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皆様ごきげんよう、レーテル城で九年ぶりの再会を果たしたレイミ=アーキハクトです。カナリア様は私を見て目を見開き、そして固まっていますね。
無理もありません。まだ半信半疑ではあると思いますが、九年前に死んだはずの自分の従姉妹が目の前に現れたら目を疑うでしょう。
何よりドレスを仕立て直すに当たって、ドレスそのものに施された意匠は最大限残すようにとエーリカに依頼しましたからね。大変だったとは思いますが、その効果はしっかりと現れています。
あっ、チェルシーさんが戸惑っていますね。
「あのっ……閣下?」
「チェルシー、ごめんなさい。緊急の案件が出来たわ。少しだけ席を外してくれないかしら?」
カナリア様は視線をチェルシーさんに向けて言葉を掛けました。その様子からただ事ではないと判断されたのでしょう。チェルシーさんも深々と頭を下げました。
「畏まりました。控え室でお待ちしておりますので、いつでもお声かけを」
そして私に何とも言えない視線を送り部屋を出ました。これで室内には私とカナリア様だけが残ることになりました。
「さて……貴女は今レイミと名乗ったわね?」
カナリア様は椅子に座り、腕を組んで私を睨み据えました。
「はい、女公爵閣下。その様に名乗らせていただきました」
「確かにそのドレスは私が送ったものだし、貴女自身にも面影はある。あの娘が成長すれば、貴女くらいにはなったでしょう。今幾つ?」
「十六歳になりました」
「年齢も一致。だけど、信じるにはまだ足りないわ。分かるわね?」
当然ですね。
「では、どの様にすれば信じていただけますか?」
「簡単よ、あの娘にしか出来ないことをしてみなさい」
あっ、それなら簡単ですね。カナリア様には幼い頃一度だけお見せしたことがあります。つまり。
「では、これでどうでしょうか?」
私は掌に魔力を集中させて、魔法で氷の鳥を造り出しました。カナリア様にお見せしたものと同じように。
それを見てカナリア様も息を呑みます。
「魔法……」
「はい、女公爵……いいえ、カナリア様。お望みでしたら、私が魔石を持っていないことを存分にお調べください」
『魔石』があれば魔法を行使できる。極めて高価ではありますが、手に入れる手段が無いわけではありませんからね。
「いいえ、それには及ばないわ。まさか、生きていたなんて」
「信じていただけるのですか?」
「あのとき私に見せてくれた魔法、更に鳥を造り出した。この事を知っているのは、私とレイミだけ。そうでしょう?」
「はい」
なにせ、魔法を使えることは両親はもちろんお姉さまにも黙っていましたからね。
ただ、カナリア様にだけは披露しました。いつか役立つと思っていましたが、こんな形で役立つとは思いませんでしたね。
考えていると、いつの間にか私はカナリア様に抱きしめられていました。
「無事で良かったわ。あの日からどれだけ探したと思ってるの?」
僅かに震えがあります。泣いてる?
……両親以外でこんな優しくしてくれたのは、カナリア様だけでしたね。私達姉妹のことも随分と可愛がってくれました。私も思わず涙が溢れてしまいました。
しばらく無言で抱き合って再会の喜びを分かち合った私達は、落ち着きを取り戻して改めて向き合うことにしました。
「九年間も何処に居たの?」
「話せば長くなりますが、私はシェルドハーフェンで拾われました。お姉さまも同じです」
「シャーリィも生きているの!?」
「はい、カナリア様。姉妹揃って健在ですよ」
私だけだと思っていたみたいですね。
「いえ、シャーリィは殺しても死なないような娘だったから、或いは生きてるかもとは思っていたけれど……」
お姉さま、そんな評価をされていたのですね。まあ、同意しますけど。
「私達姉妹が再会したのも去年の話です」
「そんな場所に居なくても、私を頼れば……いいえ、頼れないわね」
察していただけた様子。
「あの日の首謀者が誰か分からない以上、カナリア様を頼るわけにはいきませんでした。お姉さまも同じ気持ちです」
「あの日に起きた事件ね」
「はい。何かご存知ではありませんか?」
「もちろん私も調べたわ。うちの派閥に属する貴族が被害にあったことでもあり、大事な身内だもの。けれど、真相は掴めていないわ」
「カナリア様も?」
レンゲン公爵家の力を使っても真相を調べられない?
「残念ながらね。確信に迫るような情報は巧妙に隠蔽されているし、邪魔も入るのよ」
「邪魔?」
「帝室よ。具体的には第ニ皇子殿下の周りから圧力が掛かるの。あの事件について下手に嗅ぎ回るなとね」
でもそれだと。
「自分達が関与していると自供しているようなものでは?」
「普通なら、ね。相手は帝室、皇帝陛下のご子息よ。下手に突ついたら、どんな報復があるか分からないわ。だから帝室に感付かれないように調べると、今度は核心部分がまるで分からない。お手上げ状態ね」
「私達を潰して利益を得る者の仕業では?」
「それも調べたけれど、ハッキリ言ってどの派閥とも仲が悪いのよね。それに、アーキハクト伯爵家に起きた悲劇の補填として西部開発の制限が大幅に緩和されたの。だから、『ライデン社』と協力して鉄道まで開通させることが出来た。言ってしまえば、私達も利益を得られたの」
むっ。
「睨まないでちょうだい、レイミ。私が貴女達姉妹を陥れるはずがないでしょう?まして、ヴィーラお姉様に手を出そうなんて考えただけでも恐ろしいわ」
それもそうですね。カナリア様には身内であり先見の明を持つアーキハクト伯爵家をわざわざ潰す理由がない。お母様の妹分的な立ち位置で関係も良好でした。
あっ、そうか。
「ですが、何も知らない者から見れば、カナリア様がアーキハクト伯爵家を潰したように見えると」
「その通りよ。首謀者も生き残りが居ると考えていたんじゃない?だから、うちに利益が出るように謀った。もし生き残りが居ても、矛先を私に向けるためにね」
確かに。もし私達姉妹がカナリア様と深い関係で無かったなら疑ったでしょうね。幸い私達姉妹は家族ぐるみの親しい関係でしたし、従姉妹として可愛がっていただけましたから信じることが出来た。
もちろん打算もあるでしょうが、そこは貴族なので。
「出来れば今すぐにシャーリィも呼んで愛でたいけれど、本題はそれではないわね?わざわざ今になって貴女が会いに来たんだもの。今さら保護して欲しいなんて話じゃないわよね?」
カナリア様が腕を組んだまま私を見つめてきます。うん、再会を喜ぶのは後にしましょう。先ずは私がここに来た用件を話さないと。そして、協力を取り付けないといけませんからね。