「わかってくれた、アリア」
「うん、やっぱりサーシャが一番だよ。美人でカッコよくて強くて優しくてわたしをいっぱい愛してくれるから」
テーブルの向かいに座っているサーシャが聞いてきたのでちゃんと答える。
領主様じゃなくて、サーシャが一番だとハッキリ伝えた。
「……ありがとう、私もアリアが一番だよ。でも、今聞いたのはここの数式の事。この計算式、理解してくれた?」
「へ?」
サーシャがペンでわたしのノートをつんつんしてくる。
……そうだった、今は数学の復習中。スリスリが嬉しすぎて完全に忘れていた。
つんつんされた箇所に書いてあるのは、ちょっと前に授業で習った数学の計算式。意味がわからなかったので放置していたもの。この数式がテストに沢山出たせいで前のテストでは赤点を取ってしまったのだ。
そして、そのことをしっていたサーシャは今日の勉強の課題として提案してくれた。
……うん。最初はこれとにらめっこしてた気がする……。
だけど、説明を聞いているうちに心が折れそうになった。頑張ろうと思ってサーシャの顔を見たら頭の中がサーシャでいっぱいになり、計算式のことはすっぱり忘れてサーシャの事ばかり考えてしまった。
……はぁ、愛は諸刃の剣だね。
「私のことを考えてくれるのは嬉しけど、まずはこれを頑張ろう。これを覚えておかないと、この先どんどんわからなくなっていくから」
「……うん」
この数式から逃げちゃダメだっていうのは頭ではわかっている。でも、心が持たない。
今までずっと勉強から逃げ続けてきたせいか、苦手意識が染みついちゃってて心が折れやすくなってなってるんだと思う。だからつい、目の前のサーシャという天国に逃げてしまう。
……サーシャがいないと勉強がわからない。でも、サーシャがいるとそっちに逃げちゃう。悩ましい問題だね。どうしたらいいんだろう……?
「私が逃げ道になっちゃてるのかな? 数式のことを考えるより、私のことを考えてた方が楽だもんね」
「……うん、ゴメン、その通りだよ」
結婚する前まではこんなにずっとサーシャのことを考える事はなかった。でも、結婚して何度も愛しあってからはずっとサーシャのことばっかり考えてる。
今だって、目の前にいるサーシャの顔が可愛いとか、匂いが落ち着くとか、ペンを持つ姿が綺麗だとか、スリスリしたいとか、そんなことばっかり考えてる。ホント、どうしたらいいのかな……?
「……じゃあ、ご褒美を用意しようか」
「え?」
「私の課題をこなす度に、愛の匂いのついた私の指を食べさせてあげるよ。どう?」
「頑張るよ!!!」
あの、ものすごく美味しい愛の匂い付きサーシャの指!
まだ少ししか味わったことはないけど、わたしの大好物ランキング1位の激甘カレーと覇権を争ってるほど美味しい。
あれを課題をこなすだけで食べさせてくれるなら、どんな課題でもどんどんこなすよ!
「やる気が出たみたいでよかったよ。じゃあ、頑張ろうね」
「うん!」
―――30分後。
「……完璧だよ。もうこの数式は大丈夫だね」
「うん!」
わたしはすっごく頑張った。
今頑張らないでいつ頑張るだと、脳に、心に、鞭を打ち続けた。
数式の文字にサーシャの指が重なって見えるほどに集中し、脳に「わたしは天才。やればできる子」と暗示をかけ続けた。
「ゆびっ!!!」
そう、全てはサーシャの指を堪能するために。
30分我慢し続けたわたしは、数式の理解と共に我慢の限界を超えた。
「ちょ、アリア!?」
「ゆっっっびーーー!!!」
わたしはテーブルを乗り越えてサーシャに抱きつき、サーシャの右手を丸ごとパックリ口に入れる。
指5本の同時食い。
人差し指とか中指とかは関係ない。
わたしにとっては全部がサーシャの指。違いなんてない!
「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……」
「……」
……ああ、美味しい。だけど、なにか物足りないような……。
「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……」
「……」
5本の指全部を、口の中で一本ずつじっくり味わった。
……全部美味しんだけど、やっぱりなにか物足りないような……。
「んぐ、んぐ、んぐ……あ、匂いを忘れてた」
指ではなく、サーシャの体から愛の匂いがしてきて思い出した。
……ご褒美は「愛の匂いつきサーシャの指」だよね。
普通の指でも十分美味しいけど、愛の匂い付きの指は別格。これじゃあ、せっかくのご褒美が台無しだ。
「ゴメン、我慢できずに飛びついちゃった。ご褒美のやり直し、いいかな?」
「……」
「サーシャ?」
サーシャの顔を見ると、真っ赤になって半泣きで震えていた。
……もしかして、また迷惑をかけちゃった?
