牧原は、自宅の木戸を開け、滑り込むように入ると勢いよく閉める。右手はモンスターの血が塗れた魔法石を握り締めていた。
モンスターたちは、牧原を認識しているのに、敷地内に入ると攻撃しようとしなくなった。
牧原は安堵する。
手負いのモンスターをあっさり倒した後、倒された牧原のモンスターから魔法石を手斧を使って解体して取り出す。体が大きい分大変だった。取り出すのが大変だったのは、別に大した問題ではない。問題はその間に五体のモンスターの集団がやってきて、明らかに敵対行動をとってきたことである。あと三メートルというところまで迫って来ていたが、辛うじて戦闘もせずに何とか逃げ切れた。
立水栓へ行き、血塗れの手と魔法石を洗う。モンスターの血を綺麗に洗い流す。そして、綺麗になった魔法石の色が薄い水色に変わったことに気付く。汚れがまだ付いているのかと洗い流すがやっぱり薄い水色だった。最後にモンスターに食べさせる前は無色透明だったはず。
黒髪の魔法少女の変身を解くと、薄い水色の魔法石に集中する。すると水色の和装のような服の魔法少女に変身した。さっきは、真っ白な和装のような服で、黒髪のショートカットの魔法少女に変身したのを思い出す。玄関へ行き、全身が映る鏡の中の自分を見る。明らかに前回と違う魔法少女だ。庭に戻って、呼吸を整えて、意識を集中した。すると剣のイメージが浮かんだ。すると右手に剣が浮かび上がる。
「これは、剣の魔法少女だ」
今度は、道路に出て剣を軽く振ってみる。さっきのモンスターの五体の集団が遠ざかっているのが見えた。そこに向かって斬撃を飛ばしてみる。距離があるせいかハズレた。
モンスターの集団は、牧原に気付くことなくそのまま去って行った。
剣の魔法少女のまま、牧原が作ったモンスターや倒したモンスターの死体のある方へ行く。近くにモンスターがいないと判断し、死体の傍まで行く。
そして、ガッカリした。剣の魔法少女の剣の威力を試すために死体を試し斬りしたからである。藤田からもらった剣の方が明らかに良く切れた。斬撃飛ばしはできないが、黒髪の魔法少女で藤田の剣を持っていた方が攻撃力がありそうだ。
同じ剣の魔法少女でも、霧島と江波では、明らかに霧島の方が強かった。
この差は一体なぜなんだろうか?
そして牧原の剣の魔法少女は、江波よりも弱いだろう。剣の魔法少女としての適性の差なのだろうか?
魔法石の性能に違いがあって、魔法石の性能差なのだろうか?
わからないことだらけだ。
これまでの研究成果はかなり大きいよね。霧島さんや大沢さんに教えたらどんなふうに思うかな。今日は、むりだけど、明日教えに行こうかなぁ。
とりあえず、感覚共有している間に、コントロールが解けたらどうなるのか確かめることにした。
その実験をするのはもちろん、目と口しかない丸い人を襲わないモンスターの死体しか食べない、いつものモンスターを作る。視覚の共有をして家の外へ出し、近くの交差点まで行くように指示する。感覚共有が出来ている状態で、追加でモンスターを三体生み出す。
なるほど。
本来なら交差点に行かせたモンスターはコントロールからハズレるはずだが、感覚共有は継続していた。そして、見る方向を変えるように指示するとそれに従う。
モンスターは、まだコントロール下にあったのだ。
そこで、感覚共有を解除し、もう一度感覚共有をしようとしたが、二度とできなかった。
今度は、コントロール下にあるモンスター二体同時に感覚共有はやってみた。二体の視覚を同時に見れた。しかし、同時に見える為、どっちの映像がどっちの視覚なのか分からなくなった。おそらく、二体のモンスターのうち、片方は視覚、もう片方は聴覚と使い分ければ二体同時でも使えそうだ。
感覚共有は、モンスターの魔法少女の姿ではないと維持できない。
コントロール下にあるモンスターとの感覚共有は、いつでもでき、いつでも解除できる。
感覚共有中のモンスターが殺されると、自動で感覚共有は解除される。
感覚共有中のモンスターはコントロールが解除されない。
コントロール下にないモンスターとの感覚共有はできない。
複数のモンスターと感覚共有できるが、同一感覚を同時に共有するのは現実的でない。
牧原は、そう結論付けた。
八月の二週目水曜日の朝。
朝からカンカン照りで、とにかく暑かった。部屋にエアコンをつけたあと、朝食を取り、SNSをチェックし、上司に連絡と取ると、やっぱり本日も休みを取ることになった。
夏休みを前倒しにしても、夏休み期間中は有給休暇が残っていたら、使って良いとのことだったので、前倒しにしてもしなくても休むなら同じことになると教えられる。
強制的に休まされているのに、有給が減って行くのは不条理に感じたが、この状況で仕事をしているのもいかがなものかと思い受け入れるしかなかった。
コーヒーを飲んでまったりしている。昨日の研究結果を霧島さんたちに伝えに行かないとなと、ぼんやり思う。
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