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その勢いで放った『付き合ってみる?』の軽い言葉に、まさかの身を乗り出す勢いでOKしてきた。
(いよいよ、どんな女なのかさっぱりわからないって流れでホテル連れ込もうとしたらさ)
『え、えっちなことしたことない』
泣き出しそうな声で言った。
揺れる瞳が、見上げてくる。
その顔を前に、さっきよりも確実に心臓が激しく動揺を知らせた。
緊張していたのだと思う、女を前に。そんな自分がまだ残っていたことに驚いた。
その時、無意識に浮かんだ言葉は。
”あ、ヤバイ、やっぱこいつマジで可愛い”だったけれど。
認めるわけにはいかなかった坪井は、その日から二つに分かれてしまいそうな意識の中を行ったり来たり。交差して過ごしてきた。
”どうにか、うまいこと別れよう”
”可愛い、好きだ、大切にしたい”
受け取る真衣香にしてみれば、振り回されただけの日々だったのだろうと、坪井は思う。
また、坪井にとっても真衣香との日々は予想外の連続だった。
まず”予想外”には慣れていない。
なぜなら、いつも相手の行動を予測して先回り、自分に都合がいいよう物事を運ばせようとする癖があるから。
だから。もちろん、真衣香の行動もある程度予想していたつもりだった。
あの、小野原との一件。
小野原には、真衣香の存在を敢えて隠さなかった。
必ず小野原は”自分よりも格下”だと認識している真衣香を疎ましく感じ、行動に出るはずだった。
だから、真衣香が逃げ出す前提で予測した。
。
(好意だって何だって、利用して楽に物事が進むなら存分に使えばいい)
そんな考えのもと。真衣香が、慣れない剥き出しの敵意に傷ついてたら優しくフォローして。そつなく別れようと頭の中では描いていたのに。
(色々舐めてたなー、俺、ほんとバカだ)
まず、いちばんに。
実は冷静でなかったようで、予測が浅はかだった。小野原には思ったよりも実害のある方法を取られた為、高柳には睨まれる羽目になったし。
更には全てを見透かしていたかのように、真衣香に狙いをつけた高柳を決して敵に回したくないと感じた……というオチ付きだ。
そして実際に高柳に呼び出され、泣き腫らしたような真衣香の目を見て。カッと頭が熱くなった。感情のコントロールが効かなくなっていたように思う。
利用しようとしたくせに、小野原に怒りをぶつける始末だったから。
しかし、それよりもさらに驚いたこと。
最後に小野原から笑顔を引き出した真衣香の強さ。
丸く納めるとはまさに、この事だ。
華奢で弱々しくて、守ってやりたくなるような女だと思っていたのに。それを可愛らしく思い、またそれが、興味のもとでもあり、関係を持っても適当にやり過ごせると思った理由だったから。
けれど真衣香は、その実、守られるような女ではなかったようだ。
迷い悩んでばかりの自分を疎んでいたが、それは裏を返せば己の短所から目を逸らしていないということ。
(まるで、俺とは正反対)
物静かに、決して声を荒げることも主張することもないけれど。例えるならその場にしっかりと根を張る生き方をしている。