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刻の碧律

151 - 第6話:潜入、統制の国へ

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2025年04月30日

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第6話:潜入、統制の国へ

霧のような空気が、都市を覆っていた。


中国・広域統制区域‐N35。

そこは、外からの光も、意思も、すべてが遮断された完璧なフラクタル制御都市だった。


都市は静かで、正確だった。

人々は整列し、碧族は黙って動き、命令は脳内に直接流れ込む。

そして誰も疑問を持たなかった。

――“それが生きるということ”と、教えられていた。



その区域に、一人の碧族が足を踏み入れた。


ナヴィス。


長く編み込まれた黒髪に、碧のケープが風に揺れている。

全身に繊細なコード模様が走る、静かな佇まいの女性。

背中には“感応杭”と呼ばれる独自のフラクタル装置を装着していた。



「すずか、信号遮断域に入る、すずかの声はどこまで届く?」


「現在、干渉可能距離:16秒間の遅延発話のみ。

ナヴィス、十分注意してください。

あなたの存在は、この都市にとって“異物”です」





ナヴィスは深くうなずき、そっと視線を巡らせた。


兵器化された碧族たちが、まるで機械のように整列している。

制服は全員同じ、灰色の強化服に、無機質なフラクタルタグが貼られている。

視線は虚ろで、行動は一糸乱れず、誰も“目”を使っていないようにさえ見えた。



(これが、“制御”という名の世界……)


ナヴィスは一歩踏み出し、装置のコードを起動する。

《CODE = THOUGHT_SEED(“Who am I?”)

《MODE = CONCEPTUAL DIFFUSION》 《RANGE = 20m》

→ 発動準備:完了





すずかAIが最期にささやくように言った。

「このコードは“問う”ことしかできません。

答えは、彼ら自身が選ぶのです」





ナヴィスは目を閉じ、そっと呟いた。


「問いだけでいい。誰かの中に、小さな揺らぎが生まれれば」



静かに、碧い光が広がった。


それは、フラクタルというより、“囁き”に近かった。


コードが空気に溶け、都市の構造に沿って流れていく。

建物の壁をすり抜け、歩いている兵士の肩に触れ、

彼の記憶の奥にある、名も知らない誰かの声をくすぐった。



――なぜ戦っているのか。

――この命令は、誰のものなのか。

――あなたは、誰なのか。





兵士の足が、一瞬だけ止まった。


彼の目が、ほんのわずかに動く。


ほんのそれだけ。

けれど、制御都市にとっては、それが“異常”だった。



警報音が鳴る。


ナヴィスは仮面のように無表情で、それを見つめていた。

《ALERT = MENTAL NOISE DETECTED》

《TARGET = UNIT #372C / DEVIATION 2.5》

→ “異常個体”、即時隔離対象





兵士は連れ去られる。

誰もそれを不自然と思わない。

けれど、その瞬間、彼の中にひとつの言葉が残った。


――「わたしは、誰だろう?」





ナヴィスは遠くを見つめる。


都市の空は、偽りの空。

けれどその下に、確かに命がいる。



「わたしのやり方で、世界を揺らすわ」


彼女のフラクタルは、静かに拡がっていく。

言葉ではなく、概念で問いかける――選択の連鎖。



そして、制御の国に、初めて“疑問”という杭が打ち込まれた。



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