テラーノベル
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翌朝 朝練アキはトボトボと野球部の部室へ向かっていた。
昨夜のモヤモヤが、まだ胸に残っている。
鍵当番はタクだ。
なんとなく、真琴じゃなくて良かったと思ってしまった。
会ったら、気まずくて、何て話せばいいかわからないから。
部室のドアを開けると、タクがすでに着替えていた。
「背中が丸い‼︎」
そう言って、タクがアキの背中をバン!と叩いた。
人の気もしれないで。
お前が紛らわしいことするから、
俺は夜も眠れなかったというのに。
「……なんだ、元気ねーな」
タクが不思議そうな顔をする。
アキは挨拶もしないまま、練習着に着替え始めた。
その時だった。
部室のドアがゆっくり開いた。
「おはよう」
真琴だった。
赤髪が少し乱れていて、
練習着のまま登校してきたのがわかる。
アキの心臓が、ドクンと鳴った。
昨夜までは、なんとなく真琴に会いたくないような、そうでないような、
モヤモヤした気持ちだったのに——
今、ホッとしてる自分がいる。
「……真琴、おはよう」
目は合わせられない。
ギリギリの挨拶だ。
でも、あの瞳でジッと見られてるのは、
気配でわかる。
真琴は荷物を置いて、
帽子を被った。
「先、ブルペン行ってるから」
静かにそう言って、部室を出ていった。
アキは着替えの手を止めて、
ぼんやりとドアを見つめた。
(俺は……どんな顔をして、球受ければいいんだろう……)
タクがアキの肩を軽く叩いて、
小さく笑った。
「がんばれよ、アキ」
アキはタクを睨み返したが、
胸のモヤモヤは、
少しだけ、晴れていくような気がした。
朝練 ブルペン
タクは抜け殻状態のアキを部室に残して、
真琴の後を追った。
ブルペンに着くと、真琴はすでに軽く肩を回していた。
タクは隣に立ち、
グローブをはめながら言った。
「真琴、あいつなんか今日キモくね?」
真琴は無反応。
ただ、視線をグラウンドに落としたまま。
「……」
タクは続ける。
「あの後、何かあったのか?」
真琴は小さく息を吐いて、
「別に。何もないけど」
と、ぼそっと答えた。
タクは苦笑いした。
(いや、絶対あっただろ……)
それでも、タクはさらに突っ込んだ。
「アキ、色恋に鈍そうだからあんま混乱させんなよ。
あれ今日、使い物になんねーぞ」
真琴は静かに頷いた。
「わかってるよ」
真琴はロジンを手の平で握り、
指先で軽く潰すようにする。
タクはそれを見ながら、
冗談めかして言った。
「アイツ、ゴリラみたいな風貌で繊細なんだな」
その言葉に、真琴の目がピクッと動いた。
次の瞬間——
真琴の手が、タクのお尻をギチッとつねった。
「イッテ‼️‼️
馬鹿力で……‼︎」
タクは飛び上がるように叫んだ。
真琴は無言で手を離したが、
その目は少し怒っているように見えた。
アキを悪く言ったことに、イラッときたらしい。
タクは尻をさすりながら、
「痛ぇ……お前、意外と力強いな……」
と呻いた。
その時だった。
「お前ら、何してんの?」
ブルペンの入り口から、
アキの声が響いた。
あ。
最悪だ。
このやりとりを、
アキに見られていた。
タクは慌てて振り返った。
アキの顔は、完全にガチギレだった。
「タク、お前なんでブルペンにいるんだよ!
早く練習に行けよ‼️」
タクは手を挙げて、
「わ、わりぃ……戻るわ」
と、そそくさとその場を後にした。
地獄の空気が残るブルペン。
アキは真琴の隣に立ち、
練習を始める準備をしながら、
静かに息を吐いた。
側から見たら、
タクと真琴のやりとりはイチャイチャしてるように見えるだろう。
タクは心の中で思った。
(俺が思うに、アキは自覚してないだけで、真琴のことが好きだ)
ブルペンの空気は、
少しだけ、熱を帯びていた。
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