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この小説は作者の妄想・フィクションです。
ご本人様(キャラクター等)には一切の関係・関連はありません。ご迷惑がかからぬよう皆で自衛をしていきましょう!
閲覧は自己責任です。
※その他BL要素有り( 🐧×🏺)
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それではどうぞ〜🫶✨
🏺『』その他「」無線「”○○○”」
ペンギンは一生に一度、一人の想い人とペアになれれば、他のペンギンにうつつを抜かすことは無いらしい。
巣を作って、愛情表現をして、小石を渡して、もしも相手がその小石を受け取ってくれるのであれば、それはもう相思相愛の証である。
「あッ、ぁ〜…こーれはやったわァ…」
本署の廊下で盛大にコケた成瀬が何とかバランスを取って転倒を防いだものの、その廊下に大惨事を引き起こす。
波のように白紙のプリントが滑り落ち、目の届く範囲には自ずと紙紙紙。
「あ〜も〜、俺はただコピー機の紙を補充しようとしただけなのに〜(泣)、えんえん(泣)」
「いや無理があるわ(笑)。俺助けないよ(笑)?、先にコンビニ強盗捕まえて来るからな?」
トントンっと成瀬の肩に手を置いて、狼恋はそそくさとその場を後にする。
「は?、おいコラ薄情者〜ッ!、」
シャウトを広げて愚痴を零せば、ケラケラと笑う狼恋の声と共にどんどんとその姿は小さく消えて行った。
数秒もしないうちに狼恋はその場から居なくなり、代わりに訪れたのは静寂と余計な拾い仕事のみ。
「許せないわぁアイツ、マジ冷たい、冷たすぎる」
ペンギンの被り物の下でぶつぶつと呟きながら、なんだかんだの居心地のよいその関係に小さく安堵していた。
気を許せる相手が居るのは単純に良い事だ。
有難いし、幸せな事である。
「結構まとめて運んで来ちゃったんだよなぁ…、」
“はぁ〜…(笑)”と普段の自分であれば中々しそうもない失敗に苦い笑みを浮かべて、成瀬はひたすらにプリントを集める。
もういちいちしゃがみ込むのも面倒で、両膝を床につけながらの拾い作業だ。
ちまちまとプリントを集めては枚数を数えて、どんどんと床は普段の色を取り戻して行く。
「二十四枚、二十五枚、ぁ〜これ折れてるわ。じゃあ一旦これ省いて二十四か…、」
『おいおいキリが悪ぃな。これで25か?』
ぴらりと差し出されたその紙には、ほんの数時間前の会議で配布されたはずの”経費に関する概要”といういかにも大事そうなプリント。
「たは(笑)、つぼ浦さん、それは流石にカウントできねぇっす」
『゙あ?、ダメなのかこれ』
上から聞こえるその声に視線を向ければ、つぼ浦がキュッと不服そうに眉を寄せて佇んでいた。
『裏は真っ白だからまだ使えるぜ』
「使えないですよ(笑)。というか、ちゃんとそのプリントの内容見ました?」
そう問いかけられて、つぼ浦は数秒間だけジーッとその紙の文字の羅列を眺める。
『……。あぁ、いま見た』
「ご感想は?」
明らかに署内の経費の4分の1を占めていると言っても過言ではない特殊刑事課の費用額。
しかもキャップとつぼ浦に配布されたプリントにだけは、署長直々に“ロケランを使いすぎるな!”と赤ペンで注意書きまで施されている。
『感想も何もなァ、…まぁ、仕方ねぇから暫くは大人しくしてやっても良いって感じだな』
