芽が出た。普通に嬉しい。
朝、花壇に水撒きをしていると、カナデが出て来た。
「事務所?」
俺が聞くと、頷いて門を開けて出て行く。毎朝の日課。俺はホースをまとめてカナデの後を追った。
「来なくて良い」
目も合わせずにそう言われる。
「俺も事務所に用があるの」
俺がそう言うと、溜息を吐かれた。
あんな顔を毎日させるのが正直辛い。でも行くなとも言えない。だから付いて行く。自分でも自分が止められなかった。
「そうだ。帰りに昼食って帰ろう」
笑顔で元気に言う。
「良い感じの店を見つけたんだわ。一緒に行こ・・・」
途中まで言った俺を振り返るカナデ。瞬間俺の足の甲に激痛が走る。
「いっ!」
足を見ると、長い針が刺さっている。スニーカーを貫通して。地面にまで刺さったそれは、完全に俺の足を止めた。
カナデは何事もなかった様に歩き出す。
行動が過激過ぎる・・・。
「何してるんですか」
自分で呼んだ救急隊員に言われた。
「何してるんでしょう・・・」
我ながら情けない。
「急いで治しますか?」
「・・・お願いします」
部分麻酔を太腿にブスリと刺されて針を抜かれ、俺は病院に連行された。
治療を終えて家に帰ると、もう昼を回っていた。
カナデは帰宅済。ホント何やってんだか。
俺は、カナデの様子を見る為に2階に上がった。カナデの部屋のドアは開いている。前まで行って中を覗くと、薄暗い室内にカナデの姿。締め切ったカーテン、テーブルの上の小さなランプ。ソファに浅く腰掛けて何かの作業中。いつかのデジャブ。
俺は、開いているドアを二回ノックし、中に入った。
合図したんだから、別に良いよな?
「さっきの痛かったけど、別に気にして・・・」
気にして無いよ。
そう言おうとして固まった。
「お前、何してんの?」
「メンテナンス」
カナデは、何でもない様に答える。
ひとつずつチェックして組み立てて行くその手際は、迷い無く正確で「慣れ」を感じさせた。
拳銃。
この世界ではよく見る物ではある。だが、まさかこんな小さな女の子が持っているとは思いも寄らなかった。
「どしたの?それ・・・」
「買った」
「・・・マジか」
「アンタ持って無いの?」
手を止めずにカナデは聞いてきた。
「無いけど」
俺は答える。それを聞いて、少し間を開けてカナデは「ダサ」と小声で言う。
ダサいのか?持ってないとダサい物なのか?
顔から汗が出た。
持ってないからって何だよ。償い出来てんだから誰にも文句は言わせないぜ。
「そんなん持ってんなら、どんどん償えよ」
悔しさからか、俺は普段より大きな声でそう言った。拳銃を指差しながら。
「っるさいな」
鬱陶しそうに言い返すカナデ。そんな様子に俺はヒートアップした。
「何だか知らないが、償わないでもたもたしてるからジェイも愛想尽かして出てったんじゃねーの?」
カナデの目付きが変わった。
やばい!
そう思った時には遅かった。
カナデが自分の頭に手を回したかと思うと、一瞬で視界が真っ暗になる。
でも今度は見えた。髪の中からさっき俺の足を貫通させた長い針を出して投げる所。それが、俺の眉間に刺さった。
見えた所で、結果は変わらないんだがな。
気が付くと、白い天井が見えた。
「・・・またかよ」
こんなに扱い難い女は初めてだ。もう、どうして良いか分からん。
俺は溜息を付いた。
女の扱いには自信があった。死ぬ前は顔の良さを使って多くの女と関係を持った。それが多分、俺の罪なんだろうが。
そう、俺は最低なクズだった。俺は・・・。
高校時代の仲間と、卒業後も良く会っていた。大体皆大学に通うか、浪人生活をしていた。俺だけが完全プー。
だが俺は飲み会を開く度に呼び出された。理由は簡単。俺が居ると女が集まるから。
自慢だが、俺は顔が良い。と言うかそれしか取り柄が無い。頭も悪いし仲間も皆クズ。
「コウ、分業って分かるか?」
クズの仲間が言った。
「大きな仕事を工程毎に分けて、違う奴がそれぞれ担当するんだ。お前にピッタリなのが有るんだけど、やってみないか?」
全貌を見たら、最低な仕事だった。でも、細かく分けて一部分しか見えないと、それに気付かない。相手も喜ぶ。俺も気持ち良い。金が入る。何もマイナスな事は無かった。いや、無いように見えた。
俺は、クズ仲間から紹介された女と一晩寝て、クズ仲間のスマホで裸の写メを撮る、ただそれだけの仕事をした。
一回一万。払うんじゃ無い、貰うんだ。こんな良い話無いだろ?
何度も何度も何度も、繰り返しやった。クズ仲間も俺も毎日ハッピー。だがある日、クズ仲間がキレて俺を殴ってきた。
「お前、ナニ病気貰ってんだよ!」
何の事が分からなかった。
俺から回った女が水に落とされて、相手した客が発病して問題になったっつー話だ。
寝耳に水って、こんな事だろ?俺知らねーし。
慌てて病院行って検査した。
結果、発病して無いが、陽性だった。
いつ、誰から貰ったか分かんねー。どんだけの女に感染させたかも分かんねー。
俺、終わった。でも、現実はそこから先も続いてたんだ・・・。
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