わたしの動物園贈呈未遂の時に、過剰なスリスリをして迷惑をかけてしまった時のことを思い出す。
あの後にサーシャにやり返されて、これはキツイ、迷惑だよねって思ってたのに、また同じような失敗をしてしまったらしい。
……わたし、ホントに学習能力ないね……。
「サーシャ、ゴメンなさい。また迷惑を―――」
「アリア」
「うん?」
……もしかして、またやり返される?
そう思ったわたしは、自分から両手を差し出す。
いきなりやられるくらいなら、自分から差し出した方がまだ心の準備ができる。
……さあ! いっぱい食べていいよ!
「……ちょっと待っててね。今、準備してくるから」
「ほえ?」
わたしの差し出した手に気が付かなかったのか、サーシャは部屋を出て行こうとする。
……準備してくる? なんの?
「そうだ、愛の氷をくれると嬉しいな。そうすれば、愛の匂いも出しやすいから」
あ、準備って愛の匂いの準備のこと?
今もサーシャの体からはかすかに愛の匂いがするけど、指から出す愛の匂いほどじゃない。
……忘れてた。愛の匂いは愛の氷が原因だった。
わたしの過剰な愛の氷で、サーシャが苦しんで出るようになった匂い。
サーシャを苦しめてまで、味わいたいとは思わないよ……。
「あの、無理して愛の匂いを出さなくても大丈夫だよ……」
「愛の氷ちょうだい。いっぱい愛を込めていいから。お願い、早く」
「うっ……」
サーシャが半泣きのうるんだ瞳で見つめて来てお願い、というか命令してくる。
サーシャのお願いは叶えてあげたいけど、サーシャを苦しめたいとは思はない。
わたしが悩んでると、スリスリしてきて耳元で「お願い」と優しく言ってくる。
……うぅぅ~~~ムズムズするよっ!
もういい! 深くは考えない!
サーシャが愛のいっぱいこもった氷を欲しいって言うなら、喜んで出すよ!
あの時と同じ、ありったけの、いっぱいの愛を込める……。
「……愛の氷。はい、サーシャ。……食べてもいいけど、あの時みたいに無理しちゃダメだよ。サーシャが苦しむのは絶対にやだからね。苦しかったらすぐに吐き出してね」
「ありがとう。大丈夫、絶対に無理はしないよ。私の部屋で準備してくるから、30分くらいまっててね」
「うん……」
そう言ったサーシャは愛の氷を食べずに、手に持って自分の部屋に入っていった。
……ホントに、大丈夫かな?
無理はしないって言ってくれたけど、サーシャはわたしの為だったら多少の無理はしそうなのでちょっと心配だ。
―――15分後。
サーシャはまだ戻ってきていない。
30分くらい待ってて、と言ってたから後15分はかかるんだと思う。
30分……あの時と同じ時間。また、苦しんでるんじゃないのかな?
……ちょっとくらい、様子を見といた方がいいよね。目の前の部屋だし。
サーシャの部屋のドアに耳を当てて様子をうかがう。
「……」
普通に静かだった。
前みたいに、愛してるを連呼してない。
……心配のしすぎかな?
いつものしっかり者のサーシャなら大丈夫だと信じたい。けど、わたしの今までのやらかし具合を考えると不安になってくる。
さっき出してあげた愛の氷。もしかしたら、前みたいに思いがけないことになってる可能性だってある。
……ちょっと、のぞくだけでも……。
鍵がかかってたらあきらめようと思ったけど、普通に開いたので少しだけ中をのぞいてみる。
「……!?」
ドアの隙間からはサーシャの姿は見えなかった。だけど、ものすごく愛の匂いがした。
……こんなに匂いがするって、どれだけ苦しんでるのかな……。
サーシャの姿が見えないので、余計に不安になってくる。
ここからではベッドは見えない。もしかしたら、ベッドで倒れて起き上がれなくなってるのかもしれない。
「サーシャ……大丈夫、入るよ―――」
不安に耐えきれなくなったわたしは、声をかけながらゆっくり部屋に入る。
最悪の予感は的中したみたいで、すぐにサーシャがベッドに横たわっている姿が見えた。
壁の方を向いているので表情は見えないけど、苦しそうな息遣いが聞こえる。
「苦しいの! 大丈夫!? あっ、癒しの氷、食べる!?」
「はぁ、はぁ、はぁ……アリア……」
「癒しの氷っ! とりあえずこれ!」
どうしたらいいかわからないわたしは、とりあえず癒しの氷を出してあげた。
愛の氷の苦しみに効果があるのかわからないけど、これぐらいしか思いつかない。
「抱いて……ぎゅっとして……」
「へ?」
癒しの氷は顔を横に振っていらないと合図された。
代わりにぎゅっとして欲しいらしい。こっちに向き直って両腕を広げてる。
わたしが不安な時によくぎゅっとしてもらうけど、それに近い状態なのかもしれない。
気持ち的に落ち着かないとか? だから、癒しの氷よりぎゅっなのかな?
