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アラン殿下の嵐のような訪問への対応を終えて、私とエルネストは部屋へと戻った。


ドアを閉めた途端、エルネストが被っていたかつらを床に叩きつけた。


「なんで男同士であんなことされなきゃならないんだよ!」


案の定、随分と荒れている。あんなこととは、もちろん、手の甲に口付けられたことだろう。


あの瞬間、なぜか背景に真っ赤な薔薇が見えた気がしたが、美形オーラに当てられたせいで頭がおかしくなっていたのだろう。


「まあまあ、手の甲で済んだんだからいいじゃないの。そんなこと言ったら、まさか男だと思わずにキスしちゃったアラン殿下も可哀想だわ」


本当に、もしバレたらタダでは済まなそうだ。私はぶるりと震えながら、絶対にエルネストの正体を隠し通そうと決意を新たにした。


「それにしても、殿下からだいぶ気に入られていたけど、これからどうするの?」


「はぁ……もうあんな目に遭うのは御免だ……。次からは絶対近づかせないように冷たくあしらってやる」


可哀想に、少し涙目になっている。

私は美少年が瞳を潤ませる姿に不覚にもときめく胸をそっと押さえた。


「さっきの話だけど、護衛騎士なんて来られても困るよな。せっかくレティシアが侍女になってくれて安心してたのに」


「確かに困ったことになったわね……。ずっと張り付いていられたら色々やりにくいし、見破られでもしたらと思うと怖いわ」


こうなったら、やる気のないダラけた騎士や、目と耳の悪い老いぼれ騎士が来ることを願うばかりだが、さすがにそんな本末転倒なことはないだろう。


「……まあ、断るのはまず無理だから、なんとかバレないように誤魔化すしかないか……。さすがに風呂とか寝る時まで部屋に入ってくることはないだろうから、俺の追放計画を立てるならその時だな」


「え、私、エルネストと一緒にお風呂にまで入らないといけないの……? さすがにそれはちょっと……」


「なっ、風呂の中までずっと引っ付いてる訳ないだろ! アンナさんの時だって、脱衣場に着替えを置いてもらって、後は廊下で待っててもらってたから。いくら騎士でも、脱衣場には入らないだろうから、そこでなら聖女じゃなくエルネストとして話せると思ったんだよ」


「あ、そういうことね……」


勘違いして、うっかりおかしなことを想像してしまった。エルネストも珍しく慌てている。


……確かに、入浴や就寝の時間に話すしかなさそうだ。幸い、私とエルネストの部屋は続き部屋になっているので行き来しやすい。


「ま、詳しいことは実際に護衛騎士が来てから考えよう」


「そうね、それがいいわ」



◇◇◇



そして数日後。ついに王宮から護衛騎士がやって来た。


「エレーヌ様、レティシア殿、本日から聖女様付きの護衛騎士を拝命したクロード・デュランと申します。身命を賭してお守りする覚悟ですので、常に侍ることをお許しください」


黒色の制服に身を包んだ護衛騎士のクロード様が、生真面目な口調で挨拶する。


引き締まった体躯に、輝くような銀髪、深い藍色の瞳が目を引く美丈夫だった。


あのアラン殿下の手配なので、同じようなチャラ……気さくなタイプの騎士が来るかもしれないと思っていたが、真反対の性格に見える。


「クロードですね。分かりました、許可します。……あなたは、王宮から毎日通ってくださるの?」


「その予定だったのですが、それでは護衛に不十分かと思いましたので、突然ですが私も神殿に住まわせていただくことにしました。聖女様のお部屋に近い場所に居室を用意してもらっています」


まさかの神殿住み込みですか。どおりで朝から扉の外が騒がしいと思った。きっとクロードの部屋の準備をしていたのだろう。


「そうなのですね…………はぁ」


エルネストが思わず溜め息を吐く。いや、気持ちは分かるけど隠しきりなさいよ。


それにしても、通いの予定だったのを住み込みに変えるなんて、お飾りではなく、真剣に職務を果たそうとしているのだろう。


こちらとしては面倒ではあるが、真面目な性格は好感が持てる。


「ごめんなさい、私なんかのために申し訳ないと思って、つい溜め息が……。今日はあなたと打ち解けたいと思って、お茶を準備しました」


「クロード様、こちらにお掛けください」


「ありがとうございます」


私が椅子を勧めると、クロード様はお礼を言って席についてくださった。


私は手早く紅茶の準備をしてお出しする。クロード様の好みが分からないので、今日は癖のない味わいで人気の茶葉にした。


「あ、いつもと違う香り」


「爽やかな香りで、後味もいいですね。美味しい」


エルネストが一口飲んだ後、クロード様も紅茶の香りを確かめてカップを傾ける。


その仕草がとても優雅で、おそらくどこかの貴族の出なのだろうと思わせた。


「せっかくだから、レティシアも一緒に飲みましょう。クロードもいいですか?」


「もちろん。侍女殿ともお話しできればありがたいです」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして……」


そうして私も席につき、会話に加わることになった。


「……クロード様は、どこかの貴族の方ですか? 所作がとても洗練されていると思いましたので……」


「ああ、私はデュラン侯爵家の三男なのです。近衛騎士団に所属していたところを、アラン殿下より聖女様付きの護衛騎士に任命していただきました」


「まあ、そうだったのですね。実は私も伯爵家の出なのですが、お恥ずかしながら家の事情で社交界にも出ておらず、侯爵家の方だとは存じ上げませんでした」


「いえ、私も三男ですし、社交とは縁がありませんでしたから」


クロード様が言うには、十五歳で騎士団に入られてから八年間ずっと仕事ばかりしていたそうだ。


長期休暇もほとんど取らず、たまの休みも剣の稽古に明け暮れているらしい。根っからの真面目人間のようだ。


「クロードは、奥様や恋人はいないのですか?」


「いえ、こんな人間ですからずっと独身ですし、婚約者も恋人もおりません。家を継ぐ予定もありませんので、このまま独身で通してもよいかと考えているくらいです」


なんと、こんな男前なのに特定の女性はいないらしい。


「それでは、色々なご令嬢からおモテになって大変ですね」


「いえ、私の剣技を気に入って見学してくださる方や、体調を心配して差し入れをくださる方はいらっしゃいますが、ご令嬢から人気があるという訳ではありません」


「……まあ、そうなんですね〜……」


いやいや、完全にモテているだろう。

エルネストも、「こいつ本気で言ってるのか?」みたいな顔をしている。


そう、きっと本気で言っているのだろう。どうやら、恋愛については相当な鈍感男らしい。このまま私たちの計画に対しても、その鈍感さを遺憾なく発揮してほしいものである。


「……あら、聖女様、そろそろお時間が……」


「あ、本当ですね。クロード、次の予定があるので、お茶会はお開きにしましょう。あなたのことが色々知れてよかったです」


「こちらこそ、貴重なお時間をありがとうございました。それでは、職務に戻らせていただきます」


クロード様はそう言って立ち上がると、騎士の礼をして、通路との出入り口の扉の横に控えた。


私とエルネストは、クロードに見えないように口をパクパクと開け、声を出さずに会話した。


(ま、じ、め、す、ぎ)


(ど、ん、か、ん、す、ぎ)


先ほどのお茶会で分かったクロード様の性格である。

生真面目で鈍感。


これがどんな風に働くか分からないが、これからの仕事ぶりで見極めようと、私は気合いを入れたのだった。

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