今月は特に警察署の貯蓄がやばいらしく、経費担当を請け負っていたミンドリーにもそれはそれは優しく注意を受けたばかりだった。
「あれ、素直に従うなんて珍しいっすね」
『゙あ?、俺はやれば出来る男だぜ』
「てっきりキャップのポケットマネーからロケランねだると思ってました」
『キャップはいまとんでもなく金が無い。殴っても小銭の音がしなかったからな』
「いや怖すぎ(笑)、」
真面目な話をしてみれば、どうやら最近の警察には金が無いらしい。
警察署襲撃やらで大破した物の修繕や補充で色々と出費がかさんでいるのだとか…。
「この状況だと、みんなお金に困ってるかも知れないっすね」
トントンッとプリントを束ねて、成瀬は緩やかに立ち上がる。
「ふぅー…、…。あぁ、何だか俺、いまめっちゃ都合が良い気がしてきました」
『都合がいい?』
「そうっすね。めちゃめちゃ都合良い。まさに俺得的な」
小さく首を傾げたつぼ浦の様子を眺めてから、成瀬は楽しげな声色で呟く。
「つぼ浦さん、俺ん家でバイトしません?」
『バイトだァ?』
「そう、住み込みバイトで一ヶ月。どうせ自由に働けないなら、俺の家で働いた方がお金貯まりますよ」
“ロケラン五本は余裕で買えるかもっすね”と付け加えれば、つぼ浦は秒で頷いて“やるぜ”と一言述べる。
「おぉ〜(笑)、じゃあ明日からお願いします。番地とか諸々はスマホで送っとくんで」
軽い会話を交わしてから二人はその場を後にして、各々やらなくてはならない雑務や自由な働きへと戻って行く。
成瀬はクスクスと暫く笑って、足取りはとても軽かった。
昨日の今日でなんだが、つぼ浦匠はもう若干後悔をしていた。
カニメイトがドカンと立派に建てられているその屋上の一個下の階。
エレベーターの扉が開かれれば直ぐに分かる。
掃除の行き届いた廊下とシンプルな玄関扉の数々。
教えられたナンバーを探してインターホンを鳴らせば、ガチャリと自動で鍵が開いて“入ってくださーい”と忙しない声が響いた。
『邪魔するぜ…、』
少し緊張しつつもその扉を開けば、途端に香るホワイトムスクの良い匂い。
あぁ、コイツは洒落たペンギンだなと思いながらサンダルを脱ぎ、何故かドタバタと聞こえる廊下の奥の扉に手をかけた。
『カニくん、邪魔するぞ』
少し開けば“あっ、ちょッ!、”と慌てた声が聞こえて、しかしつぼ浦はその部屋に一歩足を踏み出す。
「おわっ!、」
『ッ!、びっ、くりしたぜ、大丈夫かカニくん、』
何に躓いたのかは分からないが、成瀬が勢いよくぬいぐるみと一緒に懐へと飛び込んで来る。
「すみませんすみませんスミマセンッ!、マジでごめんなさい!、」
つぼ浦と成瀬の間にはむぎゅっと潰された割と大きめのクマのぬいぐるみ。
『怪我してねぇか?』
「大丈夫っす、いや〜助かった。このクマのおかげで」
『俺のおかげだろ』
「ハイッ…、(笑)、つぼ浦さんのおかげっすね(笑)」
一瞬だけ高い声で返事を返して、成瀬は楽しげに“ありがとうございます”と呟いた。
『?、それにしても、随分と部屋に物がねぇな』
「あ、そうなんですよ。実はいま模様替えの途中でして」
気分転換だか何だかで、数日前から唐突にハウジングを始めたらしい。
「自室はもう完壁に出来上がってるんですけど、リビング周りがまだ終わってなくて」
『だからドタバタしてたのか』
「そうっすね(笑)、このクマもどっかに置く予定です」
ぎゅっと大きなクマを抱きしめて、成瀬は少しだけ考えた素振りを見せてから口を開く。
