〈8月20日〉
20xx年 6月4日、苺は解散した。
個人活動を続ける人も入れば、俺みたいに活動を辞めた人も居る。
苺に俺は生かされていると散々リスナーに言ってきていた。
だからグループ解散時に活動を引退してもリスナーは覚悟をしていたみたいで悲しい感情をあまり出さずありがとうという言葉を沢山くれた。
俺は2022年に手術を受けリスナーに27歳より先の人生を見れるようになったと伝えたが、実際活動を辞めてみると今まで忙しなく過ぎていた時間が有り得ないほど遅く感じ、今まで当たり前にあった生き甲斐がなくなった反動で終わりたいと思うようになってしまった。
リスナーには申し訳ない気持ちがあるけど思ってしまうことは仕方がない。
そんな気持ちでパソコンとにらめっこしながら手に入れたいものを沢山購入する。
届く日が楽しみだ。
・
〈1週間後〉
ここ3日間置き配が何度か来て玄関にダンボールが積まれていく。
全部届いたことを確認してわくわくしながらダンボールを開封した。
ナイフや太いロープ、コンロと煉炭、塩化カリウムや注射器、怪しい薬物など失敗してもまた新たなことを試せるように思いつく道具を買ってみた。
全て寝室に持ち出してベッドにばら撒く。
これでいつでも死ねると安心した気持ちになりその日はそのまま眠りについた。
・
朝起きると一番にほぼ縁を切ったと言えるあの人に電話をかける。
赤『もしもし、お母さん』
母『久しぶり、どうしたんですか?』
赤『少しペット達を預かって欲しいです』
母『いいですよ、迎えに行きましょうか?』
赤『自分で連れていきます』
相変わらず敬語が飛び交うこの堅苦しい会話が嫌いで直ぐに電話をきる。
ちょこが幸せそうだったことは覚えてるからきっとつーこたぎんのことを幸せにしてくれる。
そう信じて俺は実家へ向かった。
・
〈8月28日〉
ペット達が居なくなったこの家はひどく静かで居心地が悪い。
Twitterを開き成功したであろう人が残した自殺の方法を見て過ごす。
すっかり終わることしか考えられなくなった俺はきっと狂っているのだろう。
でも、もう決めたんだ。
今は生きなくてはいけない理由はない。
俺が死んでも迷惑はかからないのだ。
いつ実行しよう。
・
それから数週間が経った。
色々挑戦してみるも中々成功はしなく地味に苦しむだけ。
いっその事ナイフで首を突き刺そうか。
・
〈別の日〉
ガス会社の人が来た。
料金を払い忘れていたらしい。
もうこの家に長くいることもないだろうからガスを止めてもらった。
・
〈別の日〉
ロープを使ってみると珍しく有り得ないほど苦しかった。
赤『…ぅッ…ぐッ、』
人間は苦しいと無意識に体が動いてしまう生物らしく俺が暴れたことによって床へ落ちてしまった。
赤『…はぁッ…かひっ…はぁっ、』
いつ死ねるのだろうか。
・
桃side
グループが解散し、俺はマルチクリエイターとして歌ったり実況したり実写動画をだしたり色々挑戦しながら活動を続けている。
解散後もメンバーとはちょくちょく連絡を取り合ってたまに会ったりする仲だ。
ただ1人だけグループ最後の通話から声を聞いてない奴がいる。
赤だ。
元々27歳で人生を終わろうとしてた奴だから全く連絡がつかないと流石に怖くなる。
心配しながらも何やかんや5ヶ月が経ってしまった。
俺は作業が終わってから赤の家へ向かった。
・
赤の号室に着きインターホンを鳴らす。
数分後、ドアが開いた。
桃『赤、久しぶり』
赤『ぁ…うん、』
チェーンの隙間から顔を覗かす赤は今までにないほどやせ細っていて目が虚ろだった。
桃『入ってもいい?』
赤『…だめ、』
桃『なんで入っちゃダメなの』
赤『嫌なものは嫌だから』
桃『もうメンバーじゃないから…?』
赤『…ッ』
桃『赤はメンバーじゃなくなったらもう友達としても接してくれない訳?』
赤『そーゆうことじゃ…、』
部屋の中をドアの隙間から見ると、活動中散らかってメンバーにいじられまくった赤の部屋が有り得ないほど綺麗だった。
改めて赤の顔を見ると首元に赤紫の線状な跡が見える。
かなりやばいやつか。
桃『部屋綺麗じゃん』
赤『見ないでよ、』
桃『引っ越す予定とかあんの?』
赤『片付けるのハマってるだけ』
桃『あの赤が?笑』
赤『俺はもう赤じゃないよ。』
赤瀬が思い描き演じた赤は部屋が散らかっていたのだろう。
