テラーノベル
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シャワーを浴び、ルームウェアに着替えてお弁当の鶏そぼろご飯を頬張りながら、小さく息を吐く。
伊吹と燎子はなんだか不穏な雰囲気に見えた。
燎子はいったいなにがしたいんだろう。いろいろなことが複雑になってきて、やれやれと息を吐いた。 モニターも参加しての会議まで、あと2週間。
ほぼそこで決着がつくと言っても過言ではない。だとすれば、このマンションで過ごすのもあと2週間だ。
そう思うと鼻の奥がツンとしてくる。何度も抱かれた思い出が、この身体に染みついている。
私がこの部屋を出て行ったら、篤人はこの部屋で他の人を抱くのかな。
そう考えただけで、心がずんと重くなる。それをどうにかできることでもない。このほのかな体の疼きを抱えて生きていくだけ。愛した記憶を心の中できれいな額に飾るだけ。
食事もあまり進まず、半分くらい食べたところで片付けようとキッチンに立つ。
コップを洗おうとすると玄関から物音がした。ぱたぱたと廊下に出ると、篤人がちょうど靴を脱いでいるところだった。
「おかえりなさい、早かったね」
「あぁ、早めに切り上げてきた」
話もしたかったからという篤人が、私の額に優しくキスを落とす。
ほんの少し香るアルコール。私のために早く帰ってきてくれたの? 嬉しくて思わず頬が緩んだ。
「シャワー浴びてくる」
「うん」
そのままシャワールームに連れ込まれるのを期待した自分が、ちょっと恥ずかしい。 残りの2週間、いやっていうほど抱きつぶされたい。体中から湧き上がる疼きを抑えられず、ベッドに突っ伏してスマホをいじる。
無料動画サイトの動画を特に目的もなく見ていると、シャンプーのいい匂いをまとった篤人が、すっと私の横に並んで寝そべって、スマホをのぞきこむ。
「こういうの好きなの?」
「現実逃避したいときは、よく見るよ」
「逃げたいことでもあった?」
スマホをのぞきこんでいた視線がこちらにすっと向く。吸い込まれそうなその瞳。私はサイドテーブルにスマホを置いて、ルームウェアを脱ぎ始めた。
「ちょ……花音?」
彼に背を向けて、ルームウェアのトップスを脱ぎ、パンツを脱いで下着姿になってからそっと振り向く。目をまん丸くした篤人が私の身体を凝視する。
そんなことはおかまいなく、私は驚いている彼に唇を寄せた。
「え、待っ……」
言いかけた彼の唇をふさぐ。総レースの花柄のキャミソールに、お揃いの柄のTバック。胸の先端が、透けて彼には見えただろう。こんなに自分に下心があるなんて思っていなかった。
抱いてもらうためにランジェリーをつけるなんて初めてで、心臓がはじけそうになる。 少し刺激が強めのランジェリー。篤人が喜んでくれたらうれしいと思ってデパートで買った。深くなったキスに、少しは気に入ってくれたのかなと思う。
絡みつくようにキスをして、すっと体を離して彼を見つめる。
「ねぇ、花音。気持ちはすごく嬉しいんだけど……」
そう篤人がすっと私の肩に手を置く。
「……うん」
「とりあえず、話ししよ? これ着て? 襲いたくなる」
篤人は脱ぎ捨てた私のルームウェアをそっと差し出した。
「……ごめん、なさい」
「大丈夫。でも話が終わったら、しよ?」
ちゅっとこめかみにキスされて、小さく頷く。私はルームウェアに袖を通してベッドの縁に腰掛けた篤人の隣に座った。
「美濃さんのことなんだけど」
「……」
「あからさまに、俺のこと誘ってきた。食事行きましょうとか、飲みに行こうとか」
「……」
直球すぎてびっくりしたと、篤人は言う。
「もちろん、ハッキリ断ったよ」
すっと私の髪の毛を撫でる手は、すごく優しくて勘違いしそうになる。私は気になっていたことを口にした。
「篤人が燎子に聞きたいことってなんだったの?」
「ああ。実は社外秘の機密情報を、美濃さんがパソコンで閲覧できるかどうか、話しながら探ってたんだ」
「えっ!? それって……まさか」
「これ見て」 篤人がタブレットを持ってきて起動する。
画面をのぞきこむとライバル会社である|BOM《ボム》社のラインナップのページが画面いっぱいに広がっていた。
「うそ……なに、これ」
ほぼいま進めている私たちの商品とそっくりの物がバンッと画面を埋め尽くしている。
新発売になったというその商品の詳細を見ていくと、全く同じだということに気付いて言葉を失った。
「これだけじゃない、ここ数カ月間でうちの商品に似たものが次々と商品化されているんだ」
これとか、これとか。と篤人が見せてくれるものを食い入るように見つめた。
どれも自社オリジナル商品であるが、デティールが少しいじってあるだけで、そっくり。これは明らかなパクリだ。
「俺は、風見さんと美濃さん、2人とも怪しいと思ってる」
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