テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「付き合って当日にこんなことを言って、びっくりすると思います。もし一緒に住んだら、芽衣さんの家賃と光熱費分は浮くだろうし、その分、自分の好きなことに使ってほしいんです。もちろん食費も俺が出します」
「そんなわけにはいきません!」
何から何まで、甘えるわけにはいかない。
それに今日付き合ったばかりだ。
同棲なんて、急に考えられない。
「俺はずっと芽衣さんと一緒に居たいと思っています。ご両親のことも一緒に考えて、芽衣さんが幸せになれるように付き添っていきたい。今すぐじゃなくても大丈夫です。ゆっくり考えてください」
私の家庭の事情も一緒に考えてくれると言ってくれた皇成さんはとてもカッコ良く見えた。
今まで独りで悩んでいたことに、一筋の光が見えたような感覚。
「わかりました。時間をください」
せっかくの提案、お互いが負担にならないようにもっといろいろと考えてから決めたい。
今の提案では、皇成さんにかなり負担をかけてしまうし。
「俺は帰ってきて、芽衣さんのご飯を食べることができたら幸せです」
「それに、ご両親のことが落ち着いたら、今の会社を辞めて、芽衣さんの好きなことをしてほしい。 ネコカフェで働くことだって応援します」
ああ、家事はもちろん手伝いますよと部長は付け加えてくれた。
こんなにも考えてくれて私は今とても幸せだ。
「ありがとうございます。こんなにも一緒に考えてくれて、幸せです」
その後、部長に自宅まで送ってもらった。
帰る時もギュッとハグをしてくれて、自分にこんなにも想える相手が見つかるなんて思っていなかったから、夢なんじゃないかと思うくらいだ。
皇成さんとの同棲については、ゆっくり考えることにした。
次の日出勤して 自席に座ったが、なんだかいつもより視線が刺さる気がした。
そんな時
「朝霧部長って、会長の息子だと思ってたけど、訳ありらしいよ。部長の母親と会長は離婚しているらしい。今はまだ大学生の今の奥さんとの子が将来的には朝霧商事を継ぐ予定なんだって」
朝霧部長と聞こえ、つい聞き耳を立ててしまった。
そうだったんだ。
部長ももしかしたら家族関係とか、大変なのかな。
「へー、じゃあ。今の朝霧部長は、部長どまりってこと?どうせ社長とか会長にはなれないってことでしょ。まぁ、いっても常務とか副社長とか。どんなに頑張ってもトップになれないって決まっているの、なんか可哀想だな」
どっちにしろ、金持ちだからいいか、なんて笑っている。
嫌な気分になった。
私の陰口を言われるより、大切な人のことをバカにされる方が怒りが増すことを初めて知ったかも。
皇成さんはその日、朝から出張だったため、不在だ。
今日は出勤しないかもしれないと昨日言っていた。
今朝の社員の発言に、モヤモヤを抱えながら一日を過ごし、帰宅時間になる。
定時であがる社員が多い中、依頼された仕事量が多く、明日のスケジュールを確認していたら部署にはほとんど誰も居なくなっていた。
パソコンを閉じ、帰宅の準備をしていた時
「あのさー」
気づいたら葉山さんと、葉山さんと仲の良い同期が私のうしろに立っていた。
「なんですか?」
私を見下したかのような目、どうしてこんなにも絡んでくるんだろう。
「朝霧部長と仲が良いって言ってたよね。もしかして、和倉さんも遊ばれてるの?友達とか言っていたけど。朝霧部長って、前の部署で女性社員に強引に手を出したから異動してきたって聞いたの。あんた、朝霧部長に気に入られているみたいだけど、気をつけた方が良いよ。ま、あんたのどこが良いのかわからないけど。それにどうせ部長止まりでしょ。媚びる必要なかった」
アハハっと葉山さんが笑っている。
皇成さんが女性社員に手を出す?
それで異動してきた?
何を言っているんだろう。
「イケメンだけど素っ気ないし、あんたみたいな子を擁護するとか、マジ性癖どうかしてるよね」
クスクスクスっと葉山さんは笑い続けている。
ああ、ダメだ。イライラする。
「最近、部長が変わって調子に乗っているみたいだから、忠告してあげたの。感謝してよね」
葉山さんは帰ろうとしたが
「謝ってください」
私の言葉に足を止めた。
「はぁ!?」
「私のことをバカにするのは構いません。だけど、事実じゃない、そんな酷いことを噂で広めるのは、おかしいと思います。部長に対して失礼です。朝霧部長に謝ってください」
ここは引けない。謝罪をしてほしい。
前の部長と違って朝霧部長に変わってから、葉山さんは仕事がやり辛くなったと思う。
それはきちんと朝霧部長が公平に業務を振っていたり、管理しているからだ。
それに今までみんなのロボットだった私が、指示を聞かなくなったのも面白くないことだと思う。
朝霧部長が女性社員に手を出すなんて、嘘に決まっている。私は信じない。
「はぁ?頭おかしいんじゃないの?どうして謝らなきゃいけないのよ」
「朝霧部長のこと、バカにしたからです。謝ってください」
私の頑なな態度が気に入らなかったのか
「あんたにどうしてそんなこと言われなきゃいけないのよ!調子に乗るんじゃないわよ!」
葉山さんが私に手をあげそうになった時――。
「やめてください。ここは会社ですよ」
皇成さん、朝霧部長がうしろに立っていた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!