本当の自分は綺麗好きだったのか、。
はたまた何かを隠すために嘘を着いていて全く違う理由があるのか。
桃『とりあえずチェーン外してくんね?』
桃『傍から見れば俺不審者だから』
赤『やだよ、入ってくるじゃん』
桃『俺は赤が心配なの』
赤『もうメンバーじゃないんだし、俺が居ても居なくても桃くんに迷惑かからないでしょ』
桃『居なくなる気なの?』
赤『ち、ちが』
言ってしまったと言ってるかのような表情で動揺する赤を見て流石に俺も動揺した。
桃『俺は赤が赤をやめても、赤瀬と沙桃として仲良くしたいんよ。赤は違うの?』
赤『…、』
桃『まあ、その返事は今はいい。とりま家入れて、入れてくれないなら俺の友達呼ぶ』
赤『…ぇ』
友達と言うのは俺の幼なじみの精神科医。活動中に赤が心を病んでしまった時、一度頼らせて貰った。
赤『やめてよ、それじゃ、ッ、』
・
赤side
桃くんが家に押しかけてきた。
俺は明日死ぬと言うのに迷惑な奴だ。
桃くんが俺の部屋を見たらきっと俺は死ねなくなる。
それだけは阻止しようと粘るも、精神科医を呼ぶと言い出した。
それじゃあ、本当に死ねなくなる。
赤『…ッ、』
桃『俺は赤のことを守りたいんだよ』
赤『入れてあげるから、友達は呼ばないで』
桃『あぁ、分かった。』
赤『これで裏切ったらお前のこと一生恨むから。』
桃『はいはい』
俺はチェーンを外してドアを開いた。
・
桃side
部屋に入るとやはり綺麗で正直、気味が悪かった。
リビングに着き椅子に座る。
桃『ペット達は?』
赤『実家に居る』
桃『そっか』
桃『飯はちゃんと食ってる?』
赤『…うん』
桃『風呂は?』
赤『そんな、親みたいな質問ばっかしないでよ、』
桃『今の赤には必要なことだろ』
赤『てかもう部屋入ったんだから帰って』
桃『嫌だね』
はぁっとため息を着いてソファーに座る赤。
桃『コンビニでお菓子と新作のラーメン買ってきたから食べよ』
赤『…わかった』
赤がダイニングテーブルの椅子に座ってきた後、俺は買ってきた赤と俺が好きなお菓子とラーメンを取り出した。
俺と赤は下が合うからありがたい。
カップラーメンを作るために立ち上がる。
桃『ケトルはまだ捨ててない?』
赤『うん、』
桃『じゃあ借りるな』
キッチンで水を出そうと蛇口を捻ると水は出てこなかった。
桃『水でないけど払ってないの?』
赤『…あぁ、そうなんだよね、忘れてた』
数年前に払い忘れで水道かガスが止まったって配信のネタにしてたしそこは変わらずなんだな。
部屋が明るいため電気は通っていて安心した。
コンビニで買っておいた水を取り出しケトルに入れる。
桃『コンビニで水買っといて良かった』
桃『1本置いてこっか?』
赤『いや、いいよ…』
どうやって生活する気なのだろうか、ガス代も水道代も払う気無さそうだし。
なんとなく立ちながらスマホをいじっているとお湯が沸けた。
お湯を注いで蓋をする。
赤の方を見るとぼーっとどこかを眺めていた。
前なら1秒たりとも無駄をせずスマホに引っ付いてたのに。
桃『もしかしてスマホ代も払ってないの』
赤『…うん、忘れちゃったから』
桃『だからLINE既読付かなかったのか、』
赤『…ごめんね』
桃『まじで心配したんだぞ。』
桃『俺だけじゃない、最後の放送から一度も連絡つかないって青達もみんな心配してた。』
赤『…そっか、』
桃『もう苺としてのメンバーじゃないけど、友達だと思ってるよみんな。』
桃『俺たちが家族なのは変わらない。』
赤『…、』
ぽろっと赤の頬に涙が伝った。
今日会って初めて涙を見せた。
桃『しんどかったな。』
背中をさすってやると鼻をすすりながら涙を流す。
桃『死のうとしたん、』
赤『…生きる意味なんてないよ』
首元の線ををよく見ると擦れたような痣のようなものだった。
首吊りに失敗したのだろう。
桃『生きる意味がない…か』
桃『俺は赤と明日も明後日も一緒に生きたいけど。』
赤『そんな無責任なこと言わないで。』
桃『ずっと前に、俺がお前を看取るって言ったの覚えてる?』
赤『…うん、』
桃『あれ本気だったから。』
赤『そっか』
あまり響いてなさそうだなと思いながら出来上がったラーメンを開ける。
割り箸で1口食べると思ったより美味かった。
桃『これ美味い、食べてみ』
赤『…』
橋を持つ手が震えている。