とりあえず、サーシャがそうして欲しいならぎゅっとしてあげよう。間違いなく、わたしの愛の氷が原因だし……。
「えっと、これで、いいの?」
サーシャが広げてる両腕に入り込み、一緒に横になってぎゅっとしてあげる。
……愛の匂いの出し過ぎだよ……ゴメンね……。
部屋の匂いだけでもかなり強いのに、サーシャの身体からはもっと強く愛の匂いがした。
「はい、約束のご褒美。いっぱい食べていいよ」
「んぐ……んぐ、んぐ……」
……美味しいよ。すごく美味しいよ。ありがとう、サーシャ……。
こんなに苦しんで出してくれた愛の匂いつきのサーシャの指。しっかりと、全部残さず味わってあげよう。それが今のわたしに出来る、最大の感謝だと思うから。
「んぐ、んぐ、んぐ、んぐ……」
「アリア、愛してる。もっと愛したい、もっとアリアを感じたい。いい?」
わたしは指を味わってるので声が出ない。だから、ぎゅっに力を込めて「いいよ」って伝えてあげる。サーシャならわかってくれる。今までずっと、そうしてきたんだから。
「ありがとう。もっといっぱい、私の愛を感じて。代わりに、いっぱい交わらせて貰うから」
味のしなくなった右手に代わって左手を口に入れて来る。
これも、愛の匂いと落ち着く味がいっぱいした。
わたしが匂い付の指を食べてる間、サーシャはずっとスリスリしてくる。
味がなくなったと思ったら今度は右手に戻って、味がしなくなったらまた左手……ずっとそれの繰り返し。
……嬉しいけど、ちょっと恥ずかしくなってきたよ。
結婚学の妄想ノートに近いことをしてる気がする。
こんなにも長い間、全身を使って優しくスリスリされたことなんてない。これがホントの特別なスリスリ……まじわるってことなのかな……?
「アリア、私は今凄く幸せだよ。もっと私を愛して。愛の氷、ちょうだい」
「んぐ、んぐ、ぷは! うん、愛の氷。はい」
「ありがとう。じゃあ私も……はい」
愛の氷と愛の匂い。
お互いに手をパックリしてずっと舐め合って見つめ合う。
……妄想ノートの光景だよ、これ。
サーシャは顔を真っ赤にしてうるんだ瞳でじっと見てくるし、きっとわたしも似たような感じになってると思う。だって、金色の瞳がキラキラしてて可愛すぎて目が離せないから。自分でも、顔が熱を持ってるがわかる。
愛の匂い、見つめ合い、特別なスリスリ……すごく、サーシャを近くに感じる。幸せだよ……。
結婚してから沢山愛しあってきたけど、今が一番幸せかもしれない。
……流石、愛の大ベテランのサーシャ。わたしのしらない愛しあい方を沢山しってる。
「愛してるよ、サーシャ」
「私も愛してるよ、アリア」
結構な時間……今日の勉強時間よりもいっぱい愛しあってしまった。
間違いなく、スリスリ時間の最長更新だし、愛の氷と愛の匂いを食べた回数も、今の時間だけでこれまでの合計を楽々超えてる。
途中からはスリスリも食べさせ合いもなくなって「ぎゅっ」としてただけだけど、十分に幸せだった。きっと、幸せをかみしめて、天国から現実に戻る時間だったに違いない。その証拠に、今のサーシャの顔はしっかり者の可愛いだけの顔に戻ってるし、舐め合ってふやけきった指も元通りだ。
「愛し合えて嬉しかったよ、アリア。……じゃあ、勉強を再開しようか」
「うん」
……いっぱい頑張るよ。こんなにすごい幸せを味わえるなら、なんだって頑張れる。
わたしの部屋に戻った後は数学の予習をした。さっき覚えた数式の応用編。サーシャがいなかったら絶対に解けない問題の数々。一つ一つ、丁寧に教えてくれる。わたしも一生懸命解いた。もう逃げようなんてこれっぽちも思わなかったし、サーシャの顔を見ても落ち着いていられた。
……そっか、サーシャはわたしが勉強に集中できるようにしてくれたんだ。
無理をして愛の匂いを出したのも、長時間スリスリしたのも、全部わたしの為だったんだ。
……ありがとう、サーシャ。愛してる。
声には出さない。せっかく落ち着かせてくれたんだもん、勉強の邪魔はしない。
サーシャはわたしに教えながら、自分の勉強もしてる。
わたしが声に出したらサーシャも声に出しちゃう。だから声に出さない。今は勉強の時間。集中するよ……。
『晩ご飯よ、二人ともーーー』
「わかったーーー!」
時間を忘れるほど数学の勉強をしたのなんて初めてだ。内容だってすごく充実してる。
復習に予習。今ままで逃げてた分はほぼ解消されたんじゃないかと思う。この調子が続けば、ホントに超優等生になれるような気がする。
「勉強は終わり! ご飯だから行こう!」
「うん、お疲れ様。行こうか」
サーシャはきっと、時間の切り替えは大事だとわたしに教えたかったんだと思う。
愛しあう時間、勉強する時間、ご飯を食べる時間……それぞれの時間を大切にしようって。
うん、その方がきっと充実した時間をすごせる。
次は勉強は忘れてご飯の時間。しっかり食べよう!
