テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
〜神桜翠side〜
休み時間、ファイルをパラパラとめくる。
百均で買ったバインダーにリフィルを組み合わせ、柊先生のグッズを詰めた、オリジナルのファイルだ。
基本的にはトレカが多いが、アクスタや缶バッジもたまに作る。
学年委員のみんなに配ったりすることもあるが、一度等身大パネルを渡そうとしたときは三人とも拒否していた。
なんてことを思い出して笑みを浮かべていると、パタパタと音を立てて数人の女子がやってきた。
「翠ー!ひぃ先のグッズ見せて!」
「ウチも見たい!いいよね?」
柊先生推しの友達たちだ。
”先生推し”はイレギュラーな例に見えるが、柊先生だけは違う。
まずイケメンで高身長、性格も良い上に、頭も良くてスポーツ万能。
(こんなハイスペ先生、推さない方が無理でしょ?!)
これはあたしに限った話ではなく、学年中に柊先生のファンは多数生息している。
推しの概念が浸透していないお母さんの世代でも、かっこいい先生にメロつく生徒が多かったのと同じだ。
「もちろん見ていいとも!そうだ、昨日撮っためっかわな写真あるけど見る?」
「見るー!」
あたしのスクールライフは、もう最高としか言いようがないものだ。
――と思っていた。
「翠ーっ、一緒に帰ろ!」
部活終わり、下校する生徒の波に乗って歩いていると、同じく柊先生推しの愛莉に声をかけられた。
「ねえ翠、今日のひぃ先のビジュめっちゃよくなかった?!」
「分かる!最近髪切れてないのか、長めなの良すぎるよね!」
「でもそう言いつつ、髪短くなっても褒めるんでしょ?」
「もちろん!柊先生の選ぶものが一番なんだから!」
そんな推しトークをしていると、目の前をカップルと思われる先輩たちが通った。
「翠、彼氏つくりなよ。あんた顔いいんだしさ、ちゃちゃっと男引っ掛けてウチらとダブルデートでもしようよ。」
「ダブルデートって……愛莉、彼氏できたの?!」
愛莉はふふん、と自慢げに笑う。
「受験とか色々考えること増える前に、彼氏つくっちゃいなよ。」
あたしは愛莉の言葉を聞きながら、なぜかどうでもいいと思ってしまう自分がいることに戸惑った。
(あたし、恋リアとか恋バナとか、大好きなのにな。)
家に帰っていつものように推し活の色々な情報を調べていると、とあるサイトの表題を見て指が止まった。
『気をつけて!あなたも推しに”ガチ恋”中?! 苦しくなる前に推し活をやめる方法とは!』
「ガチ恋、か……。」
よく友達から、柊先生のことを恋愛的に好きなんじゃないかとからかわれた。
その度に、なぜか胸のどこかが痛んだ。
先生とあたしは絶対に結ばれない、それが分かったうえでみんなからかうからだ。
(あたし、柊先生に恋してるのかな。)
そのサイトでは、ガチ恋ファンは度が過ぎると推しの迷惑になったり、自分自身も結ばれないことに苦しんだりしてしまうため、担降りすることを進めていた。
『あなたが推しに注ぐ”愛情”も、一歩間違えれば推しを傷つけることになります。あなたと推しどちらのためにも、上記のような方法で気持ちが離れるのを待つことが最善と言えるでしょう。』
その夜、あたしは上手く寝付けなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!