ずるッと音がする訳もなくちゅるちゅると効果音が付きそうな食べ方で麺を啜った。
赤『…美味しい』
桃『やっぱ俺ら舌合うわ』
桃『…もう11時か、』
赤『明日予定あるでしょ、帰りなよ』
桃『こんな状態の友達を置いていけませんー』
赤『明日までには帰ってね』
桃『うーん、考えとく。』
赤『…俺寝るから。』
桃『はや』
赤『やることないし、』
桃『俺ここで作業してるわ』
赤『好きにして、』
寝室であろう部屋へ入っていってしまった。
伝えた通り作業をしようと持ってきたノートパソコンを開く。
・
赤side
桃くんが帰っていく気配が全くと言っていいほど無くて寝室に来てしまった。
自殺道具や自傷道具が沢山転がるベットへ寝っ転がる。
いつでも死ねる状況に安心できるこの部屋が好きで一日の殆どをここですごしていた。
いつも通りカッターで腕を切っていく。
夢中になっていると開くはずのない扉が開いた。
・
桃side
作業に集中していたら2時間ほど経っていた。
きっと明日、赤は死ぬ予定なのだろう。
終電が過ぎてしまって帰れないという理由を付けて今日は泊まらせてもらおうと許可を貰いに寝室へ向かう。
軽くノックをしても返事が返ってこなく寝てるのかと思ったが何かあったのかと怖くなったので入らせてもらった。
桃『赤、、?』
赤『ッへ、』
寝室は想像を絶する散らかり具合で本当に驚いた。
よく見ると目を疑うものが沢山。
桃『これ…何に使うの、』
赤『いやッ、そのっ、はっ、はぁっ』
頭を抱え呼吸が不安定になった赤を落ち着かせるため傍に寄り添う。
刃が出っぱなしなカッターをベッドのサイドテーブルに置き、空いた手で赤の背中を摩る。
過呼吸というやつだろうか。
桃『あか、落ち着いて』
赤『はっ、ひゅッ、げほっ、』
桃『大丈夫大丈夫、』
俺は過呼吸について知識がないため、この対応はあっているのかと不安になりながらも赤に声をかけ続けた。
5分ほど経った時、だんだん赤が落ち着いてきてぐったりし始めた。
赤『ひゅー、はぁッ、けほっ、』
背中をとんっとんっと叩いたり、摩ったり、赤が落ち着けるように接する。
桃『落ち着いてきた?』
赤『…うん、』
周りを改めて見るとロープやナイフ、木炭によく分からない沢山の薬などが転がっていて死にますと嫌でも感じる。
桃『赤、死にたい?』
赤『そこで認めても認めなくても桃くんは俺を止めるでしょ』
桃『まあな』
赤『…明日の朝には絶対に出て言ってね』
桃『嫌だね』
赤『そうやって、わがままばっか!』
赤『俺の気持ちフルシカトでよくそんな言葉が出てくるよね』
赤『大体何度も言ってるけどもうメンバーじゃないんだよ桃くんと俺は!』
確かに赤からすれば俺の行動も言葉も逆鱗に触れるだろう。
ただ、1人の友達として、1人の親友として
赤を生かしたい。
桃『赤はいま何に苦しんでんの』
赤『ッ、わかんないよ!わかんないの!』
桃『…!』
何かに手を伸ばしたかと思ったらナイフを首元に当てる。
桃『ッわかった、わかったから。』
桃『それ…置いて、』
赤『…ッ』
ぐっと首に当てる力を強め血が垂れる。
このままだと死んでしまう。
赤が死ぬ、?
桃『赤ッ、だめだ、ッ、』
桃『俺は赤が居ないとダメなんだよ、ッ』
赤『ゔぁッ、!』
〈がちゃ〉
〇『2人とも、!』
赤『…ぇ、?』
桃『あ、お、…』
・
青side
大学終わりにスマホを見ると数ヶ月ぶりに桃くんからLINEがきた。
桃〈赤の家来て〉
突然なお願いに驚きが隠せない。
グループ解散後、僕は活動を辞め1度諦めた教師になるために専門学校へ通っている。
最後の放送後のディスコ、みんな泣いて熱く話し合った。
それからは各自メンバーとしてではなく友達として連絡を取りあっていたが、赤くんだけ誰も連絡がついていなかった。
27歳の活動終了時に自身の人生にも幕を降ろす予定だった彼に解散後もみんな心配してメッセージを送るも既読も付かない。
赤くんが最古の中だったこともあり桃くんは特に心配していた。
そういえば今日赤くんの家行くとか言ってたな。
青〈赤くんと飲んでるの?〉
僕も呼ぶんだからさぞ盛り上がってるのだろう。
コンビニで軽く酒やおつまみを買って数ヶ月ぶりに赤くんの家へ向かった。
家に着いて深呼吸をしてからインターホンを鳴らす。
数分経っても出てくる気配は無い。
酔いつぶれたか…?