「ん、そうだ。せっかくなんでつぼ浦さんも一緒にハウジング手伝って下さいよ」
『俺がか?』
「はい。二人でやった方がぜったい捗るし」
オシャレ代表と言っても過言ではない成瀬力二と一緒に模様替えを行うというハードクエストが発生し、つぼ浦は小さく唸ってから渋々と首を縦に振る。
「おっしゃ〜(笑)、じゃあまずはこのクマどこに置くかお願いします」
『゙っ、これか、これはなァ、゙ん〜、あれだ、ソファにでも座らせとけ。映える?、とかだろ?』
「あ、それめっちゃいいっすね〜!」
それからトントン拍子に“じゃあソファどれにします?”やら“毛布どんなのが好きです?”やら、色々と簡単な質問を受けていればものの数十分でリビングルームがそれらしい姿へと変化した。
「お〜出来た。つぼ浦さんっぽいわぁ…、」
衣服はアロハでド派手だが、選ぶ物は意外と柔らかい色をしたホワイトや木の温かみを感じられるものばかりだ。
成瀬はうんうんと頷いて、つぼ浦にチラリと目を向けてからグッジョブのサインを送る。
「いいっすね。つぼ浦さん」
『、そうか。それなら良かったぜ』
「はい。これからよろしくお願いします」
『…おう。頼む』
素直に言葉を述べるその姿が少しだけ眩しくて、つぼ浦は自身の頬を人差し指で軽く引っ掻いてからコクリと頷いた。
「いただきまーす」
『いただきます』
カチャリカチャリと食器が僅かに擦れる音が響きながら、成瀬とつぼ浦は何日目かの朝食をもぐもぐと頬張っていた。
「ん〜!、今日のサバめっちゃ焼きかげん良くないっすか?。俺天才??」
『ん。そうだな、上手く出来てると思うぜ』
つぼ浦が少し褒めれば、成瀬は嬉しそうに口元を綻ばせてパクリと白米を口に入れる。
「゙んッ、ぁ〜、お米炊くのはまだ下手かもっすね、ちょっと硬いや…、」
『ふは(笑)、カニくんは本当に家事をしないんだな。まさか米の炊き方すら危ういとは思ってもみなかったぜ』
初日に訪れた時のキッチンルームの様子はまさに新品同様、唯一使われていた水場には水を飲むためのグラスといつでもチンして食べれるパックご飯しか置かれていなかった。
「朝と夜なんて胃に入ればなんでも良いと思ってたんで。…まぁ、つぼ浦さんが居てくれるうちはちゃんとした飯食いますよ」
『俺が居なくてもちゃんと食べろ』
「え〜、だって1人じゃ美味くないじゃないっすか。つぼ浦さんと食べるから飯が美味いんですよ」
“ね?(笑)”と上機嫌に笑みを漏らすその顔に、つぼ浦はふいと顔を逸らす。
「ん、なんすか?」
『…いや、やっぱり人の顔をしたカニくんには慣れねぇなと思って』
「ぁえ〜…、まだ言ってんすかそれ」
初日の夜にシャワーから上がってきた成瀬は完璧にオフモードで、素顔のまま髪に水滴を滴らせてリビングに向かえば開口一番に“誰だテメェ”と殴られかけた。
というか一発は確実に特殊刑事課のフルパワー拳をくらった気がする。
「慣れてくださいよ(笑)、ちゃんと目の前で被ったり外したりして見せたでしょ?」
『理屈では分かってんだがなァ…、』
もう一度成瀬の方に視線を向けてみれば、明らかに顔の整った青年がニコーっと嬉しそうに笑みを浮かべている。
『……、眩しいぜ』
「後光さしてます?」
『そこまででもねぇな』
「ちょっ、ひどッ!、え?、あ〜もうダメだッ、俺きょう仕事休みますッ!」
『じゃあ俺も夕食作るの辞めるぜ』
その言葉を聞いて、途端に成瀬が背筋を伸ばす。
