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羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し

1
【短歌】
人混みでたった一人を見つけたら世界のすべて君だけになる
【短歌をテーマにした物語】
駅のホームは、いつも人でいっぱいだった。
朝の七時四十分。
電車を待つ人。
急いで階段を上る人。
スマートフォンを見ながら歩く人。
誰もがそれぞれの目的地へ向かっている。
私も、その中の一人だった。
「……眠い」
小さく呟きながら、電車が来る方向を眺める。
いつもの朝。
いつもの駅。
いつもの時間。
特別なことなんて、何も起こらない。
そう思っていた。
電車が到着する。
人が一斉に動き出した。
その瞬間だった。
「あ……」
人混みの向こうに、男の子がいた。
制服。
黒い鞄。
少し長めの髪。
彼は人の流れに逆らうことなく、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
ただ、それだけだった。
知らない人。
話したこともない。
名前すら知らない。
なのに。
なぜか、目が離せなかった。
周りには、たくさんの人がいる。
何十人。
何百人。
なのに。
私には彼だけが、妙にはっきり見えた。
電車がホームへ入ってくる。
風が吹く。
人が動く。
声が聞こえる。
電車の音が響く。
それなのに。
その一瞬だけ、世界が静かになったような気がした。
彼と目が合った。
ほんの一秒。
彼は少し驚いたように目を瞬かせた。
そして、何事もなかったように視線を逸らす。
それだけだった。
*
学校に着いても。
授業を受けていても。
昼休みになっても。
私は朝のことを思い出していた。
――なんだったんだろう。
名前も知らない。
どこのクラスかも知らない。
そもそも、同じ学校の生徒なのかすら分からない。
なのに。
あの人の顔だけは、はっきり覚えていた。
「どうしたの?」
友達に声をかけられる。
「え?」
「ぼーっとしてるけど」
「何でもないよ」
そう答えながら、窓の外を見る。
もしかしたら。
また会えるかもしれない。
そんなことを考えてしまった。
*
次の日。
私は少しだけ早く家を出た。
別に、彼に会いたいわけじゃない。
たまたま早く起きただけ。
そう自分に言い聞かせる。
駅に着く。
昨日と同じ場所に立つ。
人が集まってくる。
けれど。
彼はいない。
「……そりゃ、そうだよね」
私は小さく笑った。
昨日会ったことだって偶然なのだ。
同じ時間に来るとは限らない。
同じ電車に乗るとも限らない。
もう会えない可能性だってある。
そう思ったら。
少しだけ寂しかった。
*
三日目。
四日目。
一週間。
彼は現れなかった。
いつの間にか私は、駅に着くたびに人混みを見渡すようになっていた。
赤い鞄。
青い傘。
黒い制服。
白いイヤホン。
違う。
また違う。
今日もいない。
そんな日々が続いた。
そして。
もう忘れようと思った、その朝。
「あ……」
いた。
人混みの向こう。
昨日まで探していた、その人が。
心臓が大きく跳ねる。
見つけた。
ただそれだけなのに。
嬉しくて仕方がなかった。
彼も私に気づいたらしい。
少し驚いたあと。
小さく笑った。
「……おはよう」
声をかけられた。
「お、おはよう」
それだけ。
それだけなのに。
胸の奥が温かくなる。
「この前もいたよね?」
「……覚えてたの?」
「うん」
彼は笑う。
「俺も、なんとなく覚えてた」
その言葉だけで。
朝の景色が、昨日までとは違って見えた。
*
それから。
私たちは駅で会うたびに挨拶するようになった。
「おはよう」
「今日早いね」
「眠そう」
「そっちもね」
少しずつ会話が増えていった。
名前も知った。
クラスも知った。
好きな音楽も知った。
そして。
いつの間にか、駅で彼を見つけることが私の朝の楽しみになっていた。
ある朝。
いつものように人混みの中から彼を探す。
すると。
向こうもこちらを見ていた。
目が合う。
彼が笑う。
私も笑った。
最初の日と同じ、人でいっぱいの駅。
たくさんの人が行き交っている。
電車の音も。
話し声も。
足音も。
何も変わっていない。
それなのに。
私の世界だけは、すっかり変わってしまった。
最初は。
ただ目に入っただけだった。
けれど今は。
人混みの中で彼を探すことが、当たり前になっている。
今日もいる。
よかった。
そんな小さな安心が。
私にとって、大切な一日の始まりになっていた。
きっと恋は。
特別な場所で始まるとは限らない。
いつもの駅。
いつもの朝。
いつもの人混み。
そんな何気ない場所で。
たった一人を見つけた瞬間に。
世界の見え方が変わることもある。
そして今日も。
私は人混みの中から、君を探している。
コメント
1件
美月ゆめかだよ〜!!🌸 今回のエピソード、めっちゃエモすぎてもう胸がきゅんきゅん止まらんかった😭💕 短歌から始まる構成がまずオシャレで、駅のホームっていう何気ない日常のワンシーンが、たった一人を見つけた瞬間に特別な世界に変わる感じがすごく丁寧に描かれてて、読んでるこっちまでドキドキしちゃった!🥺 何日も探して会えなくて、もう忘れようと思った朝にまた出会うところ、マジで良すぎた…「おはよう」ってただそれだけなのに、世界が変わって見えるの、分かりすぎる! この作品、青春のエッセンスがぎゅっと詰まってて最高でした💫✨