青『はぁ、』
ため息をついて何となくドアノブを引くと不意にも空いてしまった。
もう活動してないとはいえなんて不用心なんだ。
青『も~、鍵閉めないと危ないじゃん…って、居ないし』
リビングには誰も居なくて辺りを見渡すと家具以外の物が全くと言っていいほど無いことに気づく。
赤くんの家はいつも散らかっていてそれがどこか心地よかったのになんだか気味が悪い。
呆然としてると別の部屋から微かに声が聞こえた。
急いでドアを開けると、
青『2人とも、!』
ナイフを首に突きつける赤くんとボロボロと泣きながら赤くんの前に座る桃くんが居た。
青『赤くん…、』
赤『お、お、、おれッ、死ぬから』
桃『やめろッ!!ほんとに、ッ』
青『桃くん落ち着いて、』
桃『落ち着けるかよッ!』
青『赤くん、桃くんが壊れちゃうよ。』
青『桃くんずっと赤くんのこと心配してたの。』
青『赤くんを看取りたいってこういう形じゃないと思うなぁッ、』
赤『…ぐすっ、』
少しナイフを首元から離した時、僕が動くより先に桃くんが赤くんを抱きしめていた。
僕はそっとナイフを持ち遠くへ飛ばす。
赤『あッ!だめッ、』
ナイフを取ろうと桃くんの腕の中で暴れる赤くんを見ながら急いで救急車を呼んだ。
こーゆう場合に呼んでいいのか分からないがタクシーで行くのは難しいだろう。
事情を話すとここへ来てくれるとのこと。
電話の内容を察した赤くんがまた暴れ始めた。
赤『ねぇッ!呼ばないって言ったじゃん!』
赤『桃くんの嘘つきッ!!嫌い!』
桃『青は知らなかったんだよ。』
きっと病院に連れていかないと約束でもしたのだろう。
今は約束なんて守ってる暇は無い、赤くんが死んだら元もこうもないのだから。
15分ほど経った時、インターホンが鳴った。
青『こっちです、』
救急隊員の人がストレッチャーを持ちながら赤くんの元へ向かう。
赤『いやぁッ!』
怯えながら逃げようと暴れる赤くんをストレッチャーに拘束するように固定した。
桃『…あか、』
青『桃くんしっかりして、まだ泣いちゃだめ』
2人が壊れてしまわないように、今は僕にできることを全うしよう。
救急隊員の人が桃くんの状態にも察してくれて特別に2人で乗車していいと許可をくれた。
桃くんの手を取って救急者へ乗る。
赤くんは逃げれないと悟ったのか暴れず静かに涙を流すだけ。
無音な車内がなんだか息苦しくてスマホを見る。
まだ誰も抜けてない活動中に使っていたグループへ赤くんが無事だったことを伝え、事情は今度通話した時にでも伝えようと考えていると病院へ着いた。
先『お連れ様はあちらの待合室でお待ちください』
青『わ、かりました』
・
赤side
嘘つき。
桃くんの嘘つき。
死ねないじゃないか。
せっかく終われると思ったのに。
赤『んッ、ゔぅっ!』
動けない。
ベッドに拘束されたままガラガラと移動していると檻の様な場所で拘束を解かれた。
なにここ。
気味が悪くて無意識に出ようと扉をがちゃがちゃと触るもビクともしない。
先『また明日来ますからね。』
赤『ぇッ、出してくださいッ!!』
俺は絶望した。
どれだけ苦しめば報われるのだろうか。
・
桃side
赤が本当に居なくなってしまうと恐怖心に負けて取り乱してしまった。
青が居てくれたからいい方向へ言ったけれど俺一人だったら殺してしまったかもしれない。
今は待合室で赤の帰りを待っているところ。
青『僕が来る前、何があったの?』
桃『…えっと』
青に出会ってからのことを全部正確に話した。
桃『ガスも水道も払ってないわ、ペット達も居ないし、』
桃『あの赤がスマホ代も払ってないとかもう実行する気しか無かったんだよ、ッ』
桃『寝室見たら危ない道具が散らばってるし、!』
青『…ッ』
桃『青が来る少し前、興奮した赤が首元にナイフを持っていった』
桃『そこからは青も分かるだろ…ッ』
青『うん、わかるよ、』
青『しんどかったね、赤くんも桃くんも』
桃くんの精神面が心配、
桃くんが友達や親友とはまた違う感情を抱いてることは薄々感ずいていた。
先『あの、』
