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「初めまして。僕は主人公を演じる健(けん)です。よろしく」
「初めまして。私はヒロイン役を演じる萌音です。よろしくお願いします」
僕たちは同じクラスなのに初めて顔を合わせた。
「よーーいスタート」
1人の声が教室に響きカメラが回り始めた。
ガラガラ
扉を開けて2人の男が僕に声をかける。
『おはよう』
『おはよー』
『おはよう。2人とも元気だね』
『健は今日のテストはどうなの?』
『テストか。赤点かもな』
『俺もだぜ』
知人Aと赤点を取る約束として握手をした。
『僕たちは仲間だ』
『一緒に赤点を取ろうぜ』
知人Aが女神のように感じた。
『お前らまだそんな事言ってるの?
そろそろ赤点から脱出しろよ』
そう翔太が言ってきた。
翔太はテストは満点、成績はオール5運動神経も抜群で高嶺の花と呼ばれている。
『そんな事言われても……僕には無理だよ』
『俺が教えてあげるから早く教科書開きなさい』
僕は仕方なく鞄から教科書を出そうとした時、ガラガラ扉が開く音がした。
振り返るとそこには美少女がいた。
『それよりお前、あいつのこと好きなんだろ?』
知人Aが美少女の方を指差した。
『う…うん』
図星をつかれて言葉が出なかった。
『あいつは高嶺の花って呼ばれてるぐらいテストは満点、運動神経も抜群に良いし、顔が小さくて可愛い。お前が赤点取ればもう釣り合わないな』
『そうだよな』
僕はため息をついて空を見上げた。僕の好きな人は萌音。確かに釣り合うはずがない。
『ねえ、今日のテストできそう?』
その声が近づいてきた。僕に話しかけてる?
まじで!?横を見ると翔太と萌音が話していた。
あいつは昔から幼なじみだった。
それが羨ましかった。楽しそうに笑っていた。
あんな顔は見たことない。
萌音は自分の机に向かって行った。
『お前は良いよな。勉強も出来て運動もできて……。僕とは大違いだよ。僕とあの人なんてどうせ釣り合わないんだ』
『勉強はやれば伸びるから。
早く教科書を出しなさい。教えてあげるから』
『ありがとう』
鞄から教科書を出した。翔太が教えてくれている間、ずっと萌音の事を見ていた。
「カッーート。完璧だね」
教室での撮影が終わった。今、僕たちは6月にある文化祭の映画を作っている。『高嶺の花と勇者の恋』という話だ。僕は主人公の名前と同じ健。実は僕は萌音のことがずっと好きだった。だから、この役になった時運命を感じた。萌音と話すことが出来るんじゃないか?それで付き合えたらな。そんな妄想が後を絶たない。
「ねえ、何してるの?」
この声は?前を見ると萌音がいた。明らかに僕に話しかけていた。心臓の音が急に早くなる。
「何も、して、ないけど」
出た言葉は途切れ途切れだった。
「何か、ずっと下向いてたけど」
妄想をしていたなんて絶対に言えない。
「いや、何もしてないけど」
「そう?」
今がチャンスだ。何か言わないと。
「あの、一緒に海に行きませんか?」
「映画の下見ってこと?良いよ」
そうだった。次の撮影は海で行われるんだった。何はともあれ、2人で海に行けるのは嬉しかった。明後日行くことになり、胸がドキドキしている。うまく行くかな。嫌われないかな。
「おーい」
この声は知人A役の空だ。
「結構良い感じじゃん」
「ありがとう」
「俺はお前を応援してるからな」
「ありがとう」
そして、海へのデートの日となった。
デートと呼べるかは分からないけど。
デートは好きな人と行けたらデートだと
思っている。
僕は駅前で萌音を待っていた。
約束の時刻から5分が経ったが、
まだきてなかった。何かあったのか。
忘れたのかな。
時間が経つことに不安が増えていく。
時間と不安は比例していることが分かった。
気がつくと10分が経っていた。大丈夫かな。
「ごめーーん」
振り返ると萌音が手を振っていた。
「何してたの?」
「少し、寝坊しちゃって」
こんな日に寝坊するのもまた可愛らしい。それがモテる理由なのかもしれない。手汗が止まらなくなり、ドキドキが止まらなかった。
