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セルフサービスの店だったので、すぐに用意されたホットコーヒーのカップを二つトレーに乗せてレジ横の棚からスティックシュガーとミルクを取って。
(えーっと、優里ちゃんは……)
縦長に10卓ほどテーブルがある。時間も遅くなってきたからか比較的空いている中キョロキョロと見渡すと。
不機嫌そうに頬杖をついて座る優里の姿を、奥の方の二人席で見つけた。
「お待たせ」
トレーを置きながら声をかけると、見上げてきた瞳は、もちろんギロリと刺し殺されそうな強さで敵意を放つ。
「……いらないって言ったのに」
「そうもいかないでしょ、一応あいつの友達だし」
「一応じゃないし」
淡々と会話しながら坪井もイスに座り、やっと向き合う。
「やー、なんていうか世間て狭いね」
とりあえず会話を続けようと出てきた言葉に、優里はニヤリと嫌な笑みを浮かべた。
「びっくりした?」
「そりゃね、まぁ、まさかあいつと繋がってるとこから青木芹奈の名前出てくるとは思わないから」
「まぁ飲んでよ」とカップをさすと「じゃあせっかくだから、いただきます」と律儀にも頭を下げてカップに触れた。
やはり真衣香の友人だな、と。脳裏に彼女の顔が浮かんで思わず口元が緩んだ。
もちろん「何笑ってんの」と冷え切った声が聞こえてきてしまったのだけれど。
「いや、相当俺のこと嫌いだろうに。いただきますって律儀なとこあいつの友達だなぁってなんか実感してたとこ」
坪井の言葉に「ふーん」と特に興味もない様子で優里は相槌を打つ。
それから、ボソッと苛立った声で坪井に聞いた。
「真衣香のこと好きなの?」
「そうだね、好きだよ」
特に考えることもせず、すぐに答えた坪井が気に食わなかったのか「よく言うわ」と舌打ち混じりに吐き捨てた後、坪井を鋭く見据えて言った。
「……じゃあなんであんなに泣かせたわけ? 意味わかんないんだけど」
敵意丸出しで強く睨みつけられる。
無理もないと、坪井は眉を下げ相手を苛立たせない程度に少しだけ笑みをつくった。
「ちょっと、色々あって」
「名前出した途端ビビってたみたいだけどさ? 芹那のことは関係してるの?」
「……まぁ、してるかと言われれば、そうだね」
坪井はカップに手を伸ばし、コーヒーを少しだけ口の中に含んだ。
それを黙って見つめていた優里は、まるで坪井を試すかのように、チクチクとした空気と物言いで話し始める。
「ま、さっきも言いかけたけどさ。ずーっと、聞いたことあるなぁって引っかかってて。名前ね、真衣香に聞いてたから」
「そうなんだ。あいつが友達に俺のこと話してくれてるって嬉しいかも」
坪井がニヤける口元を隠しきれないまま言うと「いや、大体いい話じゃなかったから!」と即座に返してきた優里。
呆れたようにため息をついた後「で、何でこんな聞き覚えあるのかな、よくある名前でもないのにって思ってたわけよ」と、付け加えた。
そんな優里の声を、今度こそ坪井は声を挟まずにコーヒーの苦味で気を引き締めながら聞き入った。
「でもこの間、従姉妹と……芹那と会う機会があってさ。まあ、学生の頃の卒アル。ちょうど引っ越しの手伝いだったし見たわけ」
視線を優里に固定して、言葉の終わりをじっと待つ。
「したらビンゴなんだもんねー。あ、芹那から聞いてた名前だったかー!って……嫌になるわ。てかイケメンってビフォーアフターそんなにないよね? 顔あんまり変わってないし、坪井って書いてあるしすぐわかったよ」
興奮気味に話し終えると優里は一転黙り込み、コーヒーカップを持ち上げた。
かわりに坪井がカップを置き、出来る限り冷静に問いかける。
「で、今日はどうしたの? 青木芹那の件なのか、それとも立花の件で? どっち?」
冷静を心がけたが、思ったよりも低い声が出た。
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