2人静かに待っていると赤くんの傍に居た先生が戻ってきた。
桃『赤は、赤は大丈夫なんですか、?』
先『今病室で保護しました。』
青『病室…?入院ですか?』
先『自殺未遂をした方は必ず状態が安定するまで閉鎖病棟に入院させることが決まっているんです。』
桃『安全なんですよ…ね』
青『安全に決まってんじゃん、ッ』
桃『わからないだろ、閉鎖病棟とかいい噂聞かねぇし』
青『今言わないでよ、』
青『すみません、』
先『いいえ、』
先『貴方、お名前は何て言うんですか?』
桃『桃ですけど、』
先『少しお話しましょう。』
桃『…はい』
心のお医者さんだからか桃くんの異常に気付いてくれてお話してくれることになった。
待合室で今度は桃くんの帰りを待っていると黄くんから電話がかかってきた。
黄〈あの、何かありました?〉
解散後、僕と黄くんはシェアハウスを始めた。
最初は乗り気じゃなかったけど黄くんの押しに負けて了承した感じ。
黄〈青ちゃん?〉
青〈あぁ、ごめん。今病院でさ、〉
いままでのことを話すと心配だから迎えに来ると言って電話を切られた。
一応僕の方が歳上なんだけどな。
・
黄『青ちゃん!』
青『ちょっと黄くん、!もうちょっと静かに来なさいよ』
黄『ごめんなさい、桃くんは?』
でましたよ、推し命野郎。
青『今お医者さんと話してる。』
黄『そうですか、赤は入院しちゃったんでしたっけ』
青『そうそう。』
黄『青ちゃん帰っていいですよ、明日も学校でしょ』
青『そうなんだよね、…お願いしちゃおっかな』
黄『桃くんのことは任せてくださいっ』
黄くんに桃くんを託して心配を胸に抱きながらお家へ帰った。
・
赤side
何時間ここにいるのだろう。
時計も窓も無くて何もわからない。
不気味で、怖くて、逃げたくて
ホラーゲームに出てきそう、とか
ここじゃ死ねない、とか
色んな負の感情が頭の中を駆け回る。
赤『うぅッ、はっ、はっ、』
涙が無意識に溢れでて苦しくなった。
先『大丈夫かな〜』
先生らしき人が入ってきて何か薬のようなものを飲まされる。
赤『おえッ、おえっ、』
先『吐かないよ〜落ち着く薬だからね』
いくら嘔吐いても吐けない。
赤『ん゙ぁッ…うぅ…』
胸がざわざわし藻掻いていると眠気が襲ってきて意識が飛んだ。
・
〈2週間後〉
今日は何日なのだろう。
相変わらずこの刑務所のような場所からは出れていない。
腕を引っ掻いて血を出させた時はご丁寧に手当されて、口内を噛みちぎった時はマウスピースを嵌められ、頭を床に叩きつけた時には拘束され3日間は全く動けなかった。
そんなことをしていたのに今は体にダンベルが着いたように重く動かない。
何だかずっと胸がざわざわして、心が痛くて、頭がもやもやする。
そして入院当時と変わらず、いまが何日で何時間なのかわからないことが一番怖くて気持ち悪い。
どうなっちゃうんだろう、俺
・
また別の日、1日1回様子を見に来る先生からここから出ていいと言われた。
この気持ち悪い場所から出れる。
それが嬉しくて重い体を必死に動かして先生の後を着く。
何日ぶりに外の空気を吸ったのだろう。
今までとは違う俺でも良く知っている病室に付き、ベッドへ腰を下ろす。
看『赤さんこれから宜しくお願いします』
赤『いま、何日なんですか、』
看『2月10日ですよ〜』
少なくとも俺は1月にここへ来た。
1ヶ月近くあそこに居たのか。
もう戻りたくない。戻らない。
そう誓い俺は静かに過ごした。
・
10日が経ち、看護師さんから手紙を書いていいと言われたのでもうすぐ誕生日のやつへ手紙を書くことにした。
赤『手紙なんて何日ぶりだろう、』
看『中々書かないですもんね〜、』
あまり記憶に残っていないがあの日桃くんを傷付けてしまったかもしれない、ごめんねとありがとうを書いた後だいすきな彼へお祝いのメッセージを書いた。
看『誰宛ですか?』
赤『桃瀬 ももです。住所…、』
看『病院へ一緒に来てくれた方ですか?』
赤『そうです、!』
看『赤さんの保護者枠で住所を書いてた気がしたのでそちら宛にお手紙出させていただきますね』