「ガチすいませんでした。飯食って働きますッ…」
『おう(笑)、分かりゃいい』
真剣に叙爵を始めた成瀬を見つめて、つぼ浦はクスクスと小さく笑う。
見た目は超がつくほどザ・好青年であるが、どこか少し危うくて…、それでいて人の懐に入るのが上手い成瀬力二という男に、だんだんと惹かれていく感覚があった。
今まで自覚はしていなかったが、きっと住み込みバイトを始めてから何となく気がついてしまった。
でもこれがどんな感情のカテゴリーに位置するものなのかは深く考えない事にしている。
「…ン、俺を見てても腹は膨れねぇっすよ」
『……゙あ?、見てないが?』
「はい出た〜、うそ〜、ダウト〜!、」
『テメェな゙ァ…、』
パシンッと合掌をしてから元気よく“ご馳走様でした!”と吐き捨てて速攻で食卓を後にする成瀬。
つぼ浦は呆れたようにため息を漏らして、やはりこの感情の行き着く先は庇護欲や単純に先輩ズラをした後輩思いのよくあるそれだろうと思い込む。
『はぁ、…食器片付けるか』
つぼ浦も朝食をきっちりと食べ終えてから二人分の食器をシンクへと運び込んだ。
「いってきまーす!」
『あぁ、怪我すんなよ〜』
そしてつぼ浦は全く気がついていなかった。
“思い込む”という言葉を使っている時点で、庇護欲や先輩ズラのそれとは異なる感情を抱いているという事実と証拠に。
だとしたら、その感情の行き着く先は…??
住み込みで働いてから二週間ほど経って、つぼ浦はぐうたらするという娯楽を覚えた。
普段は警察署の一角にあるソファで寝ては起きての繰り返しだった為、リビングの広く大きなソファに寝転がってからスマホをいじるという簡易的な娯楽の楽しさを知らなかったのだ。
ソファに座っているクマの足を枕にして、つぼ浦はコロリと横になる。
『ふぅ…、飯の下準備は出来てるし、掃除も洗濯も終わらせた。…、ふぁ…、やること無くなっちまったな…』
寝転がりながらスマホを眺めて、数十分だらだらとネットのおもしろ記事を読み漁ってからスマホの電源を不意に落とす。
『……カニくん早く帰って来ねぇかな…、』
ここ数日間は食事を作る為の食材はネットで注文している。
その方がハイテクで便利ですよと成瀬に言われていた為、何となくスマホで食材を注文して…ドア前に置かれるダンボールを部屋に運び込む時にしか外界の空気に触れていなかった。
『かといって外に出るのもなァ…』
成瀬が“おかえりって言われるマジ嬉しいです!”と健気に感謝を述べていた光景が脳裏に過ぎる。
『…帰ってきた時たまたま俺が居なかったら、、カニくんぜってぇ落ち込むだろうしなぁ…、、』
今の季節は冬だ。
冷たい夜風を受けながら夜遅くまで一生懸命に働いて、退勤した直後には猛スピードで帰ってくる成瀬の姿が容易に想像出来てしまう。
『……、ぁー…、まぁ、寝るか』
やれることはきっちりとやっているので、少しくらい居眠りをしても許されるだろう。
パタリとスマホの画面をソファに押し付けて、つぼ浦はゆっくりと目を瞑る。
すやすやとしばらく眠りに落ちれば…、次にふと意識が浮上した時に何かしらの違和感を覚えた。
『…、ン……、ッ…、』
モゾりと身じろげばなかなかに重みがあって動きにくく、そしてなにより温かい。
『んー……、っ、…、…?、……ぁ?、』
うっすらと目を開けて、目の前の景色を現実のものだと理解するのに数秒時間を要した。
広いソファに寝っ転がっている男が自分を含めて二人。
