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私は急いでバッグの中身を調べた。アキラからの手紙の他には、女性が使っていたスマートフォンと、古びたキーホルダーが入っていた。スマートフォンにはロックがかかっていたが、キーホルダーには「M.T.」というイニシャルと、小さなペンギンのチャームが付いていた。
乾いた泥の痕跡は、彼女が嘘をついていたことを証明していた。私はすぐに、現場に残されていた手帳の切れ端と、彼女が残したバッグの情報を元に、彼女の身元、高木マユの行方を追跡し始めた。
手がかりはわずかだったが、私は製薬工場周辺の聞き込みと、手帳の暗号めいた数字の解読を進めた。その結果、数字は製薬工場が不正に廃棄していた化学物質のロット番号であり、マユはその違法行為に関与していた人物であることが判明した。兄のアキラは、その決定的な証拠を掴んでいたのだ。
数日が経ち、私はついにマユの潜伏先を突き止めた。それは、都会の片隅にある、ひっそりとした古いアパートの一室だった。
私はドアをノックしたが、返事はない。鍵は開いていた。警戒しながら中に入ると、部屋はひどく荒らされており、争った形跡があった。そして、部屋の中央、血の跡が残る床に、アキラの「灰色の手帳」が落ちていた。
しかし、マユの姿はどこにもない。
手帳を拾い上げると、そこには私が見た切れ端と同じ内容──「犯人は、弟のマユ」──が記されていたが、最後の数行が破り取られていた。何かがおかしい。
私はもう一度、残された証拠を注意深く見直した。アキラの手紙、マユのスマホ、そしてキーホルダー。マユのスマホのロック画面に映る、兄と楽しそうに笑うマユの写真を見たとき、私はすべてのピースが繋がったような気がした。
私は急いで警察に連絡し、すべてを説明した。そして、アキラの手帳の最後のページに書かれていた「弟のマユ」という記述が、アキラなりのメッセージだったことに気づいた。アキラは、自分を追っていた真の犯人を示す決定的な証拠を、マユに託そうとしていたのだ。
真犯人は、製薬工場を裏で操っていた黒幕であり、マユは兄の意思を継ぎ、その人物と接触しようとしていた最中に襲われたのだ。
事件は解決の方向へと進んだが、マユの行方は依然として不明だった。彼女が残したキーホルダーのペンギンは、彼女が密かに抱いていた希望の象徴のように、私の手のひらで冷たく光っていた。
この灰色の手帳が示す真実を完全に解明し、消えた二人を見つけ出すために、私の追跡はまだ終わらない。