赤『ありがとうございます』
・
〈23日〉
桃side
中々開かない郵便ポストをたまたま開くと見たことの無い手紙が入っていた。
迷惑リスナーの仕業かと手に取ると赤が入院している病院からだった。
家に帰ることなくその場で手紙を開くと赤からの手紙だった。
まだ誕生日じゃないけどあの赤が祝ってくれたんだと赤の病状の安定を感じて安心した。
直接ありがとうを伝えたい。
明日、ダメ元で面会に言ってみよ。
・
〈24日〉
赤side
今日は2月の24日桃くん手紙読んでくれたかな。
郵便ポストを開くようなタイプじゃないことを思い出して少し不安になった。
目を見ておめでとうを伝えたかったな。
お昼が過ぎぼーっとしながらベッドに横たわってると看護師さんからシャワーに浴びるよう言われた。
何日ぶりの風呂だろうか。
シャンプーは1人2プッシュまで!と書かれた紙を見て文通り2プッシュで髪を洗った。
・
シャワーを浴び終わりスッキリした後、看護師さんに声をかけられた。
看『赤さーん、面会来てるけどどうする?』
赤『誰ですか、?』
看『うーんとね、桃瀬さんって人』
赤『ももくん…、』
看『どうする?』
赤『会います、!』
看『わかった、着いてきて〜』
・
看護師さんに連れられて面会室と書かれた場所まできた。
ドアを開ける手が震える。
看『大丈夫よ、大丈夫』
看護師さんの言葉を合図にドアを開けた。
桃『赤、』
赤『桃くん…』
桃『久しぶり。』
赤『…久しぶり』
桃『手紙ありがとな、嬉しかった』
赤『桃くん、』
桃『なに?』
赤『お誕生日おめでとう、』
桃『ありがと笑』
そう言って俺の頭を撫でる彼が愛おしくて。
涙が頬を伝って溢れ出た。
桃『どしたどした、』
赤『直接言いたかったッ、おめでとうって…』
赤『来てくれてありがとう…』
桃『いーえ、丁度スケ空いてたから赤に会いたくなってさ』
赤『そっか、』
桃くんと雑談をしているとあっという間に20分経ってしまった。
俺を呼びに看護師さんがくる。
桃『また来てもいい?』
赤『うん、!』
桃『わかった、また来るな』
桃くんと別れると少し心が寂しかった。
・
〈4月24日〉
丸々2ヶ月が経った。
2ヶ月の間に1週間に一度桃くんが面会に来てくれて、檻の中に居た時より充実した暮らしをしている。
看『今日は数人面会に来てるけどどうする〜?』
赤『?、行きます』
ドアを開けるとだいすきな人達が居た
桃『ん、やほ』
青『赤くん!久しぶり!』
黄『赤久しぶり』
橙『久しぶりやな』
赤『みんな、』
橙『紫ーくんに連絡したんやけどお仕事忙しいみたいでこれへんかったんよ』
橙『来たがってたで〜』
久しぶりに皆と会って目を合わせて話せて何だか懐かしい気持ちになった。
桃『もう苺のメンバーじゃないけど、ずっと俺らは友達だと思ってるから。』
黄『そうですよ!僕らは家族です』
橙『赤が俺に言ってくれた言葉そのまま返すで。生きててくれてありがとうな。』
赤『…うんッ』
涙が止まらない。
最近は酷く涙脆いな。
みんなと雑談をして解散した後おれは早くここから出たいと医師に相談をした。
赤『友達と水族館へ行く約束をしたんです、友達と面会後も会いたいです、。』
先『赤さんの病状もかなり安定して来ましたし、考えてみますね。』
赤『はい、お願いします…』
・
〈5月20日〉
相変わらず週1で誰かと会って夜も早寝早起きをして過ごしている。
たまに死にたくなる時もあるけど今はどうでも良く誰に会えるだろうと楽しみな瞬間の方が大きい。
このことも先生に話した。
こんこんっとノック音が聞こえた後、先生が入ってきた。
先『赤さん退院してもいいですよ』
意外にもあっさり告げられた待っていた言葉。
明後日の13時に桃くんが迎えに来てくれるそう。
迷惑かけてばかりだなって思いながらその役割を引き受けてくれたことを嬉しく思えた。
・
〈5月23日〉
遂に退院の日、そわそわしながら支度をする。
先生から1ヶ月分の薬を貰った。
月に一度通院しなくては行けないらしい。