「よし行こう」
僕は上手く萌音をリードしようとした。駅に行き電車に乗ろうとしたが、乗る電車を間違えてしまい、気づいたのも遅く、
海とは真反対の都会へ着いてしまった。
「何やってるの!」
その声が僕の頭の中で永遠に流れている。もう嫌われたかもしれない。
やっぱり僕たちは釣り合わないんだ。
「早く行くよ」
今度は萌音が僕をリードしてショッピングモールに連れて行った。海ではなかったものの、服や文房具を買って盛り上がった。その途中でラインを交換した。
僕にとってライン交換は恋への第一歩だった。
「ねえ、かき氷が食べたい」
突然、萌音がそんな事を言い出した。僕は必死に地図を見て探した。かき氷が食べれるところは……。
ここから歩いて30分のところに店があった。
「ここから歩いて30分だって」
「30分も歩くの……。
無理だよ。もう足が疲れたよ……」
「じゃあかき氷は諦めるか……」
「食べたい。でも歩きたくない」
こういうわがままな所も可愛いな。そんなことを思いながら僕は萌音をおんぶした。人生で初めて人をおんぶした。
「ありがとう」
それから1時間が経っただろうか。やっとかき氷屋に着いた。
「着いたよ」
「ありがとう。健君は優しいね」
優しい。初めて人に褒められた。それが自分の中でとても嬉しかった。もしかして僕たち、
このままいけば付き合えるんじゃ……。
そんな妄想をしていたら前に涙目の萌音がいた。
「どうしたの?」
「店が閉まってる」
「え!?」
そこには休みとあった。改めて地図を見てみると今日は休みと書かれていた。
「ごめん。本当にごめん」
「いや。良いよ。こちらこそごめんね」
結局カフェに行った。コーヒーを飲みながら
「そろそろ帰る?」
僕が萌音に言ったが、返事がなかった。
前を見てみると萌音は眠っていた。
僕は萌音をもう1回おんぶして
駅まで連れて行った。
「今日はありがとう」
「おはよう。こちらこそ……たの…しかったよ」
寝言かどうかは分からないけど、声が聞こえた。電車の中ではずっと眠っていた。
その姿も可愛かった。
次の日、クラス全員で海に行き、
撮影が始まった。
「よーーいスタート」
学校から帰る途中、
海で知人Aと遊ぶことにした。
『結局、お前、テストはどうだったの?』
知人Aが聞いてきた。
『25点。そっちは?』
『23点』
『やったー。2点勝ったー』
知人Aが僕に水をかけてきた。
『今回はちょっとお腹痛くて』
『またそうやって嘘ついて……』
水をかけあい、
気がつけば両方ともずぶ濡れだった。
『楽しかったな』
ずぶ濡れのまま帰ろうとした時、萌音を見つけた。その隣には翔太がいた。
『あいつらまさか……』
知人Aがそう呟いた。とても悔しくなった。
「カッーート。最高だわ」
いつになっても緊張する映画撮影。
萌音が僕の方に近づいてきた。
「本当は昨日、ここに行くはずだったのにね」
「うん」
まさか、萌音は僕のことが好きなのか。
少しだけ期待してしまった。しかし、
それは呆気なく終わりを迎える。
次の日、教室に行くとザワザワしていた。
「何があったの?」
空に聞いたが、答えてくれなかった。
「ねえ、教えてよ」
「お前が1番辛いかもしれないが、
萌音と翔太が付き合ったらしい」
「え……」
頭の中に衝撃が走った。うそだ。嘘だ。萌音ロスが起こってしまった。あの映画通りになると……。一旦忘れようと空を見上げた。
ここ最近撮影があるため、疲れが取れていない。今日も撮影があるし。よし。撮影に集中しよう。
「よーーいスタート」
あれから萌音は学校に来なくなった。
なんだか嫌な予感がしていた。
いつも通り窓から空を見上げていると、
1匹の鳩がこっちに近づいてくる。
勢いよく向かってくる。
『何?』
鳩は窓のヘリに座った。
『萌音様が連れ去られてしまった』
どこからか声が聞こえたが、
どこか分からなかった。
『どこから声が聞こえるんだ?』
『ここだよ』
『どこだよ?』
『鳩だよ!』
鳩が喋るなんて聞いたことがない。
『嘘つけ!』
『本当だよ。それより萌音様が』
萌音様?