クマの足を枕にして、同じ視線の位置ですやすやと眠っている人の顔の成瀬が一匹。
『(一匹?、いや…、一人…か?、)』
意味の分からない疑問で頭をごちゃつかせ、目の前の現状に全く意識を向けないようにする。
『(今何時だ?、スマホ…は、取れねぇな)』
成瀬の腕がつぼ浦の腕もろとも一緒にホールドしていて、無理やり引き抜けば目が覚めてしまう可能性がある。
薄暗い部屋の中ですやりと気持ち良さげに眠る成瀬はというと、足癖が悪いのかつぼ浦の下半身に乗り上げて、抱き枕のように身動きを封じていた。
『ぁー…うごけねぇ…、、』
小さく小さくそう呟いて、つぼ浦はチラリと成瀬の寝顔を盗み見る。
「ン…、んぅ……、」
『……いやいやいや…、耐えらんないが?』
せめて横向きから仰向けの状態になれないかと考えて、つぼ浦はもぞもぞとゆっくり動く。
そーっとそーっと動いて仰向けになれたつぼ浦はほっと息を吐いて、暫く静かに天井を見つめていた。
『………、…。』
「すぅ…、すぅ…、、」
『…くすぐってぇ…、』
僅かにかかる吐息が、耳元をさわりと撫でるようにくすぐってくる。
『、…っ…、仰向け、失敗したか』
後悔先に立たずだが、何故か仰向けの方が成瀬の密着度具合が増している気がする。
「…ン、ん…、つぼ浦さん…、」
『っ!、ッ、ちょっ、と…、は?、…寝言か?、』
ごにょりと呟かれた言葉に全身がピシャリと硬直し、何故だかドキドキと胸の動悸が止まらない。
「…つぼうら、…さん、」
『っふ、ッ…、くっそ…、呼ぶなって、…、抱きしめんな、ン、っ…、』
身じろげば身じろぐほどキュッと抱きつかれて、腹回りに伸ばされているその腕が、指先が、ぎゅっとつぼ浦の服を握って離さない。
『はっ、はっ、ッ、すぅ…、はぁ…、』
喉元を震わせて息を吐けば、それと同時に成瀬の意識がぼんやりと浮上した。
「゙ンー…、、ン…、ん…ふぁ…、…あぁ、つぼ浦さん、…ただいま帰りましたァ…、」
『…嘘言え、直近の帰宅じゃねぇだろ…、、』
「んー…そうっすね。ふふ(笑)、なんか、つぼ浦さんが気持ち良さげに寝てたから…、俺もつい、ふぁ…、、眠くなっちゃって…、」
『ガキかてめぇは…』
そう言いつつも、つぼ浦は成瀬の腕や足を跳ね除けずに大人しく抱き枕と化している。
「……優しいっすね、つぼ浦さん」
もぞりと足を動かせばぴくりとつぼ浦の身体が跳ねて、ころりとソファの背もたれの方へと逃げてしまう。
「どうしたんすか?」
『……、いや、狭いだろ』
「つぼ浦さんのほうが狭そうっすけど」
『俺は、…、狭いところが好きだ』
「へぇ(笑)、そうなんすね」
“じゃあもっと狭くしてあげますよ”なんて楽しげに呟いて、成瀬はつぼ浦の背中にぎゅっと寄って抱きつく。
『ッ、っ、』
「はぁ〜…、あったけぇ。つぼ浦さん温かいっすね」
どう足掻いても好奇心に任せてくっついてくるこの男をどう対処すればいいのかも分からずに、つぼ浦は身をちぢめて息をこらした。
「……嫌っすか?」
『、ッ…、えっと、その、』
漏れ出る言葉は震えていて、もはや言葉の役割を果たしていない。
何故こんなにも緊張してしまうのかも分からない。
「……。俺は、好きですよ」
『っ、ッ………は、』
つぼ浦が息を吐いたのと同時に、成瀬はよいしょと起き上がって大きな伸びをする。
「ん〜ッ!、狭いところって良いっすよねぇ(笑)、めっちゃ分かります、それ(笑)」
ソファに畳まれていた毛布をずるずると引っ張って、つぼ浦の身体にふぁさりと広げてから成瀬はまた口を開く。