こんこんっとノック音が聞こえ返事をすると桃くんが顔を出した。
赤『桃くん、』
桃『おまたせ』
赤『ありがとう、色々』
桃『んーん、気にすんな』
桃『いける?』
赤『いける!』
・
何日ぶりの外だろうか。
空気が陽の光が気持ちいい。
今こうして自由に生きれてることが有難く感じる。
檻の中とは大違い。
桃『車乗って』
赤『え、運転できたの?』
桃『免許また取った』
赤『かっこいー』
桃『そうか?笑』
・
走行中どこへ向かうのかと思っていたら俺の家ではなく桃くんの家に着いた。
赤『え、桃くんの家?』
桃『俺が2ヶ月間面倒見るのを条件に退院したんだけど聞かされてない感じ?』
赤『そんな、悪いよ、忙しいでしょ』
桃『まあ基本家で作業だしレコーディングの時は黄に来てもらおうかなって』
桃『気にすんな、今はゆっくり好きなことしろって』
赤『…ありがとう』
桃『おう』
・
桃くんの家に着き部屋に上がらせてもらう。
2人でソファーに座って一息ついた。
桃『薬貰ったでしょ、貸して?』
赤『あぁ、うん』
桃『ありがと、夜に飲む分渡すな』
赤『ありがとう、』
桃『つーこたぎんはどうする?』
赤『あー、もう少し落ち着いたら迎えにいくよ』
桃『ん、了解』
桃『はい、これ』
赤『え?』
渡されたのは俺が使っていたスマホ。
ボタンを押すと電源が着いた。
赤『なんで…』
桃『桃ちゃんが魔法かけてあげた〜』
きっとスマホ代を俺に変わり払い続けてくれてたのだろう。
赤『ありがとう、本当に』
赤『返すねお金』
桃『いいよ、ゆっくりで』
桃『明日、5人全員空いてるから外食しようってなってるんだけど赤行けそう?』
赤『…行っていいの?』
桃『行っていいのって、赤を祝うためになんだから赤が居ないとだめだろ笑』
桃『何食べたい?』
赤『うーん、くら寿司かな』
赤『ガチャポンやりたい』
桃『相変わらずやな〜』
桃『沢山回せるように沢山食うわ』
赤『俺も食べる』
桃『食え食え』
・
〈5月24日〉
昨日は薬を飲んでから桃くんの家のソファーで横になるとすぐ眠気が来て眠りについた。
桃『おはよ』
赤『おはよ…』
桃『誕生日おめでとう』
赤『ありがとう』
桃『シャワー浴びる?』
赤『浴びさせてもらおうかな』
桃『うい』
・
なんやかんや夕方になりゆっくり支度を始めた。
赤『髪の毛切りたかったな、』
入院中に一度だけ切ってそれからは伸びっぱなしで前髪だけ昨日の夜自分好みに切った。
桃『結んでしてあげよっか?』
赤『いいの?』
桃『俺下手だけど多分』
赤『大丈夫、やってほしい』
桃『こっちきて』
桃くんにハーフアップにしてもらって軽くアイロンもしてもらった。
着替えてから桃くんの支度が終わるまで猫ちゃん達と戯れる。
桃『おまたせ、行けそう?』
赤『うん、いける!』
桃くんの車に乗って集合場所へ向かった。
・
桃side
誕生日な赤を連れ出しくら寿司へ向かう。
朝から元気はあまりない。
きっと赤にとって誕生日はまだ重く暗いものなのだろう。
活動をやっていた頃はりすなーや俺たちから盛大に祝われることを楽しみに誕生日を迎えていたが今は祝ってくれるリスナーは居ない。
正確にはネットを開けば居るが赤はそのネットを開いていないから赤にとっては居ないに等しい。
桃『赤、いまスマホ見れる?』
走行しながら赤に声をかけた。
赤『…うん、』
桃『Twitter開いて自分のサブ垢開いてみ』
俺の言う通りにゆっくりスマホを開いてTwitterを見る赤。
数十秒経ったあとスマホに水滴が垂れた。
桃『リスナーにとって赤はまだ生きてる。この大事な日を赤に届くか分からない状況でもお祝いしたくてツイートしてんだよ』
赤『…ぐすっ、』
桃『今日、夜放送するんだけど赤が受け取ってたって伝えてもいい?』
赤『…うんッ、お願い、』
桃『わかった』
桃『もうすぐ着くから涙拭いて』
目的地について車を降りると青と黄が外で待っていてくれた。
青『赤くん!お誕生日おめでとう!』
黄『赤!誕生日おめでと』
赤『ありがとう…!』
