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「寒いんだから、きちんと家の前まで送って行ってあげなさい」
「……は?俺ですか?」
「当たり前だろう。ここは駅から遠い、お前は彼女を一人で帰らせるつもりか?」
「待って待って、部長が連れ出したんでしょ。それに、俺だって一度戻らないと」
坪井が手にしていたカバンを「荷物を貸せ」と言って取り上げ、高柳は中を勝手に探る。
「ちょっと部長」
「これくらいか、戻って承認しておく。あとはもう特に今日やらなければいけないことはないだろう」
中からクリアファイルを数枚取り出して、あとは用無しとばかりに坪井にカバンを付き返す。
「や、そうですけど……車は」
坪井は少し離れた場所に停めてある白い車を指さした。
「無地の車を使ってるだろう、今日は。乗って帰ればいい、どこへ寄ったとしても誰も何も言わない」
「……見られて困るとこには寄りませんけど」
「まあどちらでも構わない、早くしろ」
真衣香は、二人のやりとりをしばらく見つめたあと。
何となく座ったままでいることに居心地の悪さを感じ、急いで車から降りた。
そして勢いよく頭を下げて言う。
「あ、あの!私は大丈夫です、ここがどこなのかよくわかっていませんが、タクシーでも探して帰りますので」
すぐ隣に立つ坪井を視界に入れないように意識しながら必死に言った。
「この辺タクシー走ってないし……、駅まででも送ってもいい? ごめん、俺と二人だと嫌だろうけど」
真衣香は聞こえてきた声の方に目を向けることができない。
(嫌なのは、坪井くんの方だって、一緒じゃない)
どんな顔をして坪井を見ればいいのかが、わからない。
「では、俺はこれで」
「た、高柳部長……!ま、待ってください」
呼びかけるが、真衣香に応えることはなく。
颯爽と高柳のブルーの車は、発進し見えなくなってしまった。
(え……、嘘、高柳部長、嘘……)
呆然とするしかない。
やんわりと諭されたが、まさかその後すぐにこんな状況に置き去りにされるとは思わなかった。やはり優しいと言い切ってしまうには早かったのか。
「ひどい……、スパルタすぎます高柳部長」
もう何も見えない方角を眺めながら真衣香は呟いた。