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「ほくと」(𝓡𝓲𝓷)『ジェシー』(友達)「じゅり』(友達)『こーち」(友達の好きな人)
夏休みが始まって数週間。
じっとりとまとわりつくような暑さから逃げるように僕たちは駅前のカラオケボックスに駆け込んだ。
四時間ドリンク飲み放題、ソフトクリーム食べ放題。
学生の味方のようなその部屋に入った瞬間、エアコンの冷気が肌を刺して、生き返るような心地がした。
「あー、涼しっ!生き返るわー』
ソファーに深くもたれかかった樹が、メロンソーダをストローでズズズとすする。
その隣では、部屋に入ってからまだ三十分しか経っていないというのに、ジェシーがすでに三個目となるソフトクリームを幸せそうに頬張っていた。
『北斗も食べなよ!これ、マジ最高だから!』
「僕はいいよ。そんなに食べたらお腹壊すし……」
冷たいウーロン茶を口にしながら、僕はマイクを持って履歴画面を操作する樹を眺めた。
「あ、北斗ウーロン茶飲んでんじゃん。喉カサカサになって歌えなくなっても知らねぇぞ』
画面から目を離さないまま、樹がニヤリと笑う。
「え、そうなの?」
「油分持ってかれるんだよ。ほら、ジェシーみたいにアイス食うか、俺のメロンソーダやるよ』
「いや、メロンソーダ飲めないし。」
「なんだよ、間接キス気にしてんの? 可愛いとこあんじゃん』
「違う、単純に味が無理なだけ」
僕のまっとうな反論なんて最初から聞く気がないのだろう。
樹は「はいはい、照れんなって』と、僕の「味が無理」という理由を綺麗にスルーし、完全に[間接キスを嫌がっている]という都合の良い妄想にすり替えてニヤニヤしている。
学校にいる時と変わらず、樹のノリはいつだって軽くて強引だ。
朝の待ち合わせで僕を捕まえた時は本気で恨んだけれど、こうして夏休みになっても当たり前のように誘ってくれるあたり、実は面倒見が良いのだろう。
ジェシーの[優吾への片思い]を察してからも、からかい半分ではあるものの、なんだかんだと二人のことを見守ってくれている。
樹が今風のラップ曲をいくつか歌い上げ、部屋のボルテージが上がってきた頃だった。
テーブルの上で、ジェシーのスマホがブブっと小さく震えた。
ソフトクリームをすくっていたジェシーの手が、ピタッと止まる。
画面を覗き込んだ瞬間、ジェシーの顔がみるみるうちに真っ赤に染まっていくのが分かった。
『……ッ!?ほ、北斗、樹……!?』
「うわ、何?急に大声出すなよ」
『ち、違うの!優吾から……LINEきた……っ!!』
「マジで!?』と樹がすかさず身を乗り出す。
僕も驚いて、ジェシーが差し出してきた画面を覗き込んだ。
そこには、いつも生徒一人ひとりに優しい笑顔を振りまく姿からは想像もつかないような、少しフランクな文章が並んでいた。
『ジェシー、今カラオケいるの?ストーリー見たよ。もしよかったら、この間話してたあのアーティストの曲、歌って動画送ってよ(笑)聴いてみたい!」
「うわーーー!!先輩からリクエストじゃん!!』
樹が自分のことのように大はしゃぎして、ジェシーの背中をバシバシと叩く。
当のジェシーはといえば、完全にパニックに陥っていた。
『ど、どうしよう北斗!俺、何歌えばいい!?優吾、どの曲のこと言ってたっけ!?』
「落ち着いてジェシー。あの時話してたのって、確かこの間流行ったばっかりの曲でしょ?ほら、樹、デンモクで検索して」
「任せろ!速攻で入れるわ!』
樹の指が素早く画面を叩き、すぐにイントロのピアノの旋律が室内に流れ出した。
マイクを握るジェシーの手は、見てわかるほどガタガタと震えている。
『緊張して声出ないよぉ……!』
「大丈夫。ジェシーは歌上手いんだから。いつも通り歌えば、先輩に絶対届くって」
僕が真っ直ぐ目を見て声をかけると、ジェシーは『うん……!』と深く頷いた。
樹がスマホのカメラを構えて「いくぞー!』と合図を送る。
ジェシーが意を決してマイクを口元に寄せた。
次の瞬間、いつもの明るい声とは一転した、大人びた歌声が響き渡る。
隣で聞いていた僕は、思わず鳥肌が立つのを感じた。
いつもはあんなに子供っぽくて、先輩一人の言動に右往左往しているのに、歌っている時のジェシーは、なんだかんだ少し遠い世界の人みたいに格好いい。
歌い終わり、樹が「今のサイコー!』と動画の撮影を止める。
ジェシーは心臓を押さえながら、お礼のメッセージと一緒にその動画を優吾先輩へと送信した。
数分後、再びスマホが震える。
画面を開いたジェシーの目が、これ以上ないほど輝いた。
『めちゃくちゃ上手いじゃん!鳥肌立った。ありがと、何度も聴くね」
『……し、死ぬ……俺、もう幸せすぎて死んじゃう……』
ソファーに崩れ落ち、顔を真っ赤にして悶絶するジェシー。
樹はゲラゲラと笑いながら「死ぬなよ、まだあと二時間あるんだから』と新しいソフトクリームをジェシーの前に置いている。
僕はそんな二人を見ながら、冷たいウーロン茶をもう一口すする。
相変わらず、自分には誰かを熱烈に好きになる気持ちなんて分からない。
けれど、大好きな先輩からのたった一言で世界がひっくり返るほど幸せそうな顔をする親友を見ていたら、恋愛ってやつもそんなに悪いものではないのかもしれないな、とほんの少しだけ思った。
コメント
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うわあああ第11話読み終えたよ〜!!😭💕✨ カラオケの風景がめっちゃ鮮明に浮かんで、夏の青春がギュッと詰まってる感じがたまらないね!! 特にジェシーが優吾先輩からLINE来た時のパニックっぷりと、それを見守る北斗と樹の立ち位置がめっちゃ良き…!「死ぬほど幸せ」って悶絶するジェシーと、ソフトクリーム差し出す樹の優しさに泣ける😢💖 そして北斗が「恋愛も悪くないかも」って思うラストの心境、じんわり沁みたよ〜!三人の空気感が本当に心地良いエピソードだった🌸