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第三話 アイス

夏がもうすぐそこまで迫っている頃。

今日も『こんぺい糖ナントカ』のダンスを見せてもらった後、蒸し暑くじめじめする庭で棒アイスを食べていたら、バイオレットが今まで一度も訊かなかった事を訊いてきた。


「塚松君……弟さんの調子は、どうですか……?」

アイスが垂れる。

「……んぁ? ……あー……あいつ? なんかそんなに重大な病気って訳じゃなさそうなんだけど、うわっ、なかなか退院できないんだよなー。でも、まあ大丈夫大丈、っと、うん、大丈夫! バイオレットが心配する事じゃないよ」

「……? そうですか……?」

バイオレットは俺が必死に下へ下へと向かおうとするアイスと格闘していることが分からなかったらしく、怪訝に首を傾げられてしまった。ごめんごめんと説明する。

「あはは、そうですか。……弟さんが大丈夫そうでよかったです。塚松君春からずっと来てるから、弟さんも病気が長引いてるのかな、と思って……」

「んー……あー……そうだよなぁ。考えてみたら、あいつが退院してたら俺病院に来てないもんな。あれ、でも、そうなると……」


弟が退院したら、……会えなくなる?


「――……」



会えなくなる。


彼女は俺と同じようにそれを思って沈黙してくれているのだろうか?

いや、違うかもしれない。違うだろう。思い上がりだ。

でも、どうしても現実だと思いたい気持ちは胸を熱くさせる。


「……ま、まあさ、あいつが退院しても来れないわけじゃないし、あー……」

だんだん自分が何を言っているのかが分からなくなってきた。

ただ顔が熱く紅くなってゆく事だけが分かる。

あーっ!! なにやってんだ俺ーっ!!

「……会いに……来てくれますか……?」

「え?」

「あ、いえ、違、じゃなくて、な、何でもないです!!」

彼女は慌てて両手をぶんぶん振りながら言った。

うわ……っ

「……うん、会いに来るよ」

「――っ……あ……、ありがとうございます……!」


ぼとっ


「わーっ!!」



今日の勝負はアイスの勝ちだ。

バイオレットに気を取られてしまった、俺の負け。

今回は彼女も何が起こったのか分かったらしく、くすくすと笑われてしまった。

あーだから……、なんでそんなに……


アイスが無くなった棒が、手からはなれる。


思わず手を伸ばして、髪に触れる。

「可愛いなぁ」





あれ、今俺何言った?

え!?



バイオレットは動かない。石のように固まってしまった。

うわぁーやっちまったよぉー!!!おかぁーさーーん!!


「……手が……]

「え? 手!? あ、ごめっ」

慌てて髪から手をはなす。

うわぁそんなに駄目だった!? そんなにやばかった!!?

「あ、違うんです! あの、触ったから……、」

「ごめんっ、ホンット悪い!!」

ナンパを超えてセクハラか!? え、もしかして俺痴漢!?

「そうじゃないんです! ただ、手が、……塚松君の手が、見えたんです……」

「……へ……?」


見えた? 手が?




「……じゃあ、こうすれば……俺の顔も見えるかな……」

「え?」

衝動を抑えるのには、まだまだ俺は若すぎて。

気が付いたら窓の奥まで手を伸ばしてて。

目を閉じて。



一瞬 触れた唇は、温かくはなく。



「――……顔、が……、」

「……見えた?」

「……はい……っ…!」





触れさせて。触れれば感じて見えるなら。

俺を見て。どうしても君が好きだから。





……痴漢って叫ばれなくてよかった……;











――心配しないで。会えなくなる日は来ないから。

あいつが退院する日は、来ないから。

でも、この時の俺には、それさえもわからず……。




帰り道。

看護師の哀れむ囁きは、俺の耳には聞こえない。




アイスは溶けて、原型はもうわからない。





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