テラーノベル
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創はため息を混じえながら頬杖をつく。彼がこんなに疲れて見えるのは珍しく、むしろそういう姿さ隠すタイプなので驚いた。
さすがに気になって、フォークを置いて向き直った。
「どうした。何かあったのか?」
創は結婚を控えてるし、やるべき事が山ほどあるから大変だと思う。けどそれとは別に、何か悩みがあるのかもしれない。
物心ついてから今までずっと、創は自分の悩みを聴いてくれていた。彼の力になれるなら、自分も最大限協力したい。
「あぁ、気にすんなよ。最初から全部、選択を間違えたかなって思っただけ。……でも大丈夫。准がこうやって話聴いてくれるだけで助かるから、何でもないよ」
創は明るく笑う。だが「何でもない」顔には見えなかった。そこはさすがに、幼少からの付き合いだから分かる。でも何故か深く訊けなかった。
「そうか。でも、何かあったらすぐに言えよ」
理由はわからない。本当に、何となくだ。
「あぁ。お前も変な男についてったりすんなよ? 今も家じゃ一人なんだろ?」
「あ、あぁ。……ひとりだよ」
一瞬、創に涼のことを話そうか心が揺れた。
でも涼はいつ家を出て行くか分からない。そう思ったら、今忙しい彼に余計な心配をかけたくなかった。
「さ、そろそろ時間やばいから早く食べて戻ろう!」
時計を見ると結構経っていたから、かき込むようにして食事を終わらせた。
色々と考えてはいる。
今朝も一応確認をとったけど、涼は職場に頼んで身分証明できるものを手に入れ、銀行で預金も下ろせるようになったらしい。
スマホは、今日店に行って手続きしてくると言っていた。それは良かったけど。
……そういえば何で涼は、俺と加東さんがいた店がわかったんだろう。
今まで彼と連絡を取り合うことはできなかった。会社の近くの店を闇雲に回って、運良く会えたんだろうか。
どうして俺のことを知ってるのか、最大の疑問もまだ聞き出せてない。急に出て行かれても、それはそれで困ってしまう。
目の前で手帳を開き、スケジュールを確認する創を一瞥して、妙な違和感を覚えた。言葉では例えられない引っ掛かり。
何かを忘れてるような。
でも、何を忘れてるのかもわからない。
胸のところで燻ってる何かが歯がゆかった。それを封じ込めるように、熱いコーヒーを胃に流し込む。
カップの取っ手に掛けていた右手の人差し指が、何故かちょっとだけ痛んだ。
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