テラーノベル
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今日は珍しく、アラームより先に起きてしまった。
アラームより先に起きると、損した気分になるのは俺だけだろうか。
部屋に樹里はいない。
あの子はいつも、自室で寝るからな。
けど起こさないと、いつまでも寝てるし……起こしに行こ。
樹里の部屋をノックして、しばらく反応を待つ。
……返事がない。まあ、わかってたけど。
「はぁ……樹里、入るぞー」
部屋に入ると、樹里たちの匂いが染みついたような、甘い香りがふわりと漂ってきた。
閉じられたカーテンの隙間から、朝の陽光が淡く差し込んでいる。
部屋の中は、一見すると意外に整理されている。
……いや、よく見ると汚いな。
服は脱ぎっぱなし。
タンスの引き出しは開けっぱなし。
丸めたティッシュはゴミ箱から外れてる。
お世辞にも綺麗とは言えなかった。
日曜日はまた掃除かぁ……やれやれ。
未だに爆睡中の樹里へ近づく。
かわいい寝顔だ。よほど気持ちよく眠っているのか、起きる気配がまったくない。
ちなみに、樹里はちゃんと服を着ている。
といっても、タンクトップにショートパンツという、かなりラフな格好だけど。
……もう少し寝冷えしない格好をしてほしいものだ。
「樹里、起きな。朝だぞ」
「くかぁ……くぅ……」
返事の代わりに、規則正しい寝息を立てる樹里。
そのたびに、チャーミングな八重歯がちらりと覗く。
このまま寝かせておいてやりたくなるけど、起こさず学校に行くと怒られるんだよな。
「樹里ー、おーい」
樹里の肩を揺する。
その度に揺れるお胸がなんとも……眼福です、ありがとうございます。
「んむぅ……んん……?」
あ、起きた。
綺麗なエメラルドグリーンの瞳が、暗がりの中でも主張している。
ちゃんと起きてないから、いつもの猫目がとろんとしてるけど。
「樹里、おは──」
「ぁー、アキだぁ」
「ほぐっ!?」
不意に伸ばされた両手。
頭を捕まれたかと思うと、ぐいっとたわわな胸に抱き寄せられた。
うわっ、ちょ、近い近い!
樹里の甘い香りが鼻をくすぐる。
こ、こいつっ、完全に寝ぼけてやがる……!
「んふふー……アキぃ、髪の毛ふわふわぁ……」
「ちょっ、樹里……!」
「わんちゃんみたい……かぁぃぃ……くかぁ〜」
寝た!?
結構強く抱き締められて動けない。
まあ、この役得状態から動きたくないって気持ちの方が強いんだけど。
けどこのままじゃ、俺が学校に遅刻する。
このまま寝たい気持ちを抑え、樹里の脇腹をつついた。
「にゃあぁんっ!?」
よし、起きた。相変わらず、こういう刺激に弱い子だ。
けど反射的なのか、抱き締めたまま俺のことを離さない。
むしろ、もっと締め付けが強くなった。
ちょ、これ普通に締め付けられて苦しい……!
無理っ、死ぬ……!
「はぁっ、はぁっ……ん? ……アキ、何してんの?」
「んー! んー!」
気付いたなら離せ!
く、苦じぃ……! タップ、タップ……!
「ひゃぅっ……!? どっ、どこ触ってんだぁ!!」
「ほべっ!?」
び、び……ビンタ、痛ぇ……。
廊下まで吹き飛ばされ、部屋を締め出された。
ま、まあ、起きてくれたならいいか。
……頬の腫れ、治まるかなぁ……?
◆
はい、治まりませんでした。
そのせいで今日1日、周りからは痴情のもつれやら、浮気の制裁やらと、また変な噂が立った。
ある意味で制裁ではあるけど。
樹里、まだ怒ってるかなぁ……?
「た、ただいまぁ……ん?」
なんだろう。甘い匂いがするような。
樹里のやつ、お菓子の爆食いしてるんじゃないだろうな。
ダメだぞ、お菓子は体に悪いんだから。
ここは樹里のために、がつんと……言えるかな。
恐る恐る、ダイニングキッチンへ続く扉を開ける。
すると、さっきよりも甘い香りが強くなった。
しかも、ご機嫌なのか鼻歌まで聞こえてくる。
……あれ? もしかして怒ってない?
キッチンに立っている樹里は、髪をサイドテールにまとめてエプロンを付けていた。
ミニすぎるスカートに、肩出しのニット。
ギャル風にメイクもばっちり決めている。
「ふんふんふーん♪ らんらんらん♪ よし、かーんせいっと」
カウンターの上には、可愛く包装されたクッキーが置かれている。
シンクにはいろんな調理器具が水に浸かっていた。
まさか……あれ、手作りか?
え、樹里って料理とかお菓子作りできたっけ……? 初耳なんだけど。
それにしても、あんなに綺麗にラッピングして……誰かに渡すのかな。
「ふぅ……アキ、喜んでくれるかな……?」
えっ、俺? ……なんで俺?
