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「いや、まぁ、男に乳首はいらないと思うけどね」
グラスにわずかに残っていた酒を飲み干しそう呟くと、こちらの会話に耳を傾けていたのか否か。数席離れた場所で今日の公演の内容だのグループの未来だの、熱く語っていた勇斗の視線がこちらに向けられる、と同時に
「はぁ!?仁人おまっ、何言ってっ、、いる!!いるだろ乳首!!!」
個室とはいえ周囲には他の客がいる事も、目の前にはメンバーやスタッフさん達が居ることもお構い無しに、まるで漫才のフリのような台詞を吐く、というより叫ぶ勇斗が相当出来上がっているということは誰に聞かずとも明白である。
こんな状態になった勇斗を見て「元気があってええな」とけらけらと笑う太智。
いや、元気とかそういう問題じゃないだろ。
男性の乳首が必要だとか不要だとか、はたまた人間の不要な部分だとか、身体の謎の雑学なんて、数分前に居酒屋に備え付けのテレビで流れていた漫才を観るまで、関心すら寄せたことがなかった。
“男性の乳首には機能がないから必要ない。”
医学的な根拠だとか人類の進化の歴史だとか難しいことはよく分からないがまあ、この理屈は通っていると思う。
お笑いタレントなら仕事柄裸体になったり、罰ゲームとして乳首に洗濯バサミをつけるなんてことは少なくはないのだろうが。
しかし、そんなものは芸人という特殊な職についているからであって、一般的に男性が乳首をどうこうする機会なんてあるはずがない。
程よくアルコールが回っている脳内で、男の乳首だなんていう真面目に考えなくてもいい事に対して思考を巡らせていた俺は、勇斗が周囲を気に掛けることもなくズカズカと俺の席の方へ近づいてきたことに気が付かなかった。
勇斗が座敷に座る俺の目線に合わせて屈むと、どこに焦点があるかも分からない据わっている目や、ほんのりと紅く染まっている耳が鮮明に視界に入ってくる。
ああ、こいつ本当に酔ってるんだ。
酒が弱いはずではない勇斗がこんなにも酔っている姿を見る機会はなかなか無い。
そもそも、普段はアイドルや役者としての都合上、飲酒の機会などほとんどなく、仕事に支障が出ないよう、普段から酒は控えているメンバーも多い。
けれど今日は、ライブの最終日を終えた打ち上げの席で、明日からはメンバー全員に数日間の休暇が与えられている。
だから今夜は、少しだけ羽目を外すことが許される夜だった。
「じゃあさ、仁人。確かめてみようよ。」
「はあ!?、ちょ、、はや、とっ、」
ぱちっ、と視線が合ったかと思えばとんでもないことを言い出すこいつは、いきなり俺のパーカーを雑に捲りあげ、もう片方の手で俺の横腹をするりと撫でる。普段こんなにも密着する事など無い相手に厭らしい手つきで身体を弄られて、身体がビクッと反応してしまったのは仕方がない事だろう。
周囲の人間は、そんな俺たちの異様な光景を誰も目もくれず、各々今日の公演についてだの、最近勢いに乗っているアイドルの話だの素面の時以上に熱く語り合っている。全員それなりに酔いがまわっているのだろう。
勇斗は目的であった場所へと触れると、
「ぺったんこ、、」
と小さな声で呟く。
「、っんたり前だろ!!はよ退け酔っ払い!」
別に男の俺が腹を立てる必要なんて無いのだが、勇斗の言い回しやらこれまでの行動も含め、改めて言われてしまえば無性に腹が立った。
手を止めない勇斗を制止しようとするも、うまく力が入らない。アルコールのせいか、それとも勇斗の指先が予想以上に熱かったせいか、声がうまく出せなかった。
「仁人耳赤くなってるね。感じてんの?」
挑発的なその発言に苛立つ余裕もなく、熱を持った声で耳元で囁かれ、背筋にぞくりとした感覚が走る。
勇斗の熱い指の腹で胸の飾りをゆっくりと円を描くように撫でられ、甘く疼くような感覚に襲われて、思わず身をよじる。
「っ……! やめ、勇斗、ここ、みんな、、」
「誰も見てねえよ。今は俺に集中して」
そう言いながらも、勇斗は周囲をチラリと確認する素振りを見せた。確かに、他のメンバーはそれぞれ酔った勢いで話し込んでいて、こちらに注意を向けている様子はない。しかし、此処は個室とはいえ完全にプライベートな空間という訳では無い。いつ誰が此方へ視線を向けても可笑しくはない。
それなのに勇斗は手を止める様子もなく、親指と人差し指で、俺の乳首を優しく摘まみ、軽く転がすように刺激してくる。最初はただのからかいだったはずの触れ方が、徐々に意図的で、執拗なものに変わっていくのがわかった。
「ん…っ」
小さく漏れた声に、自分の顔が熱くなる事を自覚しながら、勇斗へと視線を向ける。
勇斗は目を細め、満足げな、ほんの少し意地悪な愉悦が滲んでいるような笑みを浮かべている。
「ほら、感じてるじゃん。仁人、意外と敏感だね」
「ち、違う…。ただ、くすぐったいだけ …」
嘘だった。普段なら気にも留めないはずの場所がアルコールがまわっている状態でも気付いてしまう程、熱を持って疼き始めている。勇斗の指が少し強めに押し込むと、甘い痺れがつま先まで広がった。
勇斗はさらに身体を寄せてきて、俺の耳に唇を近づける。
「じゃあさ、もっと確かめてみる?俺の部屋で」
俺に判断を委ねるような誘いに対して、拒否の言葉を探すが、妙に真剣で俺を捉えて離さない瞳に見つめられてしまうと、喉が詰まって出てこない。
「……ばか」
小さく呟いた声は、まるで了承のように聞こえたらしい。勇斗がにやりと笑って、ようやく手を離した。