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何故、ポケットにパンがWWW
第2夜「初めて」
「お兄さんは僕を殺しにきたの?」
「え…?」
思わず間抜けな声が出た。
こんな美しい少年の口から「殺す」なんて言葉が出てくるなんて思わなかったからだ。
少年の瞳は返事をさせることを強制するように俺の顔を捉え続けていた。
「ち…違うよ。」
「へー、そっか…」
少年の顔は微笑んでいるような、安心して表情が抜け落ちたような不思議な表情を浮かべる。
少年が漆黒の蓬髪を掻き上げた。
人形のような可愛らしい服から覗く少年の真っ白で細い、細い腕。
暗殺依頼が届いたってことは、今までも虐げられてきたのだろう。
(きっと食事も満足に与えられなかったんだな…)
俺は初めて人に対して感情を抱いたかもしれない。
少年に心配という感情を。
(こいつに何か食べさせなければ…)
俺は何か口にできるものがないか服を探った。
ふと、ポケットに仕事終わりに食べようと思っていたパンがあることを思い出す。
俺には飯を買う金もないが、こいつに渡さなければ後悔すると思った。
俺は迷わずポケットからパンを取り出し、窓枠からベットの横に降り立った。
「これを食べろ。」
「いいの…?」
潤んだ漆黒の瞳が俺を見つめる。
「もちろん」
「…ありがとう」
少年は小さな口でパンを齧る。
俺が買えるパンは安いパンだから美味しくはないだろうが、口にできるならそれでもいいだろう。
「美味しい…」
「え…?」
少年は涙を流しながらパンを見つめて言う。
「そろそろだと思ってたんだよね…僕の髪と目が黒くなってから、お父さんたちは僕のことを怖がって、この部屋に閉じ込めたんだ…最近は部屋の外にご飯を置いてくれていたけど、もうずっと持ってきてくれてない…そろそろ殺されるかなって…だからね、僕はお兄さんが僕を殺しにきたんだと思ったんだよ…」
少年は潤んだ瞳をこちらに向け、悲しそうだった顔は満面の笑みを見せる。
「ありがとう。こんなに美味しいご飯初めて。」
「そうか…よかった」
俺の心が少年の笑顔に射抜かれた。心臓のあたりが熱い。これが嬉しいって言う感情なんだろうか…
少年は今もニコニコとパンを見つめている。
「まるで子犬だな。」
「えへへ、それって褒め言葉?」
少年はキラキラした瞳でこちらを見て、顔をコテンと傾ける。そしてニコッと笑い、
「お兄さんにならなんて言われても嬉しいなー」
「お、おう…」
少年の細い腕が俺の腰に巻きつく。
「お前懐くの早いっ…」
「子犬だからねー」
「なんだよそれ」
俺は生まれて初めて笑ったかもしれない。