「風邪引かないでくださいね。俺さきに風呂はいって来るんで」
“いってきま〜す”と軽快な足取りでリビングを後にする成瀬とは反対に、つぼ浦は毛布の中で胸を抑えていた。
『はっ、はっ、ッ、すぅ…、はぁ、』
どうやら成瀬力二にはとんでもない人たらしの才能があるらしい。
こんな事を誰にでもホイホイとやっているのであれば、許されざる天然行為だがつぼ浦は何も言えない。
『、……、くっそ…、』
もぞりと起き上がればひんやりとした空気が少しだけ肌を撫でで、暖房をつけるためによたりと立ち上がる。
触れ合っていた部分がやけに熱くて、つぼ浦はパシリと頬を両手で叩いてから意識をハッキリと覚醒させた。
決して人肌が恋しいだなんて思っていない。
そう心の中で暗示をかけて、日常になりつつある夕食づくりを始めるのだった。
「けほッ、けほけほっ、ッ、すみませんつぼ浦さん、なんか、俺が風邪引いたみたいっす、、」
三週間目に入った早朝、成瀬が風邪を引いた。
気だるそうにそう呟いて、成瀬は白いマスクを着用したままぽやぽやとキッチンで朝食を作る。
いつも通りに魚を焼いて、炊きたてのご飯をかき混ぜて、食卓に一人分の朝食を置いてからコクリとペットボトルの水を少量だけ胃に流し込んだ。
「ン、ッ…。ふぅ…、悪いっすけど、しばらくは部屋に篭ってます。…てか、この家に縛り付けるのもあれなんで、お金、先に払っときますね」
ポケットからスマホを取り出した成瀬は手際よくつぼ浦の口座にロケランの弾を5発は確実に買えるであろう金額を入金し、うんうんと頷く。
「これで…よし。つぼ浦さん、風邪移ったら困るし、暇でしょうから全然一週間くらい街巡ってきて良いっすよ。てかお金渡したし、これでド派手に犯人捕まえれるんじゃないっすか(笑)?」
面白げにクスクスと笑って、“あ、そこの飯はつぼ浦さんのですからね”と食卓に並べられたそれらを軽く指差す。
「それじゃあ俺はもう少し寝ときます」
わざわざつぼ浦の朝食を作る為だけに起きたらしい成瀬は、ゆるゆるな笑みを零しながら自室に戻ろうと歩き出す。
『、ちょっと待て、』
「ン、なんすか…?」
掴んだその手は温かくて、成瀬は小首を傾げてつぼ浦の言葉を待っている。
『…、…ぁー…、その、…飯は食った方がいいぜ。空きっ腹に薬は良くねぇからな』
「んー…確かに。でもあんましお腹空いてなくて、、でも、つぼ浦さんがそう言うなら、…俺も、食おうかな…、」
少し迷ってからお茶碗を手に取り始めた成瀬をもう一度制止して、つぼ浦は食卓の席に座っていろと促す。
『確かあれだ、えーっと、白米から粥に出来る方法があったはずだから…、』
そう言ってスマホを取り出しテキパキと動き始めるつぼ浦を眺めて、成瀬はクスクスと笑う。
『゙あ?、なんだ?』
「んーん(笑)、なんでもねぇっす」
『言いたいことがあるならはっきりと言いやがれ』
電子レンジを駆使したお粥づくりを始めたつぼ浦は、自身の腰に手を添えて完璧に面倒を見る気満々だ。
「けほけほっ、…、いや、なんか。俺の看病、してくれるんすね」
『…当たり前だろ。俺がそんなに薄情な人間に見えるか?』
「見えねぇっすけどね。…けど、やっぱ嬉しいなぁって。…嬉しいっす。つぼ浦さん」
噛み締めるように二度も呟くその言葉に、つぼ浦の心はきゅっと締め付けられる。
出来上がったお粥におかかと醤油をひっかけて、コトリと食卓にもう一人分の飯を置く。
