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血のついた剣を片手に、男が隠し部屋へと押し入る。

随分と身なりがいいため、もしかすると帝国の皇族かもしれない。男は金色の瞳をすがめると、二人の生存者を交互に眺めた。


「お前たちが王妃と王女だな」

「……いいえ」


男を睨みつけながら王妃が答える。


「私たちは身代わりです。本物の王妃様と王女様はとっくに脱出されました」


顔をこわばらせて敵国の男と対峙する王妃を、ルツィエが見つめる。おそらく敵を撹乱させるために嘘をついているのだろう。ほんのわずかでも、命が助かる可能性にかけて。


「そうか、身代わりか……」


男が白けた目で王妃を見下ろす。

ルツィエはうまく誤魔化せたと思って安堵の息を吐いたが、その直後、男が王妃を蹴り飛ばして剣を向けた。


「王妃じゃないなら、適当に殺したって構わないよな?」

「駄目……っ! お母様!!」


ルツィエが王妃を庇うように前に出る。


「やめてください! あなたたちは神宝花ディラ・フロールを探しているのでしょう……!? お母様の命を奪えば、神宝花の在処は永遠に分からなくなります」


恐怖に声を震わせながら必死で訴えた。

きっと今ので自分たちが本物の王妃と王女であるとはっきり分かってしまっただろう。しかし、母まで殺されそうになるのを黙って見てはいられなかった。


(神宝花を探しているなら、王族を全滅させることはないはず。お父様とお兄様は亡くなってしまったけれど、せめてお母様だけは……!)


男を見つめるルツィエの顔を、男もまたじっと見つめた。

薄い唇が歪んだ弧を描く。


「そうだな、命の恩人になるのも悪くないか」

「……」


命乞いする者を生かしたからといって、決して恩人などではない。でも、なんとか命を守ることができた。


(よかった……)

そうしてほっと気を緩めたときだった。

すぐ耳元をヒュッと冷たい空気がよぎった。

「うっ」という小さな呻き声が聞こえ、王妃の身体が大きく傾いで床に倒れた。

石造りの床に赤い液体が広がった。


「どう、して……お母様……?」


倒れた王妃の身体から男が長剣を抜く。

その剣先から王妃の血が滴り落ち、男が満足そうに口の端を上げた。


「なぜですか!? さっき命は助けてくださるって……!」

「ああ、助けてやるよ。ルツィエ王女、お前の命だけは」

「……っ!?」

「この国の人間は口が堅いようだ。国王も王子も家来も、神宝花の在処はおろか、この隠れ場所のことさえ一切話さなかった。だから王妃だってどうせ何も話しはしないんだろう? だったら生かしておく意味はない。どうせしらみ潰しに探せば、そのうち見つかる。この隠し部屋と同じだ」


男が剣についた血を払って鞘に納める。


「だが、お前は殺すには惜しいから生かしてやる。感謝しろよ」

「そ、んな……」


信じられなかった。

神宝花を盾にすれば切り抜けられると思った。

ましてや武器も持たない無力な王妃と王女。

騎士道を知る人間なら、殺しまではしないはずと信じていた。


それなのに、まさか母は救いの手から外れ、自分だけが生き残ることになるなんて。


(私が浅はかだったんだわ……。大事な駆け引きを失敗してしまった──……)


「ル、ツィエ……」


血溜まりの中から王妃のか細い声が聞こえ、ルツィエはすぐにひざまずいた。


「お母様、ごめんなさい……! 私のせいで──」

「泣いてはだめよ、ルツィエ」


王妃に言われて、ルツィエはハッとした。

そうだ、今自分の中には神宝花が封じられている。

涙を流せば花びらとなって現れ、この男の手に渡る。


(最後まで黙っていたお父様たちの死が無駄になってしまう)


ルツィエが泣くのを堪えると、王妃が口もとに笑みを浮かべた。


「ルツィエ……あなたは何も悪くない。これでいいの……」

「お母様、嫌です……私を置いていかないでください……!」


王妃の血塗れの手を握りしめて、ルツィエが必死に呼びかけるが、命の灯火が今にも消えようとしているのは明らかだった。


「ルツィエ……愛しているわ……泣かないで、どうか、笑って──……」


その言葉を最後に、王妃の目から光が消えた。

最愛の母の死を目の当たりにし、ルツィエが呆然と動けずにいると、敵の男がルツィエの腕を掴んで無理やり立たせた。


「ルツィエ、僕が誰か知っているか?」

「……いいえ」

「僕はノルデンフェルト帝国の第二皇子、ヨーラン・ノルデンフェルトだ。この戦争は我が国の勝利で終わった。よって、お前を戦利品として帝国へ連れていく」

「戦利品……?」

「ああ、今日からお前は僕のものだ」


母を目の前で殺した男が、ルツィエの頬に馴れ馴れしく触れる。


憎い。汚らわしい。悲しい。悔しい。許せない。

あらゆる負の感情が溢れそうになる。


(……でも、決して泣いてはいけない)


必ず生き抜いて神宝花を守り、この王宮を取り戻す。

そして──。


「ほら行くぞ、ルツィエ」

「……はい、殿下」


いつか必ずこの男、そして帝国に復讐する。

ルツィエはそう胸に誓い、ヨーランに差し出された手を取った。


全てを失った悲劇の王女は敵国で微笑む

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