ー遠い記憶ー
「付き人になっても…よい…。」
そんな彼の急な発言で、英雄は混乱した。ついさっきまで見下されているかのような態度を取られていたのに、なぜ甘えるような仕草をするのだろうか。
「なぜ…急に?」
「嫌なら別によい…突然すまなかったな。」
しょんぼりと項垂れて、いかにも悲しそうな表情をされると、流石に真っ向から断る訳にもいかない。それに、国を追われ、行く宛のない英雄にとっては、食べ物も寝るところも全て揃っているこの宮殿にとどまれるのは、嬉しいことでもある。
(しばらく世話になるのも、悪くないかもしれないな。)
「あの、やっぱりここに残ってもいいでしょうか。もし、あなたがよかったらの話ですが…」
エクスがそういうと、イブラヒムはぱっと目を輝かせて嬉しそうにエクスの顔を覗き込んだ。
「本当か?!嘘でないな?1人では寂しかったのだ。お前がいれば、少しは楽しみが増えるかもしれぬ!…それに…もう、1人は嫌だ…」
イブラヒムは安心したのか、ぽろぽろと涙を流していた。
英雄はかつて、どこかでこの光景を見た気がしてならなかった。
(遠い記憶だ。何だったのか…思い出せそうにない。でも、どこかで…)
心に何かが引っ掛かり、英雄は戸惑った。この人が泣いている姿を、どこかで見たことがある。曖昧な記憶のなか、ただ、懐かしい感情だけが込み上げてきた。
この人を、守りたい。
気がつくと英雄は、泣いている彼を抱きしめていた。自分でも、なぜこうしたのかわからないが、彼が愛おしく、懐かしく感じたのは確かだった。
急に抱きついてきた英雄の肩に顔をうずめ、イブラヒムは安心したかのように目を閉じた。
コメント
4件
エクス×イブなかなかないから助かる
最高ですね!
はつこめ失礼します!