夕暮れのオフィスは、いつになく静まり返っていた。パソコンの微かなファンの音、遠くの話し声もかき消され、ロシアの周囲だけが異様に冷たく感じる。
彼は椅子に深く沈み込み、窓の外の曇った空をぼんやりと見つめていた。
だが、その視線は景色には届いていない。
胸の奥に、ずっしりと重く沈み込む違和感があった。
“あいつが、俺から距離を取っている”
その感覚は微かなものだった。
けれど確実に、日に日にその距離は広がっていく。
些細な仕草の変化。
たとえば、仕事中に目が合ってもすぐに逸らす。 話しかけても短い返事だけ。 わずかなため息、視線の向け方。
それらはすべて、確実に「離れていく距離」を告げていた。
俺は、それを否定しようとした。
「気のせいかもしれない」そう自分に言い聞かせようとした。 しかし、胸の奥の違和感はますます大きくなっていく。
「中国……なんで、急にそんな風になったんだ」
低く、震えるように呟く声は、いつもの冷たさとは程遠かった。
感情を表に出さずに生きてきた男にしては、異常なほど弱々しかった。
俺は自分自身に問いかける。
「俺は何か間違ったか?」
「俺が変わったのか?」
「それとも、あいつの心に何かあるのか?」
だが、答えはどこにもなかった。
仕事の合間、彼の視線は自然と中国の存在を探してしまう。
机の上の資料を見つめているふりをして、ちらりと横を見る。
しかし、そこにはいつもの中国の姿はなかった。
距離を置かれたことが、何よりも辛かった。
それは、ただの“嫌われている”感覚ではなかった。
「……こいつは、もっと深いところで何かを抱えている」
俺はそう感じていた。
だが、中国は、その“何か”は決して見せようとはしなかった。
自分だけが知りたいと願っても、向こうは心を閉ざしている。
その壁の厚さに、俺の心は苛まれた。
昼休み、仕事場のカフェテリア。
誰もが談笑する中、俺は一人静かにコーヒーを飲んでいた。
その時、不意にスマホが震えた。
画面には短いメッセージが浮かぶ。
【遅くなる。先に帰ってくれ】
送り主は中国だった。
まただ……
最近ずっとこんな感じだ…………
言葉は少なく、冷たい。
けれど、どこか壊れそうな繊細さもあった。
俺はそれを見つめながら、胸の奥にぽっかりと空いた穴を感じた。
“本当はもっと知りたい。
だが、近づけば近づくほど離れていく”
――そんな矛盾に心が引き裂かれそうだった。
そして、仕事を終えて1人寂しく帰路につく頃。
冷たい風が頬を刺し、吐く息が白くなる。
足早に歩くロシアの心は、重く、深く沈んでいた。
「……相談に乗ってやりたいのに、どうすればいいか分からねぇ」
呟いた声は消え入りそうで、誰にも届かなかった。
孤独だった。
誰にも言えない、誰も知らない孤独。
周りから自分がいくら強く見えても、俺の内側は折れそうなほど弱かった。
「……何で、こんなに苦しいんだ」
無意味に拳を握りしめ、膝を抱え込む。
窓の外に浮かぶ街灯のぼんやりとした光が、暗闇の中で揺れていた。
彼の胸の中に、
漆黒の影が静かに、しかし確実に広がっていく。
それは、
中国の過去の痛みを、彼自身も背負ってしまったかのような深い闇だった。
その問いは、冷たい夜の闇に沈み、答えを持たずにただ響いた。
日曜日の午前
俺はイチゴジャムを持って中国の部屋の前で固まっていた。
部屋は、すぐ隣なのにまともに会話をしたことがあるのは、初めて一緒に笑いながら帰ったあの日だけだ。
そうあの日だけだった………
何があったのか
何で距離をとっているのか
何で急に笑わなくなってしまったのか
理由を全て知りたい、
もう一度笑い合いながら一緒に帰りたい………
でも、距離をとってる理由がお前が嫌いだからなんて言われるかもしれないと考えるとインターホンを押すのが少し怖い
そう思っていて既に15分が経過していた
すると突然
ドアが「ガチャッ」と音を立てて開いた
「!?ロシアッ…!?」
