テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「築留(ちくどめ)工業の絶対王」として君臨してから一ヶ月。怜也の心の中にあった「女子への恐怖心」は、肥大化した自己愛と、ある種の「諦め」によって、真っ黒な**「クズの処世術」**へと変貌を遂げていました。かつては女子の視線に怯えていた少年は、今やランキングトップ3を顎で使い、自らの欲望を最大化することに一切の躊躇がなくなっていたのです。
「三位一体」の便利な使い分け
ある日の昼休み、怜也は生徒会室のソファに深々と腰掛け、スマホでゲームに興じていました。その周囲には、学校中の男子が跪いても拝めないような豪華な顔ぶれが揃っています。
「あー、腹減った。茜、いつもの激辛チャーハン。あと、口直しのアイスも買ってきて」
「お安い御用だよ怜也きゅん! 怜也きゅんの胃袋、あーしがマジで激辛に染め上げてあげるー! ちょー急いで買ってくるから待っててにゃん!」
第3位の茜は、怜也にパシリ同然の扱いをされても「自分が必要とされている」というギャル特有の献身的な勘違いを起こし、全速力で購買へと駆けていきました。怜也はその後姿を見向きもせず、今度は隣に立つ第2位、由奈を見上げました。
「由奈、午後の実習のレポート、代わりにやっといて。僕、眠いから」
「……あんたね、少しは自分でもやりなさいよ。……ま、あんたが単位落として留年なんてしたら、私の監視から外れちゃうしね。特別よ、特別」
由奈は毒づきながらも、怜也の分まで工具を磨き、ノートをまとめ始めます。彼女にとって怜也は「自分がいないと何もできないダメ男」であればあるほど、独占欲が満たされる対象になっていたのです。怜也はその「依存心」を完璧に理解し、利用していました。
そして、背後で静かに怜也の髪を梳かしているのが、第1位の心美です。
「怜也。今週末、私の実家でパーティーがあるの。エスコートしてくれるわね?」
「あー……気が向いたらね。心美の家のワイン、高いんだろ? それ次第かな」
「ふふ、傲慢ね。でも、その不遜さが私の『王』に相応しいわ。最高のヴィンテージを用意させておくわね」
心美は、他者に頭を下げたことのないプライドを「怜也という王に仕える喜び」へと変換させられていました。怜也は彼女を「高級な財布兼コネクション」としてしか見ていませんでしたが、心美はその冷たさにさえ恍惚を感じていたのです。
クズの咆哮:欲望の暴走
放課後、怜也は三人(と、最近勝手に混ざっている絵美)を従えて、駅前の高級焼肉店へと向かいました。もちろん、支払いは「ランキングトップ3」が競うようにして済ませます。
「ねぇ、怜也くん。今日は私の車で、少し遠くまでドライブに行かない? 茜たちには内緒で……」
絵美が色っぽく誘いかけると、怜也は平然と言い放ちました。
「絵美さん、悪いけど僕、今日は由奈の家でゲームする予定なんだ。あ、でも車だけ貸してくれる? 燃料は満タンでさ」
「えぇっ!? 車だけ!? ……もう、怜也くんったら……。いいわよ、鍵渡すから、明日の朝には返してね?」
絵美までもが、怜也の「図々しさ」を「強気な男の魅力」と捉え、甘やかし始めます。怜也のクズ化は、もはや止まる所を知りませんでした。
「怜也きゅん! 車あるなら、あーしと海行こーよ! ちょー盛れる水着買ったんだけどー!」
「海? 疲れるから嫌。それより茜、僕の分のスマホの課金カード、コンビニで買ってきてよ。1万のやつ。あとで『愛してる』って言ってあげるから」
「マジで!? 1万で怜也きゅんの『愛してる』ゲットとか、コスパ最強なんだけどー! 行ってくるー!!」
怜也は、汗をかいて走っていく茜の背中を見ながら、心の中で冷笑しました。
(……チョロい。みんな、僕がちょっと冷たくして、たまに甘い言葉をかけるだけで、勝手に貢いで、勝手に尽くしてくれる。中学時代にあんなに苦労したのが馬鹿みたいだ)
支配者の孤独(?)
夜、由奈の家で彼女にマッサージをさせながら、怜也はふと思いました。
「由奈さ、僕のこと好きだよね?」
「な、なによ急に。……好きに決まってるでしょ。じゃなきゃ、あんたのレポートなんて書かないわよ」
「じゃあさ、明日までに僕の代わりに、隣町のゲーセンの整理券、並んで取ってきてよ。始発でさ」
「……っ。あんた、本当に……。……分かったわよ。風邪引かないように着込んでいくから」
怜也は、由奈の献身的な瞳を見ても、何も感じなくなっていました。
かつての「優しくて、好きな人にはちゃんと想いを伝える」怜也は、もうどこにもいません。今ここにいるのは、三人の「かわいい」を利用し、自分のサボり生活を極限まで高めるためのシステムを作り上げた、冷徹な支配者でした。
「あーあ、明日は心美に何か高い時計でも買わせようかな……」
怜也は天井を見上げ、独り言を漏らしました。
女子に怯えていた日々は遠い過去。しかし、彼を取り巻く「愛」という名の執着は、彼が想定していたよりもずっと深く、そして暗い渦となって彼を飲み込もうとしていました。
「(平和なサボり生活……。でも、なんか……腹の底がスカスカするな。まぁ、いいか。三人が僕のために動いてくれる限り、僕は『無敵』なんだから)」
クズ男・長島怜也の覇道は、築留工業の常識を塗り替えながら、さらなる混沌へと突き進んでいくのでした。