗だよ」
「ありがとうございます」
相原はいい人だが、他人との距離が異常に近いことが以前から気になっていた。既婚者に『綺麗』などと言うだろうか。しかもこのセクハラだのパワハラだの、うるさいこのご時世に。
「ほら。松本さん、やっぱり痩せたんじゃない? もっと食べないと」
二の腕辺りをぐっと掴まれ、そこから肩のラインを撫でられた。ぞわぞわとして気持ちが悪かった。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「そお? 心配だなあ」
心配だという割にはもっと別の感情を隠した目線を美晴に送り付けていた。好意的なはずなのになぜかとても気持ち悪く感じてしまう。
肩を何度も揉むように撫でられ、再びぞっとした。
「あ、ほんとに、大丈夫なので……」
「そうかなあ。僕にはそう見えないけど」
「あ、洗い物がたまっているみたいなので、片付けてきますね。失礼します!」
(今のって、セクハラ……?)
(もしかして復讐アプリが調査をして欲しいという人物って、訳ありの人ばっかりなのかも…)
正直に言うと人様の個人情報をアプリに渡すのは、情報を売る=犯罪行為に思われるので気は進まなかった。なんの罪もない上司を勝手に調べて己の私利私欲のために利用をする――人当たりのよい彼が悪人である可能性は、一切考えたことがなかった。だが、彼が悪人だというのなら話は変わってくる。
仕事を終えた美晴は、カフェ内の事務所にある壁にかけられたタイムカードを見つめた。たくさん同じようなカードが並んでいる中に、久次郎のものを見つけて眺めた。誰もいないことを確認し、こっそりそれを撮影するのが日課となりつつある。今日、久次郎は同じ朝番だった。彼もじきに仕事の上がり時間になるだろう。
見つかるのは面倒なので、美晴はさっさと着替えを済ませて外へ出た。暫く待っていると久次郎が大股で出てきた。
(尾行…してみよう!)
美晴は追跡を開始した。