「空の旅を楽しみましょ。村の外に出るのは初めてでしょ?」
「アイ!」
山よりも高く飛んで街道を真っすぐと進んでいく。蛇行してる街道を上から見下ろす。川を遡上してるみたいで面白いな。
「あの山を越えると見えてくるはずよ」
大きな山を指さすシディーさん。すぐにその山を越えて大きな湖が見える。その湖のすぐ横に城壁に囲まれた町がある。
あれが【クレイトン】の町か。ルミナさんのお父さんの、オベリスク様が治める町。
「ユミナス教会もしっかりとあるわね」
町の中央付近に鎮座する教会。青い屋根に白い壁、典型的な教会の形に見える。あれがこの町を手に入れようとルミナさんを狙っているわけだね。
「屋敷に直接降りましょう。潜入作戦よ」
「アイ!」
シディーさんの指示通りに大きなお屋敷に降りる。
彼女は領主の屋敷の場所もすぐにわかったみたい。いろんな町に行ったことがあるんだろうな。その経験が力になってる。尊敬できる先生だ。
「オベリスクの様子はどうだ? サレド司祭」
「はい。病状の回復は簡単に済みます。隷属の首輪の装着には少々時間が必要です。アミド様」
窓から侵入して扉の先から声が聞こえてくる。敵がいないと思って結構な声量で話してるな。聞き耳を立てなくても聞こえてくるよ。
「くくく、オベリスクが弱っていると聞いて早速手を出したがこんなにもうまくいくとはな。奴の娘を追った騎士たちはどうだ?」
「はい。明日には帰ってくると思います。モンドル村へと向かったようですので」
「モンドル? 聞いたことがあるな。どこで聞いたんだったか? 少し名の通った冒険者が住むようになったとか?」
薄気味悪い笑い声をあげながら話すアミドとか言う人とサレド司祭。アミドの指示で悪だくみをしてるみたいだな。
「早速黒幕の登場ね。簡単に済みそうでいいことだわ」
「バブ!」
シディーさんはそう言ってまずはオベリスク様をいる場所を調べに窓の外へと出ていった。僕はその場で待機。
「いたわ。あれならすぐに治せそうよ。まずは人質の確保。それから悪党退治ね」
「アイ!」
シディーさんの指示通りに動く。
僕も窓の外へと飛び出して外からの侵入。天幕のあるベッドに横たわるお爺ちゃん。と言ってもかなり体の大きなお爺ちゃんだ。『筋肉こそ力』とか言って良そうな体だな~。
「回復魔法もやってみる? 詠唱無しでも治せるくらいの病気だけど」
「アイ!」
「いい返事。じゃあ、健康な彼の様子を想像して。手を当てて光を彼の体に流していくようなイメージで」
シディーさんの言葉の通りに進めていく。イメージするには目を閉じた方がいい、その方がやりやすい。
光がオベリスク様の体に入っていく。筋肉が脈打ち、すぐに彼は目を覚ます。
「ん? なんじゃ? 気持ちがいい……。儂は寝ていたのか? ルミナ! ルミナはどうした!」
オベリスク様は目を覚ますと体を起こしてあたりを見回す。僕とシディーさんには目もくれずにルミナさんを探す。
「大丈夫ですよオベリスク様。彼女は私達が保護していますから」
「保護……。ということはルード殿の知り合いか。よかった、答えてくれたか」
シディーさんの言葉にオベリスク様がホッと胸をなでおろす。相当心配していたみたいだ。涙を瞳に浮かべてる。
「人望のない儂の娘になってしまって申し訳なかった。知り合いでもない儂の言葉に答えてくれたルード殿には頭が上がらぬな。して、そのルード殿は?」
「来ていません。隠密行動になると思いましたので小さな私とこの子で来ました」
「赤子……。もしや、ルード殿の?」
オベリスク様の言葉にシディーさんが答えて僕を見つめてくる。僕が頷いて答えると頭を撫でてくれる。
「賢い子じゃ。ルード殿の子ならば納得じゃな」
「話はそのくらいで。黒幕のアミドとか言うのがいるので懲らしめに行きます」
「アミド! やはり奴がこの話を作っておったか!」
褒めてくれるオベリスク様にシディーさんが声を上げる。彼はアミドと聞いて握りこぶしを作る。
「体が軽い。その子の力で体は万全じゃ! 奴は儂が懲らしめる」
「大丈夫?」
「フォッフォッフォ。老体じゃがな。戦場で鍛えた体じゃ。アミドのような書斎で育ったような奴には負けんよ」
オベリスク様の心配をするシディーさんに彼は笑って答える。壁に立てかけられていた大剣を握ると来ていた寝間着が破れるくらい筋肉が盛り上がる。
「カデナにあったじゃろう? カデナに大剣を教えたのは儂じゃ。一度も彼女に負けたことはない。そして、戦場でも負けたことはないんじゃよ」
黒い笑みを浮かべながら武勇伝を語るオベリスク様。それを聞いて僕とシディーさんは顔を見あって笑った。
人質が人質してくれない。頼もしいお爺ちゃんだな~。
「サレド司祭とか言うのも手を貸してるみたいだから気をつけて。魔法を使ってくるはずよ」
「フォッフォッフォ。儂を取りに来る者と戦うのは久方ぶりじゃのう。血が沸き立つ、熱が肉を躍らせておるわ」
「……魔法をはじきそうな筋肉ね~」
「バブ……」
心配そうに話すシディーさんの言葉を跳ね返す筋肉お爺ちゃんオベリスク様。さっきまで寝込んでいた人とは思えない。これは面白いものが見れそうだ。
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