コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
放課後、高校生だけがいつも立ち寄る本屋さん。
この本屋さんは、どこか不思議なオーラを纏っています。
―――
「はあ?」
「俺に非はねえだろ」
「あるに決まってるじゃん!」
「あたしなんにもしてないよ!」
「そうやって責任を押し付けるのがお前の悪いところだ」
「あ、あんただって!」
俺は道中、立ち止まって怒声をあげた。
俺がいま怒っているのは、彼女に対して。
半年ほど前に 彼女から告白されて付き合ったのだが
なかなか相性が合わず
次第に喧嘩も増えるようになっていった。
最初は恋愛の駆け引きが楽しかったのに
今では話すたびに喧嘩をするだけ。
―――これって、付き合っている意味あるのか?
お互い好きになれないなら
こうして付き合わなくてもいいんじゃないか?
「(…………あの頃に戻りたい)」
「(素直に笑い合えたあの頃に………)」
好きじゃないわけじゃない。
だけど、俺がいつも短気なせいで
彼女を怒らせてしまう。
俺のせいだとわかっているのに
どうしてか直せない。
素直になれない。
彼女との距離も、うまく縮められない。
当たり前のように体をくっつけあって
幸せになりたいだけなんだ。
―――俺は気持ちが壊れて 思わず泣き崩れそうになった。
その時だった。
「………颯(はやて)」
「なに?」
「あの本屋、寄ってもいい?」
「……勝手に寄ってけば」
「ち、違うの――」
「颯も、来て………っ」
「っ?」
彼女が、珍しく俺の腕をつかんで
その本屋へと誘導する。
そこの看板はあちこちが錆びていて、老舗のような雰囲気がある。
だけどどこか落ち着く。
そんな俺は言われるがままについていく。
本屋につくと、早速彼女が本を手に取る。
どうやらミステリー小説のようだ。
そう。
彼女は昔から、ミステリーやホラー系統の小説を好んで読んでいるのだ。
そう言っていた。
最近は忘れていたが、今がチャンスかも知れない……
そう悟った俺は、彼女に話しかける。
「その本、俺が買う」
「え」
「代金は払うから」
「そ、そんな………いいよ」
「遠慮すんなよ」
「せっかく来たんだからよ」
「あ、ありがとう…――」
不思議そうに首をかしげながら、彼女は俺に本を手渡す。
俺はレジカウンターの方に目を向ける。
そこには小太りの猫が一匹、座っているだけだった。
「あれ、店員は……」
「あっ、そうだった」
彼女が声をあげた。
「颯、この本屋さんに来たの、初めてだったよね」
「……実はここ、少し変わってるの」
「だから店員さんはいなくて、猫が代わりに店番を務めてるのよ」
「は、はぁ……」
「最初は信じれないと思うけど、ほんとなの」
「だからさ……ほら。本を置いて」
「あとはお金を払ったら、猫がやってくれるよ」
俺はにわかに信じれなかったが、言われたとおりにやってみた。
するとどうだ。
猫が硬貨を引き出しに入れたではないか。
そして気持ちよさそうに喉をならして、ベルに手をのばした。
まるで「ありがとう」と礼をしているようだった。
―――そんなこんなで俺達は本屋を出た。
そして幸運なことに、この本屋がきっかけで彼女と仲直りをすることが出来た。
またあの頃のように、なんでも言い合える仲に戻りつつあった。
俺はふと、たまにこのことを思い出す。
きっと俺達に幸せをもたらしてくれたのは、あの猫と本屋なのだろう。
俺は感謝してもしきれない気持ちでいっぱいだった。
―――そんな本屋の名前は
「猫本屋」