『何で萌音様って様をつけるんだよ』
『萌音様は私の王国の王女だからです』
もう意味が分からない。
『わかりました。全て話します』
そして、萌音の過去が話された。
『5年前、ソウル王国では100人が住んでいた。その1人1人が人間であり、魂を持っていた。
魂を取られると記憶を失い、体力がなくなる。
さらに狼に狙われやすくなる。
なぜなら魂は美味しいのだ。
ただし、魂を持つものは強くなれる。
また、魂をとって誰かに渡すことも出来る。
そんな王国の王女だったのが
アンドリューモネだった。
王女の魂は人の5倍大きく、狙われやすくなる。萌音様は国の事を第一に考えて
いろんな法律を出していた。
そんなある日、1人の悪の魔法使いが現れた。
悪の魔法使いは僕たち住民を鳩にしてしまった。そこに、1匹の狼が現れた。
狼は萌音様を連れて行った。
なんとか助けに行こうとしたが、狼は強かった。結局、みんなで助けに行った時には
萌音様は魂を食べられてしまい、
記憶を失っていた。
1匹の鳩が生贄となり魂を
取り戻すことが出来たが、
また狙われてしまうと思い、人間界に送った。
人間界に行き、名前を萌音と名乗り
海洋高校に入った。
その狼が魔法使いの仕業で
人間に化けてたのです』
『それがどうしたんだよ』
『その狼が翔太なのです』
『え……』
『早くしないと……。
今、魂を取られてるかもしれません』
『記憶を無くしてしまうのか?』
『はい。そうです』
『でも、どうしたら良いの?』
『勇者になるのです』
『勇者?』
『はい。
こっちにも協力したいという人がいるので』
訳あり?不安が募ってきた。
『こっちにきてください』
そう言われ、
グランドに行くと1人の黒い女が立っていた。
『お前に魂を授ける。私の魂と引き換えに』
『そんなことをしたら……あなたは?』
『私は姫のためなら命を捧げても
良いと思ってる』
『何で……』
『私は姫のお母さんだから行くぞ。1.2.3.』
突然、自分の体が光り始めた。気がつくと勇者の姿になっていた。右腰に剣を持ち、
青い服を着ていた。
『うわーすげー』
バタン
黒い女は倒れてしまった。
『大丈夫なの?鳩さん』
『とにかく今は姫の救出を目指してください』
『分かった』
「カッーート」
改めて思うがこの話は独特すぎてすごい。これを作った人を尊敬するわ。思ったよりスムーズに行き、1時間目が始まる前に全て終わった。あとはクライマックスだけか。1時間目が始まった。周りを見ると萌音がいなかった。熱が出たのかな。風邪をひいたのかな?隣の空に聞いてみた。
「なあ、萌音は熱?」
「それが分からないんだよ」
「そうか」
まあすぐに治るだろう。そう思っていた。
しかし、予想は覆った。
1週間は来なかった。
そして、空から電話が来た。
「やばい。萌音が………入院した」
「え………」
僕は萌音がいる病院へ走り出した。