「わぁ、めっちゃ日本食って感じっすね」
心做しか食欲も沸いたらしく、成瀬は手を合わせて“いただきます”と呟いた。
「魚の焼き加減どうっすか?」
『ン、いい感じだぜ』
「お〜、良かった(笑)」
いつものように二人で朝食を食べて、つぼ浦が食器を洗って、成瀬が自室に戻って行く。
しっかりと薬も飲んでいたし、つぼ浦はこれで大丈夫だろうと息を吐いた。
『掃除して、洗濯して、、そしたらまた暇だな』
窓から差し込む光がオレンジがかった頃、つぼ浦は外出しても良いと言われたものの一歩も外には出ていない。
『病人置いてく訳にもいかねぇしな…』
もしも家で一人の時に成瀬がバタりと廊下でぶっ倒れでもしたら、外出という選択をした自分をきっと許せない。
『…風呂は入れねぇだろうし、、様子見ついでに身体でも拭いてやるか』
プラスチックの洒落た桶に浅くお湯を入れて、タオルを絞ったつぼ浦は成瀬の自室へと赴く。
ノックをしてから数秒待てば、応答は無かった。
『…カニくん、入るぞ』
控えめに扉を開いて様子を見れば、自室もオレンジがかった陽の光に照らされて、当の本人はすやすやと眠っている。
『寝てんのか…、…熱は…、』
桶とタオルをサイドテーブルに置いて、つぼ浦は成瀬のおでこにピタリと手を添える。
『……まだあるみたいだな…』
自分の体温よりも明らかに熱を持っているその身体。
じんわりと首筋や額に汗が滲んで、呼吸も心做しか息苦しそうに見える。
『早く治るといいんだが…』
整ったその顔をじーっと見ていれば、何故だかもっと近くで見たくて堪らない気持ちになる。
もう少しだけ、あと少しだけと顔を寄せれば、不意にうつらうつらとした紫色の瞳がぱちりとつぼ浦と視線を合わせた。
目と鼻の先でカチリと固まり、つぼ浦は目を見開く。
「……つぼ浦さん、…風邪、移るっすよ、」
緩く目を細めた成瀬がつぼ浦の頭を軽く撫でれば、つぼ浦はバッと背筋を伸ばして言い訳まがいの言葉を怒涛の如く秒で並べる。
『違う違う違うッ!、ちがうんだカニくんッ!、誤解だ!、俺はただ熱を測ろうとしてだな!、』
「あー、あれっすか?、あのー…、おでことおでこで測るやつ…」
『それだ!、あ〜ビビったぜ、あぁ、びっくりした、』
胸元のTシャツをぎゅっと握りしめて、つぼ浦は深呼吸を繰り返す。
そんな様子を気に止めることも無く、成瀬は眠気まなこな瞳を擦ってからチラリとサイドテーブルに目を向けた。
そこにはつぼ浦が持ってきた桶と温かなタオルがある。
「…ん。拭いてくれるんすか?」
『あ、あぁ、起き上がれるなら、拭いてやるぜ』
「…じゃあ、お願いしようかな…、」
よたりと上半身を起き上がらせて、成瀬はパサりとTシャツを脱ぎ捨てる。
自室なのでマスクもしていないが、けほけほとむせるような咳は薬の効果で落ち着いていた。
ベッドの縁に座ってつぼ浦がタオルを身体に当てれば、成瀬はふぅ…と息を吐いて脱力する。
『結構汗かいたみたいだな』
「そうっすね。おかげでだいぶ楽になりました」
上半身を丁寧に拭いて、つぼ浦は新しいTシャツを成瀬に渡す。
「…着せてくれません?」
『は?、』
「身体動かすのだるくて…、ダメっすか?」
『いや、別にいいぜ、』
少し成瀬に近づいたつぼ浦は、ゆっくりと頭から服を被せて、腕を通しやすいようにと袖を掴む。
「ン、ありがとうございます(笑)、」
ゆるゆると腕を通した成瀬は小さく笑みを浮かべていて、そんな姿にまた胸をきゅっと締め付けられてしまった。
