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「マナ、俺と付き合ってくれないか?」
「えっ!? 圭ちゃん、本気で言ってるの?」
「本気だよ」
「ちょ、ちょっと考えさせて――」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ! 圭ちゃんにそんなこと言われて嬉しくない訳がないよ。すっごい嬉しいよ。でも、わからないの――圭ちゃんのこと好きな気持ちは変わらないのに、何か大切なことを忘れてしまっているっていうか、何か胸につっかえているような気持ち悪さがあるの」
「そっか――
きっとそれは、荻野さんの死に関することだ。それを思い出して乗り越えなければ、マナの心が晴れることはないのかもしれない。それに、そもそも荻野さんの死がなければ俺とマナは結ばれることなど決してなかった。俺がマナと付き合えたのは、荻野さんがきっとあの世から後押ししてくれたからに違いない。
「圭ちゃん、悲しそうな顔をしないでよ。別にフラれた訳じゃないんだから」
「そうだな」
「大丈夫。この胸のモヤモヤが取れたら、迷わず圭ちゃんと付き合うから」
「あぁ――」
この時俺はもしかしたら、再びマナと付き合い始めて、結婚までこぎつけるんじゃないかという淡い期待を抱いていた。意外に俺らは運命の赤い糸で結ばれているんじゃないかとい希望を抱いてしまった。これから起こる悲しい現実など知る由もなく――。
――数ヵ月後
「圭ちゃんの代わりに美味しいものイッパイ食べてくるからね」
「あぁ、せっかくフランス料理が食べられる招待状をもらったんだから死ぬほど食ってこいよ」
「ホントに圭ちゃんは行かなくていいの?」
「俺は仕事があるからいいんだ」
本当ならマナと2人で行く予定だったけど、どうしても今日やらなきゃいけない仕事があったので、ゆずきと行くように勧めた。
その日は、仕事を終えると同僚の誘いを断ってまっ直ぐに家に帰った。
「ただいっ――」
玄関のドアを開けて中に入ると部屋はまだ真っ暗なままだった。時刻は21時を回っていた。
《まだ遊んでるのか?》
《うん、今オシャレなBARに来てるの》
俺がメールを送ってから10分くらい経ってからの返信だった。
《電話しても大丈夫か?》
《ちょっと待って! 静かなところに行くから》
プルルルル――プルルルル―――
数分後、マナから電話がかかってきた。
『酒飲んでるのか?』
『ちょっとだけ』
『あんまり飲みすぎるなよ』
『わかってる』
『駅まで迎えに行くから終わる頃メールしてこいよ』
『たぶん大丈夫だと思うよ』
『危ないから言ってるんだ』
『駅から1人で歩いて帰れるよ。もう子供じゃないんだから、心配しないでいいよ』
『心配するに決まってるだろ!』
『わかってる。ありがと! あと2時間くらいしたら帰るから』
今の時刻は21時15分。2時間後に電車に乗って帰るとすれば23時半くらいには駅に着くだろう。それから俺は23時になると、家を出て駅に向かった。車をしばらく走らせていると、駅通りの道を歩いている女性に気付いてスピード緩めた。