「あ…」
「…何しに来た」
少し前まで輝いて見えていた琥珀色の右目も心做しか、くすんで見える
「ちょっと聞きたいことがあるだけだ…」
「そうか、」
「中国、これ」
俺は中国に、そっとジャムを渡した
「イチゴジャムか、ありがと…」
“ありがとう”その一言だけで俺は嬉しかった
そして俺と中国は向かい合うようにして椅子に座った
「じゃあ、本題だ」
「あぁ」
「何で俺と距離をとっているんだ?」
そう聞くと中国の瞳が一瞬揺れた
「…別に」
嘘だ、中国の言う ”別に” には裏がある…中国と長年の付き合いだと言っていた日本から聞いたんだから…間違いない
「嘘つけ、何かあったんだろ言ってみろ」
いつもの変わりない冷静な口調で聞いた
「うるさい…」
「うるさいって、お前っ……」
つい立ち上がてしまった
やっぱり嫌われているのかもしれない…そう思ったが、
「……ロシア」
「ん?」
「笑わないと誓うか?」
「誓う」
そう言うと、今まで喋らなかった分のことを全て話してくれた。
「俺は、優しくされるのも本音を話すのも怖い…」
「何故だ? (一人称が、、、我から俺に?)」
「慣れてないからだ…その優しさに…」
中国は理由を全て話してくれた
中国の過去のことも自身の本音も
沈黙が落ちた。
中国の声が途切れた瞬間、部屋の空気が、まるで息をひそめたように静かになった。
それは一つの爆発だった。
張り詰めていた感情、抑え込んでいた記憶、ずっと誰にも見せなかった本音――
全部が、突然こぼれ出た。
俺は、それを最後まで遮らずに聞いた。
まるで痛みそのものを受け止めるように、
真剣なまなざしで、中国の一言一言に耳を傾けていた。
やがて、言葉が止まる。
中国は肩で息をしながら、目を伏せた。
視線の先には床しかなく、顔にはもう何の表情もなかった。
……俺はしばらく黙ったまま立ち尽くしていた。
それは言葉を選んでいたのではなく、
それほどまでに重いものを、今、確かに受け取ってしまったからだった。
そして、ロシアはようやく、口を開いた。
「……全部、話してくれて、ありがとう」
その声は低く、そして静かだった。
まるで、濃い霧の中にぽつんと灯るランプのように。
「きっと……それを言うのも、すげぇ怖かったんだろ?」
中国は答えなかった。
ただ、僅かに指先が震えた。
そっと一歩だけ中国に近づく。
「でもな、俺は……」
「そんなお前だから、目が離せなかったんだ」
小さな吐息が落ちた。
「強がって、平気なふりして、
でも本当はずっと痛みに耐えて、
それでも笑って、前に進もうとしてる……」
ロシアの声は少しだけ震えていた。
「そんな奴、放っておけるわけねぇだろ」
その声には怒りも優しさもあった。
何より、真剣だった。
「全部抱え込むな。
せめて、少しは……俺に預けてくれよ」
そう言いながら、ロシアはそっと手を差し出した。
けれど中国に触れはしない。
それは、
“逃げてもいい”という静かな許しでもあった。
「お前が何を背負ってきたか、全部はわからねぇ。
でも、逃げ出したくなった時は、俺のとこに来い」
ロシアの瞳はまっすぐで、どこまでもあたたかかった。
「お前が壊れそうなときは、俺がなおす。
泣きたいときは、俺が黙って隣にいる」
「……だから」
その声が、そっと中国の心に触れた。
「もう一人で抱えるな」
その言葉の中に、強さと弱さが同時に滲んでいた。
ロシアは、ただ黙ってその場に立ち続けていた。
その存在そのものが、今の中国には救いだった。
そして――
中国はようやく、顔を上げた。
その目に浮かんでいたのは、わずかな戸惑いと、涙、そして安心した笑顔だった。
❄️To Be Continued…
コメント
13件
やめてよぉ、、泣いちゃうじゃない、、何この最高(´;ω;`)
何この感動物語!?
ぅおおおおお感動したあああああッッ😭 何食べてたらそんなすげぇ言葉思いつくんだあああああッッ(((