桃『紫橙は?』
青『もう中にいるよ~』
2人に連れられ店内に入ると先に席を予約してくれてたみたいで丁度俺たちの番になった。
席につき青と俺で赤を挟んで座った。
『改めて、誕生日おめでとう!』
みんなで声を合わせて赤を祝福する。
涙を流しながら『ありがとう』と伝えてくれた。
お寿司を沢山食べて沢山ガチャを回して気がつけば19時で、各自予定が入ってる為解散した。
赤『みんな忙しいのに本当にありがとう』
紫『いえいえ!』
橙『喜んでもらえてよかったわ~』
青『また遊ぼうね!』
黄『そうですね、赤また会いましょ!』
赤『うん!またね!』
桃『じゃあ、帰るか』
赤『そうだね、放送何時からだっけ?』
桃『21時』
赤『サムネ作ってあるの?』
桃『それが…』
赤『それが?』
桃『まだでーーーす!』
赤『おい!笑、作っとけよそこは!笑』
今日久しぶりに赤の笑った顔を見た気がする。メンバーと会うのは楽しく嬉しいのだろう。
・
家に着き放送の準備を済ませ21時になるまで暇を潰そうとリビングへ向かう。
赤『準備できた?』
桃『おう、完璧』
赤『ここにつーこたぎん連れてきたらひなちゃん達と喧嘩しちゃうかな、』
桃『1つ部屋余ってるしそこで過ごさせたら?ついでに赤の部屋にしちゃっていいし』
赤『いいの?』
桃『べつにいいよ』
赤『じゃあそうしよっかな』
退院時より明るくなった赤を見て俺はダメ元で提案をした。
赤『…いいよ』
・
21時になり放送をつける。
💬わこさと!
挨拶が流れる中15分ほど流したBGMをだんだん小さくするいつもの流れ。
桃『こんばんは~』
💬こんばんは!
・
桃『今日は久しぶりにメンバーと飯食いに行ったよ』
💬赤くんの誕生日会ですか?
桃『そう!赤の誕生日だからね』
赤の名前を出した瞬間コメント欄が少し遅くなり何事かと思ったが きっと俺のリスナーが赤りすを呼んだのだろう、数十秒後には赤色が入ったアイコンのコメントが増えてきて、リスナーの暖かさと絆の深さに安心した。
桃『赤がガチャ回したいって言うからめっちゃ食べた~』
桃『腹キツすぎる笑』
コメント欄が和んだ後、隣で緊張してる奴に目を合わせた。
桃『そんな、俺に死ぬほど食べさせた張本人が、隣にいます!』
💬『え、?』
💬『嘘でしょ( ; ; )』
赤色のアイコンが一気に増える。
少し焦らした後、赤を呼んだ。
桃『赤さん?』
赤『…ッはい』
💬『赤くん!』
💬『声聞きたかった、』
💬『お誕生日おめでとう』
俺のりすなーは気を使ってくれたのかコメ欄はほぼ赤色で埋め尽くされていた。
数十秒そんなコメント欄を眺めると赤の頬にぽたぽたと静かに涙が伝う。
桃『赤緊張しすぎー笑』
赤『ごめ、っ笑』
赤『…みんな久しぶり。』
赤『俺、活動辞めたのに、みんな祝ってくれてありがとう。』
赤『ちゃんと見てたよ。君達のツイート届いてた。』
💬『良かったです。』
💬『来年もお祝いしてもいいですか?』
赤『来年も…ッ、お祝いしてくれたら嬉しい、な、ッ』
泣きすぎて途切れ途切れだが頑張って話す赤を眺め俺も泣きそうになった。
10分ほど話した後、自分のリスナーに別れを告げてリビングへ戻って行った。
桃『まあ来年はこうやってゲスト出演するかわからんけど、届いてたかどうか俺がリスナーには伝えてあげる』
💬『ありがとうございます!』
桃『じゃあ、今からゲームやろうかな~』
・
配信が終わりリビングへ戻ると赤がソファーで寝てたからそっと毛布をかける。
産まれてきてくれて
今日を生きてくれて
ありがとう。
来年も再来年もお祝いさせてな。
俺がお前をじぃちゃんになった時、看取るから。
end
コメント
3件
投稿ありがとうございます(՞ ܸ. .ܸ՞)"今回もすごく好きでした。 リクエストが可能であれば橙赤の赤くん病み系?が見たいです🥲
ぴゃさんの作品ほんとに、ほんっっっっっとうに誰のどの作品よりも 一番大好きです!!!!!!今回も神でした!いつもありがとうございます!
ほんっとに好きです😔💕 もう好きすぎて泣いちゃいました😭💞