「「「 いただきます 」」」
今日の晩ご飯はハンバーグ中心のメニュー。
わたしの大好物の一つでテンションが上がるけど、この時間を大切にするって決めてるからね。
真剣に、しっかりと、じっくり味わって食べるよ……。
「もぐもぐもぐ……」
「「 …… 」」
「もぐもぐもぐ……」
……美味しい。じっくり味わうと、いつものハンバーグなのにすごく美味しく感じる。
サーシャの教えはホントにすごい。世界に広めてもいいと思う。
サーシャを神様にしてその教えを広める宗教、サーシャ教。教祖はもちろんわたし。
……あ、ついサーシャのことを考えちゃった。今はご飯に集中しなきゃ……。
「もぐもぐもぐ……」
「あんた、頭でも打ったの? 病院代は出さないわよ」
「へ?」
「どうしたの、アリア。気になることがあるなら言ってね、何でもしてあげるから」
「へ?」
わたしが真剣にご飯と向き合ってるとそんなことを言われた。
お母さんは相変わらずの人を馬鹿にした顔で。
サーシャは本気でわたしを気遣う様な表情で。
……え、なんで?
「私がなにかしちゃった? 謝るから、ご飯は楽しく食べよう。アリアには笑っていて欲しいから」
「えーーーと……」
笑顔だけど、ちょっと泣きそうな表情になってる……なんで?
「この、馬鹿娘!!!」
スパンッ!!!
「いったーーー!!!」
スリッパ折檻70%クラスをくらい、わたしは思わず叫ぶ。
意味がわからない! 理不尽過ぎる! これは絶対に抗議だよ!
「なんで叩くの!? なにもしてないよね!?」
「さっちゃんを不安にさせておいて、何もしてないはないでしょ!」
「え、いや、ちょっと待ってよ! わたし、ホントに何もしてないよ!」
確かに、なぜかサーシャは泣きそうになってる。でも、ホントに何もしてない。
ご飯の直前まで普通に話してたし、その前にはいっぱい愛しあって勉強も頑張った。
サーシャがこんな表情になる理由がわからない。
「……さっちゃんに謝りなさい」
お母さんが立ち上がり、完全怒りモードの腕組をしてすごんでくる。
……もうダメだ。これは逆らっちゃダメなパターンに突入してる。
理不尽過ぎて意味不明だけど、生き残るには謝るしかない。
「サーシャ、ごめんなさい……」
「……私こそゴメンね。でも、アリアが不機嫌な理由は教えて。私が原因なら直すから」
「え? わたしが、不機嫌?」
どうしてわたしが不機嫌に見えるの?
ご飯は美味しいし、サーシャと一緒だし……。
理不尽なスリッパ折檻の前までは幸せしか感じてないよ?
「アリア、何かを考えながら無言で食べてるから……。ハンバーグ、大好きだよね? いつものアリアなら、笑顔で楽しそうに食べるよ。不機嫌な理由は何? 教えて」
「全然不機嫌じゃなかったよ。えっと……、サーシャが教えてくれたんだよね? 時間を大切にって。だから、ご飯時間も大切にしようと思って、じっくり味わって食べてたんだよ。それ以外の理由はないよ」
「え?」
「え?」
サーシャの「え?」に、わたしも思わず「え?」と言ってしまった。
サーシャが教えてくれてサーシャの言う通りにしてたのに、なんで「え?」なの?