「…なんか、つぼ浦さん顔赤いっすね」
“おでこで熱でも測ります?”と成瀬が提案すれば、つぼ浦は目を瞬かせて首を横に振る。
「ふふ(笑)、なんでですか?、さっきしてくれる感じでしたよね?」
否応がなしに成瀬がつぼ浦の後頭部に触れれば、ピタリと彫刻のように固まって身動きが取れない。
「ンー…、、熱は無いみたいっすね。まぁ俺の方が熱あるから、実際の所は分からないけど(笑)、」
『ッ、っ…、』
少しだけ密着したそのおでこが離れていき、つぼ浦は何度目かの震えた息をか細く吐いた。
「……ねぇ、つぼ浦さん、本当は何しようとしてたの?」
『…ぇ、ぁ、何が、だ、』
「すっとぼけても無駄ですよ(笑)、…それとも、無意識に近づいちゃっただけ?」
するりと腰を引き寄せればつぼ浦の身体はぴくりと跳ねて、声にならない声を喉元で詰まらせる。
「無意識に近づいちゃうほど、俺のこと好きになってくれたんですか?」
何も言えないつぼ浦は、成瀬の服の端を震えた指先できゅっと掴むことしか出来ない。
「ふふ(笑)、…先輩、俺アンタのこと好きですよ。…つぼ浦さんも、同じ気持ちって事でいいですか?」
再度確認すれば急激に首筋が赤く染まって、数秒の時間を要してからこくりと小さく頷く。
「ン〜(笑)、可愛いっすねぇつぼ浦さん(笑)、」
顔を少しだけ斜めにして、グッと近づいた成瀬の顔がつぼ浦に影を落とす。
『ッ、』
「……あぁ、俺風邪引いてるんだった、、すみませんつぼ浦さん、治ったら…ッ、ンっ、…、」
数センチのその距離を、つぼ浦が何かの引力に引き寄せられたかのように自ら顔を前へと寄せる。
軽く唇が触れて、少ししてから離れて、それからつぼ浦はふいと顔を横にそむけてしまった。
「……、っ、っは(笑)、つぼ浦さん(笑)、、へぇ、やるっすね」
つぼ浦の横顔はタコのように赤く、そして今にも泣き出してしまいそうな瞬きの多さだ。
「つぼ浦さん、もし良かったら、…俺の家の鍵、、受け取ってくれます?」
チャリッと小さな音を立てて現れた成瀬の手元をちらりと見てから、つぼ浦は震えた手でそれを奪い、自身のポケットに収める。
「住み込みバイトが終わっても、また来てくださいね」
『………、まだ、一週間、残ってんだろうが…、』
「あ(笑)、そうだった。やっぱ熱のせいで頭がボケてるかも…、……もう風邪移っちゃったし、このまま一緒に寝ましょ?」
『゙っ、おい、』
慌てるつぼ浦の身体をどサリと横になぎ倒して、そのままぎゅ〜…っとつぼ浦の身体を抱きしめ続ける成瀬。
「はいはいおやすみつぼ浦さん…」
小さく欠伸を漏らす成瀬が目を瞑れば、つぼ浦も長い長い息を吐いて仕方なしに目を瞑った。
「つぼ浦さん、」
『…なんだよ』
「ンふ(笑)、なんでもないです」
言葉はなくとも、あまりにも行動に現れ過ぎている愛情表現。
『……、すぅ…はぁ…、…。』
現状の行き着く先が恋というものなら、確かにそうだなとつぼ浦は納得して、それから無言で成瀬に身を寄せた。
「ン、くすぐったいっす…、」
『うるせぇ病人。はやく寝ろ』
「ぇ〜…、っふ(笑)、はい。了解です…(笑)」
きゅっと締め付けられていた心臓はトクトクと柔らかく脈打って、これからの二人の行方を後押しする糧になることだろう。
これは、一生に一度の恋人を探すペンギンの話。
小石のプロポーズ[完]
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