「よ、よしっ。アキが帰ってくる前に、最後の練習を……」
樹里はラッピングしたクッキーを手に、部屋の鏡の前へ移動する。
何度か深呼吸を繰り返すと、今まで見たこともないほど満面の笑みを浮かべた。
「おっ、おかえり、アキ。今朝はビンタしちゃってごめん。その……お、お詫びに、クッキー作ったの。初めて作ったけど、上手にできたと思うから……た、食べてほしいな」
……健気だ。かわいすぎる。樹里のこんなところ初めて見た。
でも……どうやって入ろう。
こんなところ見ちゃって、平然とした顔で入れない。
今も口元のにやけが止まらないし。
ここは出直して──。
ギシッ。
……あ。
和風建築を忠実に再現したのが仇になった。
床板の軋む音が響き、俺と樹里の動きがぴたりと止まる。
固まった樹里が、錆びついたロボットのようにぎこちなくこちらを向き……目が合った。
「あ、あー……ただいま」
「………………………………よし、死のう」
「待て待て待て待て待て!?」
何言ってんのこの子ッ、何言ってんの!?
慌てて部屋に入って、樹里の肩を掴む。
ちょっ、暴れんな……!
「ううぅっ。むりぃ……! あんなところアキに見られたら、もう生きていけないぃ!」
「かっ、可愛かったから! 全然大丈夫だから落ち着け!」
「可愛いとか言うなぁ……!」
あーもうっ、めんどくさ可愛いな!
暴れないよう、樹里の体を強く抱き締める。
しばらくすると、ようやく力が抜けたのか、樹里はおとなしく俺に体を預けてきた。
「……笑わない?」
「笑うもんか」
「……怒ってない?」
「怒ってないよ」
「……ごめんね、アキ。痛かったよね」
「ちょっとだけ。でも気にしてないから」
「……ありがとう」
もう大丈夫そうだな。
そっと体を離すと、樹里は顔を真っ赤にして、目尻に涙を浮かべていた。
恥ずかしがり屋なのは相変わらず、か。
「えっと……それじゃ、クッキー貰ってもいいかな?」
「う、うんっ。紅茶も用意したから、部屋で食べよっ」
待ってましたとでも言うように、樹里が俺の手を取って2階へ上がる。
こんなに浮かれた樹里を見るのも、久々だな。
◆
「なあ、アキ。クッキー、ちゃんと美味かったか?」
深夜。一緒のベッドに寝転がっている樹里が、俺の腕の中で、心配そうな顔をする。
どうやら初めて作ったから、心配で仕方ないみたいだ。
「大丈夫。美味かったよ」
「そ、それならいいんだけどさぁ」
口元をもにょっとさせている。ニヤけるのを我慢してるみたいだ。
我慢しなくても、もっと喜べばいいのに。
素直じゃないんだから、まったく。
部屋の時計が、もう少しで日付をまたぐ。
最後に樹里の頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細め、口を『ω』みたいな形にした。
「また1週間後だな。寂しくないか?」
「さ、寂しくねーよ。ウチ、他の奴らよりアキに依存してねーもん」
「そうだったのか?」
「……うそ。めっちゃ寂しい」
樹里が俺の服を掴み、期待のこもった目を向けてくる。
仕方ないな……。
腰と頭に手を回し、抱き締めるようにしてキスをする。
と──樹里が舌を絡めてきた。
いわゆる、ディープなやつ。
いっ、いきなりかよ……!?
「んぅ……ぱっ。ぇへへ」
「えへへってな……」
「いーじゃんかよ。……ん、それじゃあな、アキ。また1週間後」
いつの間にか日付けをまたいでたらしい。
樹里の体が発光し、体が変化した。
黄緑色の髪は、眩いほど綺麗な金髪に。
猫目は切れ長でクールな印象。瞳の色は黄金色に変化する。
胸は小さくなったけど、綺麗なおわん型に変わった。
「──あら、アキくん」
「おはよう、亜金」
彼女は、七色亜金
金曜日の時の姿だ。
起き上がり、癖がなく腰まで長い金髪を手で梳く。
まるで黄金の川のように揺らめき、電灯を反射して神聖な雰囲気を漂わせている。
「もう金曜日なのね。みんな、あなたに迷惑かけてなかったかしら?」
「まさか。みんないい子たちだよ」
「そう、よかったわ」
クールに返すが、亜金は誰よりも心優しいことを知っている。
亜金の頭を撫でると、嫌そうな顔をしながらも逃げようとしない。
「子供扱いしないでほしいのだけれど」
「子供扱いじゃない。彼女扱いだ」
「……あなたって、そういうこと平気で言うのね。慣れてる感あって腹立つわ」
「そりゃあ、7人も彼女がいればこうなる」
「女の敵」
「全員、お前だけど」
「……ふんっ」
亜金は立ち上がり、トップスのズレを直すと、扉の方へ向かった。
「寝るわ。夜更かしはお肌の大敵だから」
「ああ、おやすみ。また明日な」
「……ええ。また、明日」
亜金は恥ずかしそうに手を振ると、自室へと戻って行った。
夜更かしはお肌の大敵、ねぇ。
それ、他の子たちにも言ってやってくれないかな。
大抵、日付が変わるギリギリまで起きてるから。
コメント
1件
最新話読んだわ。 朝の樹里、完全に寝ぼけてアキを胸に抱き寄せるところから、あの「よし、死のう」の流れが最高すぎた。照れ屋なのに健気にクッキー焼いて練習までしてるところ、めちゃくちゃ刺さった。最後の亜金とのクールな掛け合いも含めて、1話でギャップ萌えを3回ぐらい仕掛けてきてるのずるいわ。次が楽しみ🔥
榎本くもり
2,133
#地雷系
尾津嘉寿夫 ーおづかずおー
1,394