「……確かに時間は大切だと思うけど、私、何時そんなことを言ったんだろう? 最近?」
「晩ご飯の前だよ。愛しあって勉強して……そのあと、かな?」
「ごめん、アリア。何かを勘違いしてるんだと思う。時間は大切だけど、ご飯は楽しく食べよう」
「え? でも、サーシャ教の教えでは……」
「なに、その宗教みたいなの……」
「サーシャを神様とした教えだよ。あ、教祖はわたしだから安心して―――」
スパンッ!!!
「いったーーー!!!」
「何を馬鹿なこと言ってるの、あんたは?」
「なにっ! なんでまた叩いたのっ!? 理不尽過ぎるよっ!」
可愛くて温厚なわたしでも、もう怒ったよ! お母さんが怒りモードでも関係ない!
徹底抗戦する! お母さんが理不尽にわたしを叩くなら、こっちも理不尽な反撃をする!
「わたしはバカなんだよ! 叩かれ過ぎてもっとバカになったらお母さんのせいだって言いふらすから! サーシャ教の信者たちに告げ口して、お母さんなんか破門にする! 神殿に引きこもって、わたしだけがサーシャを崇めて過ごす! お母さんは立ち入り禁止!」
サーシャ教の結束は世界一固い。なんせ、全員わたしだから!
わたしが白と言えば黒も白になる。上も下も正義も悪も自由自在。まさに理不尽の権化。
お母さんも味わうといいよ、理不尽な扱いを! わたしの気持ちを!!
「あんた……」
お母さんが納得できない、理解不能って顔をしている。
それが理不尽っていう気持ちだよ!
サーシャ教を破門されたことに後悔して、理不尽に苦しむといいよ!
わたしは勝ち誇った気分でお母さんにふんぞり返る。
「アリア、もういいよ。落ち着こう、ね?」
「え?」
「はい、あーん」
「んぐ……」
サーシャが突然ハンバーグを「あーん」してくれる。
……あ、美味しい。
自分でじっくり味わって食べるよりも美味しい。
次々にご飯とハンバーグ、他のおかずを「あーん」して食べさせてくれる。
「もぐもぐもぐ……」
「ごめんなさい、クレア母さん。アリアとは後でじっくり話します」
「お願いね、さっちゃん。この馬鹿娘、さっちゃんと一緒になれたの嬉しくて頭のネジが2、3本飛んでるみたいだから」
「……ちゃんと元に戻します」
……ハンバーグとおかずが口の中でコラボレーションしててすごく美味しい。
サーシャという最高の調味料が加わってるので、口の中は天国だ。
この天国、サーシャにも味わってもらおう。
「はい、サーシャ」
「ん……」
「美味しい?」
「うん、美味しいよ。ありがとう、アリア」
「サーシャ教の教祖として、当然のことをしてるだけだよ。いっぱい食べさせてあげる!」
「……うん」
わたしのご飯はサーシャのおかげですでに食べ終わってる。
でも、サーシャのご飯はわたしに「あーん」していたせいでまだ食べ終わってない。
全部食べさせてあげるのが、教祖としてのわたしの使命だと思う。
「はい」
「ん……」
「はい」
「ん……」
そんなわたし達の様子見ながら、お母さんが無言で自分のご飯を食べている。
……きっと、すごく悔しいに違いない。
理不尽にサーシャ教を破門されてサーシャのお世話が出来なくなったのだ、わたしだったら泣いてると思う。……泣いてない。そこは流石お母さんだと思うけど、「初めてお母さんに悔しい思いをさせた」、それだけでも、わたしの中では大勝利だ。
「「「 ごちそうさまでした 」」」
わたしの歴史的大勝利と共に晩ご飯は終わり、お母さんは食器を片付け、お風呂に入ってくると言って去って行った。
今までは一番風呂は掃除をした人の特権だったけど、サーシャと一緒に入る為だから我慢する。一人きりの一番風呂より、あとでサーシャと入ることの方が絶対に楽しい。
とりあえず、お母さんがお風呂から上がるまでは部屋でのんびりすることにする。
「ふぅーーー、お母さんが上がるまで、何してようか? 勉強でもする?」
「まずは、ちょっとお話しようか」
テーブルの向かいに座ったサーシャが真面目な顔をして「お話しよう」と言ってくる。
勉強とか愛しあうんじゃなくて、ただのお話がしたいらしい。
真面目な顔をしてるけど、真面目に話すことなんてあったかな……?
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