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【彼女が雨に濡れて帰ってきたら】
玄関を開けた瞬間、冷たい空気と一緒に、ポタポタと水滴が床に落ちた。
「…何やってんの、傘は?」
リビングから顔を出した亮くんが、明らかに不機嫌そうに私を見つめる。
「急に降ってきちゃって…走ったんだけど、びしょびしょで」
そう言って靴を脱ごうとしたら、後ろから肩を掴まれる。
「動かないで」
彼は自分のフード付きパーカーを脱ぎ、そのまま私の頭に被せた。
温かさと、ほんのりシャンプーの匂いがふわっと広がる。
「俺の服なら、少しは温かいだろ」
「でも、亮くんが寒くなっちゃう」
そう言うと、彼は片手で私の頬を包み、
「俺より、お前の方が冷たいじゃん」と、真っ直ぐに見つめてくる。
そのままタオルを取りに行き、髪を乱暴だけど優しく拭いてくれる。
「風邪ひいたら、俺が看病する羽目になるんだぞ」
口ではそう言いながらも、拭く手つきは丁寧で、耳までそっと覆う。
「ほら、あったまれ」
そう言って、彼は自分の腕を広げた。
パーカーごと包み込まれると、外の冷たさなんてあっという間に消えていく。
胸元に顔を埋めていると、彼の手がゆっくり私のあごを持ち上げた。
「…こうすれば、もっとあったまるかも」
囁くように言って、唇が重なる。
雨音が窓を叩く中、その温もりだけが鮮やかに残っていく。
離れた瞬間、彼は小さく笑った。
「雨の日も悪くないな…お前が帰ってくるなら」